【睇戲】「短編3本」

第16回大阪アジアン映画祭

毎回言ってるんだが、毎回の課題は日本のインディー作品や邦画の長編を増やすこと。これがなかなかうまくいかない。もう、華語片でいっぱいいっぱいなんだから。優先順位をつけると仕方ないけど、もったいなあとも思う。今回、上手い具合に『緑の牢獄』の上映に続いて、そのスピンアウト作品とでも言うべき『草原の焔』が、短編3本建ての一本として上映される。さらには日本のインディー作品も上映されるので、こいつはちょうどよい。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特別注視部門
Talker 題:Nategh

原題『Nategh』 英題『Talker』
邦題『Talker』 公開年 2020年
製作地 イラン 言語 無言
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:メールシャド・ランジュバール

出演:マルヤム・ヌールアフカン、アッバス・ジャラール

イラン映画って初めて観るなあ…。

わずか12分のショートムービーだが、2時間の長編を観たかのように圧倒された。登場人物は荒れた農村の片隅でひっそりと暮らす老夫婦のみ。二人は終始無言。声は出さないが、たしかに二人は会話していたことを、ラストシーンに思い知ることになる。

【作品概要】

長年、病気の夫の介護をし続けてきた老女。食事の世話や洗濯に追われる彼女の毎日が、ある日突然、終わりを迎える。その時、彼女が取った行動は…。<引用:大阪アジアン映画祭作品紹介ページ

食事のシーンに始まり、食事のシーンに終わる。夫婦が無言でシリアルのようなものをミルクに入れて食べる。多分、地下で飼っているヤギの乳だろう。我々は夫婦の「最後の食事」をはっきりと目撃する。すべてそんな視点でスクリーンを観ることになる。無言の「会話」、共に食事をする相手が突然いなくなった老婆は、ヤギを連れて来て食事の相手をさせる…。このシーンに、老夫婦が愛情に満ち溢れた日常を送っていたことを知る。ジワーっと胸に来るシーンであった。

【受賞】
《第18回ティラナ国際映画祭》最優秀学生映画賞
《タンペレ映画祭》《パレンシア国際映画祭》入選

OAFF2021『Talker / Talker』予告編 Trailer


特集企画《台湾:電影クラシックス、そして現在》
草原の焔 題:草地火焰 <ワールドプレミア上映>

台題『草地火焰』
英題『Green Grass, Pale Fire』
邦題『草原の焔』 公開年 2021年
製作地 台湾・日本 言語 閩南語、日本語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:黃胤毓(黄インイク)

出演:賴建宇(アトム・ライ)、陳凱勛(フェリス・チェン)、李國強(リー・グオチアン)

先ほど観た『緑の牢獄』のスピンアウト。再現ドラマの部、という感じかな。『緑の牢獄』が橋間おばあの証言をひたすら追いかけるドキュメント仕立てだったが、こちらはそこで語られた「死人の島」というものが、どのようなものだったのかを、3人の若手俳優の熱演で見せてくれる。そう言えば、この監督の作品でプロの俳優が出てきたのって、初めてだな。まだ3本目だけど。

【作品概要】

1935年、西表島。軍需拡大で活況を取り戻した日本の石炭産業は、西表炭坑で大規模な採掘作業を続けていた。鉱夫たちの中には外国人も含まれていたのだが、劣悪な労働環境とマラリアの蔓延から、脱走する人々(八重山の方言で“ピンギヌム”)も少なくなかったという。その夜も、3人の台湾出身のピンギヌムが、島から出る密航船を目指してジャングルを進んでいた……<引用:大阪アジアン映画祭作品紹介ページ

脱走してジャングルで焚火を囲む3人の青年の運命が、炭鉱で過酷な労働を強いられた者たちの運命を象徴している。一人は連れ戻され、一人はその場で射殺され、幸運にもその場を離れていたおかげで命拾いした者。逃げ延びるべくさ迷い歩く青年を演じた賴建宇(アトム・ライ)というのが、極限状態の人間を好演していた。短編映画やミュージックビデオで活躍する若手俳優らしいが、これを機に長編で起用されればいいなと思う。

命拾いしたものの、彼がそのまま生き延びて台湾に帰り着く、なんてことはまずあり得ないだろう。逃亡を助ける密航船に出会うこともないまま、命尽き果てるのだろう…。海にたどり着いたものの、絶望を感じたラストシーンだった。


インディ・フォーラム部門
にじいろトリップ <ワールドプレミア上映>

邦題『にじいろトリップ』
英題『A Rainbow-colored Trip』
公開年 2021年 製作地 日本 言語 日本語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:いまおかしんじ

出演:櫻井佑音、荻野友里、小林竜樹、歳内王太

これまた「ワールドプレミア」。そして課題のインディ作品。

監督のいまおかしんじこと、今岡信治はピンク作品では超メジャーな存在。昨年の大阪アジアン映画祭で上映され、夏には劇場公開、雑誌『映画芸術』の2020年日本映画ベストテンの1位に選ばれた感動作『れいこいるか』の監督でもある。そんな守備範囲の広い、いまおか監督が少女を主人公にどんな短編を仕上げるのか、興味のあるところ。いや~、これは面白かった!

【作品概要】

小学5年生の晴花は、両親(信孝と久美子)とキャンプ場にやってくる。離婚間近の二人は、険悪な雰囲気になる。翌朝、晴花は一人、森に出かけていく。願い事を叶えてくれるという滝を目指す。途中、同い年の男の子・大地と出会い、大地の道案内で、仲違いしながらも滝にたどり着く。晴花は願う。家族3人やり直せますように。……<引用:大阪アジアン映画祭作品紹介ページ

これねえ、ミュージカル仕立てってことだけど、小生には「世話物」の浄瑠璃って感じでした(笑)。主人公の晴花(演:櫻井佑音)と森の妖精的存在の男の子(演:歳内王太)の歌とダンスが一種の道案内の役目を果たすのだけど、これはまあ、義太夫節ですな(笑)。その辺は監督さん、意識はないようだけど、小生のような歌舞伎、文楽好きには、どうしてもそう見えてしまう。まあ、そんなもんですわな。

撮影は昨年4月1日から4日間。丁度、COVID-19の第一波が最盛期を迎えようとしていた頃。スタッフには撮影の継続を疑問視する声もあったそうだが、「今、撮らなきゃ、もう機会はない」ということで、細心の注意を払いながら撮影を継続したと言う。子役二人が子供から少年少女になりつつある時期というのは、この瞬間しかないということらしいが、ほんとそういう意味では、子役二人にはいいタイミングだったんだなというのは、観ていてわかる。かわいいんだわ、マジで。これを過ぎると、ちょいと憎たらしくなるからね(笑)。

母親役の荻野友里がいいね。大変好みです(笑)。ドラマにもちょいちょい出ているようだが、もうテレビでドラマを観なくなって久しいので、知らない(笑)。

わずか39分の短編だが、伝えたいことが凝縮された濃厚な作りは、短編ならでは。ラストシーンも湿っぽさはなく、親子3人はこれからもいい関係が続くんだろうと思わせる終わり方で、両親の離婚話でありながらも、幸福感を感じることができた。

(令和3年3月6日 シネ・リーブル梅田)



 


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