【睇戲】『非分熟女』(港題=非分熟女)<海外プレミア上映>

第14回大阪アジアン映画祭
コンペティション部門|特集企画《Special Focus on Hong Kong 2019》

非分熟女
港題=非分熟女 <海外プレミア上映>

今年も「大阪アジアン映画祭」の季節到来となった。オープニング上映『嵐電』(日本・2019)からクロージング上映『パパとムスメの7日間』(越・2018)まで、51作品が10日間にわたり、上映される。もちろん、香港、台湾の作品も多数上映され、その多くが日本初公開。ワールドプレミア上映となる作品も多く、楽しみな日々となる。

昨年は気合入れ過ぎて、あまりにも多くの作品(16本!)を観た反動か、アジアン映画祭以降、ほとんど映画を観ていない、なんてことになってしまったので、今年は徹底的に厳選した。当然、観たいけど平日真昼間の上映だったり、優先順位で見送らざるを得ない作品も多数あって、その辺は実に悩ましい選択だったのだが…。

それにしても、今年のポスターのデザインは凄いね(笑)。

ってなことで、最初の一本は香港映画。まだ香港で公開されていない作品。こういう作品に巡り合えるのが、ナントカ映画祭ならではというもんだ。

かつてアイドルデュオとして旋風を巻き起こしたTwinsの一人、阿Saこと、蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)主演の「Ⅲ級片」。以前観た『セーラ』 (港題=雛妓)もⅢ級片だったよな…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題 『非分熟女』
英題 『The Lady Improper 』
邦題 『非分熟女』
公開年 2019年
製作地 香港
言語 広東語
香港電影分級制度本片屬於第Ⅲ級,18歲以上人士收看(=18禁)

評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

(監督):曾翠珊(ジェシー・ツァン)

領銜主演(主演):蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)、吳慷仁(ウー・カンレン)
主演(出演):吳浩康(ディープ・ン)、林德信(アレックス・ラム)、談善言(ヘドウィグ・タム)、郭奕芯(アシナ・コック)、太保(タイ・パオ)、岑珈其(カキ・シャム)
特別演出(特別出演):葉童(セシリア・イップ)、劉永(トニー・リウ)

監督の曾翠珊(ジェシー・ツァン)って聞いたことあるような…。と思っていたら、2016年の「香港インディペンデント映画祭」で上映された『河上變村(邦題=河の流れ 時の流れ)』の監督だった。てっきりインディー系の監督かと思っていたら、英皇集団なんて超メジャーの作品もやっちゃうんだ。そんな「てっきりインディー系」の人が、「超メジャー」でどんな作品を仕上げたのか、これはちょいと見ものかも。

<作品解説>

産院に勤務する小敏は、結婚直後からセックスレスで夫婦生活が破綻。自暴自棄な毎日を過ごしていた。そんなある日、老舗の大衆食堂“榮記”を営む父が病に倒れ、実家に戻った小敏は、新人料理人の家豪と出会う。当初は些細なことでぶつかり合う二人だったが、家豪の料理に対する真摯な思い、そして匂い立つような男の色気に小敏の心が揺れ始め…。
引用:第14回大阪アジアン映画祭HP

小生が香港暮らしを始めた1990年代のⅢ級片と言えば、すなわち「鹹濕片=スケベ映画」であることがほとんどだったが、最近のⅢ級片は、そこ狙いではなく、作った結果として、Ⅲ級と判断されてしまった作品がほとんどだ。元来、Ⅲ級の指定はスケベ映画にのみ適用されるわけでなく、殺人や過激な暴力シーン、流血シーンの多い作品にも適用されるわけで、小生のように「Ⅲ級片」と目にするだけで、チラシに顔を近づけてみたりするのは、いかに古い人間であるかという証ってことだ(笑)。

じゃ、この『非分熟女』がまったくエッチじゃなかったのか、と言えば、そんなことはなく、かなり「おやまぁ~、やっちゃいますか!」やら「あららら、そんな御無体な!」ってシーンが随所にあって、ホントにもう阿Saが体当たりで演じているのが、痛いほど伝わってきた。

そんなのや、あんなのをやってのけた阿Sa。アイドルデュオTwinsの阿Saから、大人の本格俳優・蔡卓妍として成長を遂げた彼女をこうしてスクリーンで観ることができるのは、時代廣場(Times Square)なんぞのイベントでTwinsに声援を送っていた一人としては、嬉しい限りである。

主演の阿Saは申すべくもないが、相手役の吳慷仁(ウー・カンレン)も台湾の超売れっ子俳優。この二人の起こす「化学反応」のようなものを大いに期待していたが、ちょっと厳しかったかな。

吳慷仁は慣れない広東語を頑張って使っていたし、一方でそのことで彼にストレスを感じさせない配慮なのか、あるいはそういう役どころだから彼を起用したのか、まあそんなのはどっちでもいいんだけど、「父親:台湾人、母親:香港人、本人:フランス留学帰り」で、茶餐廰で働くという、なんかとってつけたような役回りに、「そんなん、香港の若い衆から起用しなはれ」と感じた。まあ、きれいなケツしていたけど(笑)。しかし、茶餐廰の厨房であんなコトしちゃいけません、明日から毎朝、気になってA餐食えないではないか!(笑)。

上記解説に、阿Sa 演じた女主人公・小敏は「セックスレス」とあり、香港の解説記事の多くもそう書いているが、観たところは「セクッスレス」と言うよりは、「セックス拒否症」、もっと言えば前夫との「セックス恐怖症」とでも言うべきか…。最初はつれなく接していた男主人公、吳慷仁演じるところの家豪には、ああなるわけだからなぁ。「いや~、女の人ってわからんもんやなぁ」と、この歳になって改めて思う次第だ(笑)。これ、香港のとある評論では、

在悶熱潮濕的廚房,食慾色慾同時昇華,踏出女性身體自主第一步,探索更多生命中的可能性

って書いていた。「熱気ムンムンの厨房では、食欲と色欲が同時に昇華して……」。そうなんや、なるほどね、そういう映画だったのかと、これまた改めて思う次第だ(笑)。

他の出演陣では、女主人公・小敏に思いをいだく「草食系」の男を、林子祥(ジョージ・ラム)の息子、林德信(アレックス・ラム)が。本来はどっちかと言うと肉食系っぽい彼だが、意外にもはまっていた。

茶餐廰の店員の一人、紅毛に染めてた役で、小生イチ押しの若手俳優・岑珈其(カキ・シャム)。日本で彼の出演作は『29+1(邦題=30歳問題)』くらいしか公開されていないが、なかなか味のある俳優なので、もっと出てきてもらいたい。

そして! わが青春の葉童(セシリア・イップ)が、ええおばはんになっていたのには、歳月の流れの残酷さを感じずにはおれなかった。ま、言っても小生と同じ年。こっちも同様におっさんになっているわけだけど(笑)。

映画のもう一つのテーマには、消えゆく香港独自文化へのオマージュが感じられた。小生はむしろこっちのテーマに強く惹かれるものがあった。

消えゆく独自文化、この作品で言えば「茶餐廰」。そして道路に突き出した看板。看板が次々と撤去され、香港の町並もずいぶんすっきりしてしまった。

作品では、小敏の実家の茶餐廰(ちゃぁちゃんてん)の看板が危険だという事で住民から通報があった、ってことで強制撤去されるのだが、あんな感じで、香港がどんどん「別の街」になってゆくのは、やはり寂しい。

茶餐廰も、様変わりした。清潔になったのはいいが、店員がなんだかきびきびしていて、昔のような気だるい雰囲気が薄れ、暗号のような手書き伝票も少なくなった。日本のファミレスを意識したような店も増え、もはや茶餐廰とは呼び難い店も出現している。

こうした社会や文化の変化を取込んでいるところは、さすが曾翠珊(ジェシー・ツァン)というところだ。かつて「香港インディペンデント映画祭」で上映された『河上變村(邦題=河の流れ 時の流れ)』のテーマは、まさにそこだった。

んな感じで、随所に甘さも感じられる作品だったが、キャスト個々は光る演技を見せていたし、香港社会や独自文化への思いも伝わってきたので、よかったかな?

ところで、茶餐廰閉店時に、常連客へ配っていた辣醤(字幕ではラー油とされていたが、似て非なるものと思う)。小生も、在住中は近所の茶餐廰で、よく分けてもらっていた。やっぱり店オリジナルのものが美味い。XO醤よりも安くて使い勝手がいい。が、しかし…。分けてもらっていた店は、すでに店終いして久しい…。

しかし、夜9時上映、終わったら11時は、勤め人には厳しいな。金曜日だからよかったものの…。ま、毎年のことやけどな(笑)。

第38屆香港電影金像奬
「最優秀主演女優賞」ノミネート(結果待ち):蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)

《非分熟女》預告

(平成31年3月8日 シネ・リーブル梅田)



 


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