【上方芸能な日々 落語】月亭文都春の独演会 BUNTO FACTORY vol.13

落語
入門35周年記念
月亭文都春の独演会  BUNTO FACTORY vol.13

昨年11月以来の落語。ようないですな、こういうことでは…。こういう「人の話を聴いて頭の中で想像して楽しむ」という行為を怠っていては、ボケるのが早まるばかり。「ボケるのイヤやったら、ちゃんとしましょ」というところだが、なかなかそうもいかない時勢でもあり、個人的事情であったり。大体、文都師匠の会自体がいつ以来のことやら…。まことに義理の悪いハナシである。

この日は、その文都師匠恒例の春の独演会「BUNTO FACTORY 」へ。入門35周年を記念した今回は、ゲストに師匠の八方師を迎えて、文都師が通った大阪市立高津小学校が元々あった場所に建つ、文楽劇場での開催。当日配布のプログラムには、師の幼少の頃の界隈のことも書かれていて、今は千日前通の阪神高速高架下になんとなく面影を残す「高津入堀川」についても触れられている。そうか、泳いでたんか(笑)。小生は千日前通に市電が通っていたんを微かに覚えているが、まあ、そのあたりまでの記憶だ。

<ネタ帳>

「手水まわし」 秀都
「蔵丁稚」 文都
「崇徳院」 八方
  ~仲入り~
「元猫」 天使
「鬼の面」 文都

三味線 岡野 鏡

まずは秀都の「手水まわし」から。彼は上手いのである。で、そこまででもある。これは彼の入門以来、ずっと感じていること。色々と工夫の跡も見られたけど、物足りない。最初から上手いだけに、何かのきっかけでぐ~んと伸びる逸材だと思っているんで、いつどんなきっかけに巡り合うかやろなと。まあ、大学の後輩でもあるということも含め、見守っていってあげたいなと思わせる子。

続いて文都さん登場で、約半数に制限された客席のボルテージ上がる。本日口演二題のうち、最初のネタ「蔵丁稚」。上方らしい、芝居好きの丁稚のハナシ。この手のネタは上方には実に多いが、やる本人が芝居好きでないと、聴いててもオモロない。もっとも、芝居に詳しくない人や芝居にさほど興味のない人はやらんとは思うけど。一方で、客が芝居を知ってないとこれもまたオモロない。「何のハナシしてるん?」ってなもんだ。で、この「蔵丁稚」、噺の運び、展開が実に秀逸。「転がし方」を心得てはる、という感じで、我々も心地よく転がされて喜んでいるというような。

八方師匠登場で、さらにボルテージ上がる。八方師の落語を聴くのはホンマ、超久しぶりのことで、大いに楽しみにしていた。「楽屋ニュース」やNHKの「漫才祭り」の司会ではない、落語をやる八方師匠はホンマ久々。ネタは「崇徳院」。心なしか、ややコンパクトに収めたのかな?って気もしたが、実際どうやったんでしょ?「なんか八方ちゃん、落語上手になってへん?」と思ったとか、思わなかったとか…(笑)。

モタレで天使。すっかりおなじみの「元猫」にて。聴く機会が少ないからなんだろうけど、天使=元猫という図式が小生の中で出来上がってしまっているのは、残念だし、機会が少ないということで天使にも申し訳ない。彼女の猫愛が存分に伝わるか、と言えばそういうわけでもなく…。そこがビシビシ伝われば、このネタもさらに一回り大きくなるのでは?などと思いながら聴く。

トリはもちろん文都さん。最近、めっきり聴くことがなくなった「鬼の面」。やる人少ないね。小生の知らないところでバンバンかかってるのかもしれんけど…。ちょっとしたてんご(≒いたずら心)が、純真な少女の心を大きくかき乱してしまうことに…。大人相手ならこんなことにはならんだろうけど、なんせ相手は子守奉公の12歳。ましてや田舎育ち。まあ、当時の池田は田舎の象徴みたいな土地。今は全然ちがうけどね。どこかに民話の語り聞かせの香りを漂わせながら、オチまでほのぼのと。この手のハナシ文都師の聞かせどころ。

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師匠の八方師をゲストに迎え、自らが育てた弟子二人とともに務める高座は、この人の会らしい温かみを感じる。世界中が心がザワザワしている昨今。自分もまたザワザワしているのだが、せめて落語を聴いている時間だけは、そこに描かれる時代や情景に身を置きたいもの。それを叶えてくれたひとときだった。

(令和3年2月14日 日本橋国立文楽劇場小ホール)



 


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