【睇戲】『ノーボディ』(台題=有鬼)<ワールドプレミア上映>

第15回大阪アジアン映画祭

今年の大阪アジアン映画祭も、小生はこの作品がラストとなる。

ABCホールから急ぎ、梅田ブルク7へ向かう。実質30分弱で移動せねば上映開始に間に合わない。一瞬タクシー乗ろうかと思ったが、オーソドックスに阪神電車で梅田へ。若いころなら、歩いてたと思うけど、無理はやめとけとの心の叫びに従う(笑)。

おお!レスリーさま!!なんと麗しいご尊顔でありましょうか!

映画を観る前に、だれでもやると思うけど、ネットで現地のポスターやチラシを見たり、予告映像を見たり、現地のメディアの寸評や実際に観た人の評価なんぞをざっと見て、作品のアウトラインはうっすらとでもつかんでおくだろう。これ、今はネットで簡単にできるけど、ネットのない時代には、映画雑誌を立ち読みしたり、あらかじめ手に入れておいたチラシや『ぴあ』などの情報雑誌の簡単すぎる「あらすじ」などでしか、前情報をつかむことができなかった。今から思えば、よくそんなことしていたなぁと感心する。小生は香港から『電影雙周刊』、『銀色世界』の2つの映画情報誌を国際定期購読し、さらには『香港ポスト』に『香港通信』、日本で発行されていた『香港電影通信』で香港映画限定ではあったが、比較的多くの情報は仕入れていた。だから、週末に香港へ最新作を観に行ったり、「東京のどこそこ映画館で一夜限りの上映!」なんてのを有給とって観に行ったりもしていた…。いやー、アグレッシブだったねぇ、カネがあったね(笑)、二十歳代の俺は…。

今やそんな気力はまったく失せてしまったけど、今回観た作品もほとんどは前情報は頭には入れて観た。で、この「世界初上映」の『ノーボディ』だが、どこをどう探しても情報がない。う~ん、こいつは困った。原題の『有鬼』を見たところ、ホラー映画のような感じもするが、映画祭HPの紹介文を見ると、ホラーではなさそうだ。出演者の名前も見当がつかない。これは難物だ…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること

特集企画《台湾:電影ルネッサンス2020》
ノーボディ 題=有鬼 <ワールドプレミア上映>

台題『有鬼』 英題『Nobody』 邦題『ノーボディ』
公開年:2020年 製作地:台湾 言語:台湾語、標準中国語
評価:★★★
導演(監督):林純華(リン・チュンホア)
領銜主演(主演):簡扶桑(ジエン・フーサン)、吳亞鄀(ウー・ヤールオ)

【あらすじ】

近隣の住民たちから「怪人」と呼ばれ忌み嫌われている独り暮らしの老人(演:簡扶桑/ジエン・フーサン)。彼の住む部屋に、ある日一人の少女が侵入する。ジェンジェン(演:吳亞鄀/ウー・ヤールオ)という名のその少女は、老人の部屋の向かいに暮らす女と自分の父親の不倫をビデオカメラに収めるために、老人に近づくのだった。初めは老人を嫌悪していたジェンジェンと、彼女を一向に受け入れようとしなかった老人だったが、徐々に二人の間に奇妙な絆が生まれていく。それを知ったジェンジェンの母親や近隣の住民らは、二人の関係が不適切なものだと勘ぐり、老人を激しく非難する。しかし老人には、長い間抱えてきた誰にも言えない秘密があり……。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「ノーボディ」作品解説

「陰気な映画やなぁ」というのが、全編を通じての印象。上記の解説文では「怪人」と蔑まれている老人を「彼」と書いているが、映画が始まって数分もすれば、「彼女」であることがわかる。観ているうちに、なぜ彼女がバスに唾を吐くのか、近隣住民との交流を遮断しているのか、その理由も見えてくる。この作品もまた、昨今の台湾の風潮なのか、はたまた、大阪アジアン映画祭の路線なのか、LGBTをテーマの一つと据えた作品であることもわかる。

彼であり彼女でもある老人とその過去のほかに、老人の部屋に侵入し、父親の不倫現場を撮影する少女、ジェンジェンの家庭の複雑な愛憎劇もテーマとなっている。この家庭はややこしい。

まず、不倫している父親。言い分は「お前たちを不自由なく食べさせているんだ、それでも文句あるのか」。そしてピアノ教師の母親は、レッスンに通う若き男性ピアニストにほのかに思いを寄せている。が、ピアニスト君、実はジェンジェンの兄とラブラブなのだ。母親はそのラブラブの現場を目撃してしまうわ、兄貴はジェンジェンが老人と歩いているところを目撃し「援助交際?」と勘違いしてしまうわ…。

このややこしさが、現代社会を投影しているかのようで、なかなか見せる展開ではあった。「怪人」を演じた簡扶桑(ジエン・フーサン)は、演技経験はないらしいが、役にピタッとはまっていて、存在感が際立っていた。『アジアンパラダイス』の記事によれば、この人自身が非常に波乱万丈な人生を歩んできたらしく、その背景を思えば、なるほどと納得する演技だった。

監督の林純華(リン・チュンホア)は、アニメの世界では高い評価を得ている人とのことだが、今作はインディー作品を思わせる作風で、無名のキャストで質の高い作品に仕上げた手腕は、今後に期待が持てる。

兄が「援助交際?」と誤解したことが発端となり、近隣住民の老人への不満や蔑視が一気に爆発してしまう場面は、いたたまれない気持ちでいっぱいになる…。ジェンジェンと「怪人」に幸あれと、思わずにおれないが…。

観終われば、そこそこ「ええやん、これ」と思うも、やっぱり「陰気な映画」という印象は最後までぬぐえず。ま、このストーリーならそれでいいんだろうけどな。小生にとっての今年の「大阪アジアン映画祭」ラスト作品としては、インパクトに欠けたかな。

OAFF2020『ノーボディ / Nobody [有鬼]』予告編 Trailer

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というわけで、全11作品を観た。「よかった!」と思う作品がいくつかあった一方で、「選択失敗した!」と思わざるを得ない作品もあった。その振れ方がかなり大きかったのが今年の特徴。両極端だったなぁと。

では、恒例(かもしれない)に従い、個人的各賞を。

<作品賞>『少年の君』
<監督賞>黃綺琳(ノリス・ウォン) 作品『私のプリンス・エドワード』
<主演男優賞>易烊千璽(ジャクソン・イー) 作品『少年の君』
<主演女優賞>周冬雨(ジョウ・ドンユー) 作品『少年の君』
<新人賞>易烊千璽(ジャクソン・イー) 作品『少年の君』
<助演男優賞>龍劭華(ロン・シャオホア) 作品『ギャングとオスカー、そして生ける屍』
<助演女優賞>姚以緹(ヤオ・イーティ) 作品『ギャングとオスカー、そして生ける屍』

とにかく今年は、この異常な情勢の中で、最後まで感染者が出ることなく、映画祭が完走できたのは何より。関係者の尽力と観客の感染拡散予防意識の高さによるものと思う。来年は、何事もなくゲストも来阪し、色んな話を聞かせてくれるいつもの形で開催できるように…。皆さま、本当にご苦労様でした。映画を見せてもらえたことに感謝いたします!

(令和2年3月15日 梅田ブルク7)


 


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