【睇戲】お父さんはお人好し

浪花の名女優 浪花千栄子

先日観た『アチャコ青春手帖』同様、NHKラジオドラマの映画化である。原作者も同じく長沖一で、盟友の秋田實に通じる「明るく、楽しく、家族で笑える」作風が非常に好ましい。『アチャコ青春手帖』の稿でも記した、エンタツと激しい競争は、この人気長寿番組でアチャコが完全勝利を収めたことになる。それにしても、いよいよテレビが主流となる1965年までの10年間も続いたラジオドラマというのが凄いやおまへんか。

お父さんはお人好し

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

邦題『お父さんはお人好し』
公開年 昭和30年(1955) 製作地 日本
製作 大映京都撮影所 配給 大映
言語:日本語 
モノクロ
評価 — 

監督:斉藤寅次郎
脚本:伏見晃
原作:長沖一
撮影:本多省三
音楽:原六朗

出演:花菱アチャコ、浪花千栄子、堺駿二、益田キートン、阿井美千子、峰幸子、夏目俊二、伊沢一郎、桜むつ子、若杉曜子、中村玉緒、朝雲照代、初音礼子、東良之助、光岡竜三郎、上田寛、西川ヒノデ、林家染丸、西岡タツオ、藤川準、沖時男、富松アケミ、富松千代志、小林加奈枝

【作品概要】

54年、再びアチャコとのコンビでNHKラジオ番組「お父さんはお人好し」が始まるが、「アチャコ青春手帖」では母親だった浪花が一転して妻になったことで当初は苦情が殺到。しかし、回を追うごとに人気となり、10年も続く長寿番組となる。映画も大ヒットし、7本作られたシリーズ第1作。13人の子を持つ果物屋夫婦の物語を、喜劇の名手・斉藤寅次郎が監督。<引用:シネ・ヌーヴォ特設サイト

とにもかくにも「嫌味がない、罪がない」笑いなのである。毒を盛りながら相手をやり込める笑いが当たり前の今、こういう笑いは古いかもしれないが、大変楽しく過ごせた85分間だった。長沖一の上手さとアチャコ、浪花千栄子の絶妙のコンビネーションが光る。

オープニング、昔懐かしい大阪駅の全景から始まり、大阪市内を空撮。その間ナレーションが「この大阪には変わった人たちもおります……」(やったかな?)と語り、萩之茶屋の商店街がクローズアップされ、藤本青果店次男・清二(夏目俊二)の婚礼の場面に。司会進行(はたまた媒酌人かつ隣人にして家主)の古田はんを先代の林家染丸師匠。新郎の父、藤本阿茶太郎(アチャコ)が13人の子供を順に紹介。東海道五十三次を京都から順番に命名したと(笑)。今一つ、藤本家との関係がわからないが、来賓の木村はんが堺駿二。余興で今となっては非常に珍しい「唄入り観音経」を披露し、芸達者ぶりを発揮。下の動画はまさに本作のその場面。息子の堺正章も相当な芸達者だが、このおとっつぁんの血を引いているというのがよくわかる場面。こういうのがスイスイできちゃう芸人なり喜劇役者、ほんまおらんようになりましたなぁ…。


笑いと涙とそして笑いのストーリー。いかにも大阪発の物語という感じ。最近は「大阪発コメディ=吉本新喜劇」と何でもかんでも簡単にまとめてしまわれがちだが、そんな簡単に言われたら困りまするがな、というのが大阪人の本音であり、この作品なんぞを観ていただければ、「ああ、なるほどね」と、思いを改めていただけるんじゃないかと(笑)。

阿茶太郎の長男米太郎(伊沢一郎)は果物屋を継いではいたが、未だに独り身。洋装店の娘正代(阿井美千子)とは相思相愛の関係だが、正代の母親お文(初音礼子)がうんと言わない。初音礼子も懐かしい。テレビドラマではちょっといけずな大阪弁のおばあさん役などでよく見かけた顔。

阿茶太郎がお文に頼みに行っても、話はまとまらない。ところが、阿茶太郎の次女で戦地から未帰還の夫を待つ乙子(桜むつ子)を、お文の遠縁の石橋医師(益田キートン)の後妻にくれないかと相談。夫の帰還をあきらめていた乙子は、正代を米太郎の嫁に貰うのを条件に承知した。ところが突然乙子の夫の為夫(星十郎)が帰って来た…。引き上げ船が着く舞鶴へ向かう汽車の中、息子が父親との再会に心を躍らせるシーンに思わず涙腺が緩んでしまう…。昭和30年、まだまだ戦後の真っただ中だったのだ。小生が生まれるわずか8年前の話なのに…。

果物屋の商売は不気景で上ったりやし、まだまだ育ち盛りの子供がおるし、染丸師匠演じる家主からは家賃値上げやと言われるし、さらには為夫が詐欺に遭うわで、「ほんまにもう、むちゃくちゃでござりまするがな」状態の阿茶太郎夫婦。それでも「唄入り観音経」の木村はんのすすめで、アイスクリーム売り出すなどして懸命に働く。

そんな父親の苦境に子供達はそれぞれの立場で父親の苦境を救う努力をする。甲子園の売り子でファールボールの直撃を受けたり(笑)。百貨店の化粧品売り場で実演のモデルになったり。この百貨店の店長だかなんだかに西川ヒノデ匠。このお師匠はんもとても懐かしい顔。

結局お文さんも折れて、自分の洋装店を持参金代りに正代に与え、米太郎の嫁さんにやることを承知する、という結末。

後列左から二人目に、実に若々しい中村玉緒!

とにかく、どんな苦しいことがあっても大家族で結束して乗り切っていく姿に胸が熱くなる。単純なストーリーながら、繰り返すが笑いと涙を盛り込んだ、とてもいい作品だった。上方の芸人さんの懐かしい顔も見ることができた。娘時代の中村玉緒が二階でマンボ踊って、床が抜けて男の子がズボッと下でメシ食ってる染丸はんのとこに落ちてくるシーンなんて笑けてくる。そんなおもろいシーンが下の動画で見ることができる。

それにしても平日の真昼間にびっしり超満員チケット完売とは、それこそ「むちゃくちゃでござりまするがな」という塩梅だ(笑)。

(令和3年5月17日 シネ・ヌーヴォ)



 


3件のコメント

  1. 思わず懐かしいという言葉が出てきました。情所の子供という役なので、そんなにセリフはありませんでしたが、楽しく出演しました。

    1. コメントをありがとうございます。
      ご出演者からコメントをいただけて光栄です。このメンバーでの撮影、さぞや楽しかっただろうなと、思います。

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