【反送中】香港が崩壊してゆく…。暗黒の3日間 初日

小生が初めて香港の地に立って以来、ちょうど30年目のこの夏。香港はもはや、当時の煌めき、ワクワクなど、人をハッピーな気分にさせる空気を失い、激しい憎悪と暴力、えも言えぬ不信感渦巻く街となってしまった。たった一つの条例改正をめぐる対立が、あっという間に香港という、観光、グルメ、ビジネス…全方位に魅力的な街を、崩壊させてしまった。

30年に及ぶ香港との付き合いの中で、過去にも、憎悪や対立、暴力や伝染病で「もう終わったなぁ」と思わされることは、何度かあった。が、その度に、立ち直り、「そんなことあったっけ?」とケロッとしているのが、香港だった。それが魅力であり強みだった。

でも、今回だけはもうホントに「ダメやな…」と思った。対立する双方ともに立ち直るには相当な時間を要するだろうし、まだまだ対立は続くだろう。出口が見えないし、明日、何が起きるかすら予想できないのだ。

そんなことを思い知らされた8月3~5日の3日間だった。ブログにするのも気が重い日々だが、香港には随分お世話になったし、これからもお世話になることだろう。ならば、自分の言葉で記録を残しておくのが「スジ」と言うもんだ。振り返るのもくたびれるが、「暗黒の3日間」に起きたことを残しておく。もっと「暗黒」な日々が待ち受けているかもしれないが…。

「虚しく吠えた」だけの残念な行政長官会見

まず最初に。

暗黒の3日間」の3日目となった8月5日、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は記者会見を開いた。この日は早朝から「三罷(商店休業、職場放棄、授業ボイコット)」や「不合作運動(非協力運動)」により、フライトキャンセルが相次ぎ、MTRなど交通機関に大混乱が生じていた。会見はその真っ最中に行われた。

会見に臨む林鄭月娥行政長官 by “South China Morning Post”

林鄭行政長官は、長期化するデモや警民衝突によって、香港は「非常に危険な状況にさらされている」と厳しく糾弾。さらに「特定の要求の名の下に起こっているこのような広範囲に及ぶストや非協力運動による混乱は、香港の法と秩序を著しく損ない、我々全員が愛し、共に築いてきた香港を限りなく非常に危険な状況に追いやっている」、「香港政府は断固として法と秩序を維持し、信頼回復に努めていく」と述べた。

デモの参加者の間で使用頻度が高まっているスローガンを引用し、「デモ隊はおこがましくも『光復香港=香港を取り戻す、時代革命=私たちの時代の革命だ』などと主張しているが、これは国家主権に対する挑戦で、一国両制に危害を与える行為だ」と述べ、「あえて言うならば、デモ隊は香港政府を転覆し、700万を超す市民のかけがえのない暮らしを完全に破壊しようとしている」と糾弾した。

いつになく、語気を強めて会見していたが、言ってる内容はこの二か月間、ずっと一緒だ。正直、がっかりした。週末はデモ隊「先鋭化部隊」の新機軸「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」に警察が大いに振り回された上、彼らを支持する「街坊=町の衆、一般住民」のパワーにも押され気味だったことから、「解放軍出動も時間の問題か」という緊張感の中、それが「宣言」されるのでは?という思いで、会見に注目していた市民も多かったはずだが、完全に肩透かしを食らった。そしてやっぱり、騒動の根源である「逃亡犯条例」に関しては、まったく触れなかった。健忘症にかかったのか?と言いたいほどだ。ただ、現状で、このおばはんが言える精一杯、最大限が、ここまでだ。そこから先は中央が発言することになるだろう。ただ、虚しく吠えた、という残念な印象だけが残った会見だった。

暗黒初日、平和的集会とデモ行進「旺角再遊行」

暗黒初日の8月4日。一旦は、デモ行進が認められなかった「旺角再遊行」だが、上訴によって行進が認められた。午後3時、九龍・大角咀(Tai Kok Tsui)晏架街遊樂場(Anchor Street Playground)を出発。沿道には制服姿の警官はほとんど見当たらず、呼びかけ人グループによる沿道警備が行われ、平和なデモ行進となった。午後5時ごろ櫻桃街公園(Cherry Street Park)に到着して終了した。呼びかけ人発表で12万人が参加した(警察推計ピーク時に4,200人)。

参加した市民は、当然のごとく黒い衣服を着用。米国旗や英領香港時代の植民地旗を振る人も多く、「光復香港、時代革命」や「五大要求」を叫びながら行進した。

で、申すまでもなく、今の香港、これだけでは終わるはずがない。実際に終着地点にたどり着いた人はわずかで、デモ隊の多くが途中から定められたルートを大きくはずれ、彌敦道(Nathan Road)へ流れ込み、尖沙咀(Tsim Sha Tsui)へ向かって行進を開始した。

あっという間にデモ参加の市民で埋まった彌敦道

デモ隊の一部は、午後5時ごろに尖沙咀スターフェリー乗り場前の広場に掲げられた中国旗を降ろして海に投げ込むなど、次第に過激化してゆく。一般市民が減り、「先鋭化部隊」が行動の中心に移りつつある時間帯だ。

あららら…。五星紅旗、引きずり下ろしちゃった! これ、香港でも犯罪ですよ! by “端傳媒”
海に投げ込まれた五星紅旗。また怒らせちゃったね(笑)

上記は『明報』が作成したこの日の九龍半島でのデモ隊の動き。緑が元々定められたルート。赤及び青は「違法デモ行進」のルート。もはや、市民全員で「違法デモ」の時代である(笑)。

デモ隊新機軸「快閃游擊戰」!

午後6時25分には、「別動隊」が九龍と香港を結ぶ海底トンネル「紅隧」の出入り口にバリケードを築いて交通を妨害したが、わずか25分でこの場所での行動を終え、再び彌敦道へ。これが「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」の始まりである。

あれよのうちに海底トンネルを封鎖し、あれよのうちに離れてゆく…。この作戦、一体だれが考案し、指揮したのか?かなりの「策士」が背後に存在するとしか思えないのだが…

最初の衝突は尖沙咀で起きた。デモ隊は尖沙咀警察を包囲し、投石などを繰り返し、署内駐車場の車をことごとく破壊してゆく。そして挙句は放火だ。このところ、「先鋭化部隊」はやたらと火を使う。この日は、爆発物も署内敷地に投げ込まれ、爆発が数回起きた。林鄭行政長官が「健忘症か?」と疑いたくなるくらい、「逃亡犯条例」に触れないの同様に、「先鋭化部隊」もまた「逃亡犯条例改正の撤回!」という当初目標はどっかに行き、「対警察」の闘い一辺倒になっている。

尖沙咀警察の駐車場には、先鋭化部隊が投げ込んだ、歩道の舗装を引っ剥がしたレンガが散乱

その後、午後11時ごろまで尖沙咀、旺角(Mong Kok)で、警民衝突が何度も発生する。警察は「黒旗」を揚げて、催涙弾を都合9回発射し、ゴム弾やスポンジ弾も数発発射。「速龍小隊(Special Tactical Squad=STS)」が出動し、「先鋭化部隊」を次々と逮捕してゆく。その光景に留飲を下げる小生…。ちょっとデモ隊もやり過ぎ感が強まっているからね…。

彌敦道(Nathan Road)でぶっ放される催涙弾。つくづく「えらい時代になったもんやな」と、現地Liveを呆然と眺めるしかなかった…
この日も大活躍のゴム鉄砲を彌敦道でぶちかますデモ隊の先鋭部隊。見るたびに強力な武器に進化していないか?
違法者を取り押さえる「速龍小隊」のお兄さん方。この人たちはとにかく強いので、そこらの若者はひとたまりもない

ひとしきり衝突した最後の締めは、ガラクタに火をつけて「ドロン」する。火遁の術か(笑)。先述のように、火を使うことが増えてきている「先鋭化部隊」。何か切羽詰まった感じがするが、実際のところはどうなんだろう? ただ、ここでの火遁の術は、「次に行きまーす!」の意味があるのだろう、この間に彼らはMTRで移動して、黄大仙(Wong Tai Sin)に向かっていたのだった。

街坊、一斉蜂起で警民衝突はさらに激化

黄大仙は初詣で有名な道教寺院「黃大仙祠」の周辺に開かれた団地で、公営団地のほかに分譲タイプの高層アパートメントなどが林立している。

最近のデモの傾向として、香港島中心地以外に、こうした団地や新界地区など「道幅のある」エリアでのデモが増加している。デモ隊、特に「先鋭化部隊」の動きが取りやすく、色々な戦術を講じやすいからかもしれない、と勝手に推測しているのだが、果たして…。

尖沙咀及び旺角での衝突が一段落した午後10時ごろ、黄大仙警察署を「先鋭化部隊」が包囲開始。MTR黄大仙駅にはMTRで乗り込んでくる「後発部隊」を取り締まるため、警察車両が待機していたが、これを黄大仙の街坊=町の衆が包囲し、「警察は出て行け!」「警察不歓迎!」などと騒ぎだし、午後11時ごろには数百人の街坊が駅に殺到する事態に発展した。

警察車両を取り囲む黄大仙の街坊 by “端傳媒”
老若男女、上半身裸の人(笑)などなど、街坊一斉蜂起! by “端傳媒”
警官に激しく詰め寄る黄大仙の街坊。いつの間にか、「警察vsデモ隊先鋭化部隊」の衝突は、一般市民も巻き込む事態に発展していた by “South China Morning Post”
「もう我慢ならぬ!」とばかりに、警察は胡椒スプレー噴射で詰め寄る街坊を蹴散らす。警察の「武力」が一般市民にも向けられた瞬間だ by “端傳媒”

こうなると、収拾がつかなくなる。「先鋭化部隊」は警察署だけでなく、団地内の「紀律部隊」の宿舎にも攻撃を始める。「紀律部隊」は見て字の通り、社会の秩序安定のための部局のことで、警察以外にも消防、水上警察、税関、イミグレーションなど多岐にわたる。その職員と家族が居住する宿舎を襲うのだから、住民はたまったもんじゃない。「先鋭化部隊」と住民の小競り合いも発生し、事態は悪化する一方。同時に街坊の数も増えてゆき、「先鋭化部隊」とともに警察へ攻撃を行うようになる。

ついに、警官隊は催涙弾発射で強制排除に乗り出す。多くの一般市民がマスクもゴーグルもない無防備な状態で、催涙煙を浴びるという事態となってしまい、警察への怒りは一層強まることになってしまった。

ここに至って、一般市民をも巻き込んだ「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」は、一定の成果を挙げたことになる。無防備の一般市民にまで、無差別で「武力行使」する警察は、ますます「悪の権化」のように見なされ、さらに株を落とすことになるだろう。それでも警察は「無許可の集会」や「不法な道路占拠」を放置するわけにはいかないので、排除や逮捕の手を打つ。2か月間、この繰り返しだ。そしてこの対立は、これからも続いてゆくのである。なんと不幸なことだろう…。

催涙煙に逃げ惑う団地の住民たち。ご覧の通り、まったくの無防備状態だ。とにかく、警察と向き合ったらこういう目に遭うという時代になってしまったのだ
団地の街に立ち込める催涙煙
団地の住民は、自宅から魚を蒸すときに使う金属製のプレートを持ち出して、着弾した催涙弾が催涙煙を発生させるのを防ぐ。これはナイスアイデア!香港の各家庭に必ずあるし、高価な品でもないので、デモ隊もこれからは常備しておくといいよ(笑) by “有線電視新聞台画面”
催涙弾も飛ぶ激しい衝突の横では、「な~んか騒がしいけど、関係なしぃ~」と、ボーっと酒飲んでる連中もいる。こういう香港人、大好きです! by “香港01”

いつの間にか、普通の団地が衝突のメーンステージになっていた。警察と「先鋭部隊」の衝突は、住民が「先鋭部隊」の陣営に加わり、正真正銘の「警察vs市民」の衝突に変化した、そういう瞬間だった。

そんな一部始終を、ずーーーーっとスマホを通して、香港電台のTV32で現場の様子を観ていたが、さすがに日本時間午前4時半ともなると、いくら不眠症の小生でも限界だ。翌日にはどうせまた大規模な衝突があるんだろう。

結局、衝突は現地時間午前4時半(日本時間同5時半)ごろまで続いたとのこと。さすが、宵っ張りな香港のみなさんですな(笑)。

と、(笑)で締めくくらないと、気が重くなるだけだ…。

(おまけw)親中派は暴力反対集会

あっ、そう言えばこの日は、建制派(親中、親香港政府など)による「希望明天」なる「反暴力集会」が、ビクトリア公園で開催されていたっけ。一応、公平に記録しておく。

参加者は主催者発表で9万人、警察はピーク時で2万6千人と発表。しかしまあ、いけしゃあしゃあと「反暴力集会」なんて言えたもんだな。発起人には、あの「白シャツ軍団」事件で市民を襲撃した一団の黒幕と言われている、立法会議員の何君堯(ユニウス・ホウ)も名を連ねており、この日も大歓声の中、ステージに上がって「警察支持」と「暴力反対」を訴えているのだから、まるでコントだ。

多くの人が「バイト料」をもらって参加と、民主派は言うが…

9万人いるそうです(笑)。甲子園の満員札止め約4万6千人。およそ2倍(笑)。一方でこの人数にバイト料を出せる財力が親中派にはあるということだ。飲まず食わずで警察と対峙する「先鋭化部隊」が、市民から提供されるスナック菓子や飲料水で食いつないでいるのとは、えらい違いだ。ま、小生はどっちも支持しないけど。

色んなことが起きた一日だったが、これはほんの序章だった…。



 


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