浪花の名女優 浪花千栄子 アンコール
今回は『丼池』のアンコールを含め、全6本が上映されるが、小生は一応これにて打ち止め。前回、シリーズ第1作目となる『お父さんはお人好し』を観たが、このシリーズもこの日観るシリーズ7作目の『お父さんはお人好し 花嫁善哉』が最終作となる。昨日観た『続 番頭はんと丁稚どん』同様に、「ヒットシリーズ増産」時代を象徴するようなシリーズだが、こちらの方が安心感があるのは、花登筐と長沖一、民放のテレビ番組発とNHKのラジオドラマ発、大村崑、芦屋兄弟と花菱アチャコの違いから来るものだろうか?どっちが良く、どっちが悪いというわけではないが、「明るく、楽しく、家族で笑える」という点では、『お父さんはお人好し』シリーズに軍配が上がるように思う。しかし、1作目が昭和30年(1955)で6作目が昭和33年(1958)、4年間でシリーズ7本製作するなんて今じゃありえんね(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
お父さんはお人好し 花嫁善哉
邦題『お父さんはお人好し 花嫁善哉』
公開年:昭和33年(1958) 製作地:日本
製作:宝塚映画 配給:東宝 言語:日本語
モノクロ
評価 —
監督:青柳信雄 脚色:新井一 原作:長沖一
撮影:西垣六郎 音楽:神津善行
出演:花菱アチャコ、浪花千栄子、柳家金語楼、藤間紫、香月京子、森川金太郎、上田節子、川上賢二、小原新二、森明子、早川恭二、菊地司乃、木沢佳子、牧野児郎、環三千世、太刀川洋一、山田彰、夏亜矢子、頭師正明、鳥貝隆史、二木むつみ、竹野マリ、石田茂樹、安西郷子、丘寵児、二条宮子、楠川太英子
【作品概要】
1954年から65年まで実に500回にわたり放送された人気ラジオドラマ。関西喜劇ブームの先駆的な作品となり、大映、宝塚映画で7本が映画化。子沢山のアチャコ&浪花千栄子夫婦の三男坊(山田)が金持ちの令嬢(安西)と結婚。母(藤間)がなにかと干渉、浪花はお嫁さんに気を使う日々だが…。笑いと涙で日本中を湧かせたほんわかホーム・コメディ最終作。<引用:シネ・ヌーヴォ特設サイト>
1作目の舞台は萩之茶屋だったが、本作は郊外の模様。原作者の長沖一が羽曳野市誉田に引っ越したことで、ラジオドラマの舞台も羽曳野に転じたという。同様に、映画の舞台も羽曳野に移ったのだろう。今や誉田界隈も住宅地になったが、当時はまだ古い町並みが残っていたようで、時折、味わいのある街の風景が映像に収められている。誉田は、応仁天皇陵及び応神天皇を祭る誉田八幡宮を中心とした、近鉄南大阪線古市駅西側の地域だが、映っていたのは、どうも古くからの宿場町だった古市駅東側地区のようである。今となっては確認のしようもないが…。この一帯は、小生が通った高校の近隣地区でもあり、非常に懐かしいエリア。それだけに「え?これどこ?」とついつい思ってしまうのである。
本作は第6作目となる前作の『お父さんはお人好し 家に五男七女あり』の続編という位置づけで、続けて観ればより面白いのだろうけど、単体でも楽しめないわけでもない。第5作目までは大映作品だったが、6作目、7作目は宝塚映画の製作、東宝配給となった。この辺の経緯はよくわからないが、テーストが変わったわけでもないので、観る方からしたらどうでもいいことだったんだろう。ちなみに前作公開が昭和33年(1958)2月18日、本作が3月12日と、1か月も経たないうちに公開されている。前作上映時間が55分、本作62分。合わせて観ても2時間弱ということで、6作目と7作目を1本として観てくれってことかもわからない。知らんけど…。
1作目と同じく、結婚式の場面から始まる。今作では藤本家四女の豊子(演:環三千世)と富岡(演:太刀川洋一)、三男の浜三(演:山田彰)と手塚眉子(演:安西郷子)のダブル結婚式。司会は仲人の田村(演:丘寵児)。今回もまた「藤本家は子だくさんなので藤本阿茶太郎さんにご紹介いただきます」となって、例の東海道線の駅名にちなんで命名した子供たちを紹介してゆく。眉子の父、手塚社長(演:柳家金語楼)と夫人(演:藤間紫)は苦々しい表情でそれを聞く。このへんは、前作の流れからの表情と思われる。金語楼とアチャコ、浪花千栄子のカラミを楽しみにしていたが、金語楼はこの場面のみ登場で残念。また豊子夫婦もここだけの出演。今作は、浜三・眉子夫婦を軸にした物語になる。
新婚旅行から戻った浜三夫婦、眉子は明日から店を手伝うと言う。1作目では青果店だった藤本家だが、ここ羽曳野では焼き芋屋メーンの果物屋。先の結婚式でも「焼き芋屋をやっております」と自己紹介していた。さっそく店で働く眉子だが、手塚夫人が現れて「痩せたんじゃないか?辛くないか?姑小姑が多い所に行くのは無理なのでは?一度病院で診てもらいなさい」などと言う。阿茶太郎は「ちゃんと食べさせてます、病気ならこちらで病院へ行かします!」と。ちえ(演:浪花千栄子)は眉子に、明日から店の手伝いはせんといて、私らがやらせているように見えると言う…。
とまあ、「ここへ嫁に来た以上はお店を手伝う」と主張する眉子、「そんなんしたら、アタシらがやらせると思われる!」と言う阿茶太郎夫婦、「大家族の家に嫁入りして苦労してるんじゃないか…」と娘の心配をする手塚夫婦のそれぞれ「まあ、そう思うわな、普通は」のあれやこれやを62分で実にうまくまとめている作品。当たり前だが、悪人はまったく出てこない。これという大きな盛り上がりもないのに、ずっと頬が緩みっぱなしだった。
1作目でも感じたが、「おやすみ!」「おはよう!」と、みんながちゃんと言うのがいいなあと思う。実際、ラジオドラマでこれを聞いた世の多くの子供たちが、「おやすみ!」「おはよう!」と挨拶する習慣が身に着いたとか。高聴取率を裏付けるエピソードの一つではないか。
最後にちえが言う「やっぱり、ええ子はええ子を連れて来ますなあー」と、阿茶太郎に言った一言が、非常に心に残る。その言葉に「いやいや、ちゃうねん。ええ親にはええ子ができて、ええお嫁さんも来ますねん」と返してあげたい、アチャコ、浪花千栄子のよき夫婦のフィナーレであった。
何分、古い作品なので、途中で音声が不明瞭になったり、画面のフォーカスが乱れてしまったりする場面が多かったのが残念ではある。もっと早い時点でデジタル化していれば、劣化が最小限の状態での半永久的保存が可能だったのではないだろうか。この点は映画各社に対応を強くお願いしたいと思う。「残す」ということに、もっと力を注いでもいいんじゃないかと…。
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ってわけで、「浪花の名女優 浪花千栄子 アンコール」の鑑賞はこれで終了。最後にふさわしい、いい終わり方だったと思う。欲を言えば、他作品も観たかったが、なかなか世の中、自分の思い通りには動いてくれない(笑)。
(令和3年8月5日 シネ・ヌーヴォ)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。