【上方芸能な日々 歌舞伎】第三回あべの歌舞伎「晴の会」

歌舞伎
第三回あべの歌舞伎「晴の会」

近鉄アート館、この季節の定番となりつつある「晴の会(そらのかい)」が、今年も賑々しく上演された。

第1回からのオリジナルメンバーの松十郎、千壽、千次郎の3人に、佑次郎、りき彌が加わったのが昨年。當史弥も後見として2回目の舞台を支えた。そして今年は、小生も以前から注目していた翫政が加わり、さらにはベテランの當十郎も参加。回を重ねるたびに出演陣が充実しており、いやが上にも、舞台への期待も高まる。

今年の出し物は、四世鶴屋南北の作『東海道四谷怪談』。季節柄、これ以上ないという演目。しかし、あのアート館特有の「コの字型」の客席、ステージで、どんな具合にこの物語を展開してゆくのか? 興味もあれば不安もある。大作を今回のために、初代亀屋東斎(=千次郎)がどんな脚色をしたのか? これも興味深いところである。

東海道四谷怪談

■作:四世鶴屋南北 ■改訂:亀屋東斎
■監修:片岡仁左衛門 片岡秀太郎
■演出:山村友五郎

 

<配役>
民谷伊右衛門:片岡松十郎
直助権兵衛/小汐田又之丞:片岡千次郎
お岩妹お袖/喜兵衛孫娘お梅:片岡りき彌
小仏小平/奥田庄三郎:中村翫政
後家お弓:片岡當史弥
按摩宅悦:片岡佑次郎
女房お岩/佐藤与茂七:片岡千壽
四谷左門:片岡當十郎

なにせ長い長い物語で、通しでやると5~6時間かかるのを、今公演用にダイジェスト的に芝居を構成し直さねばならない。そこを千次郎が担い、さらには場の合間合間に語り手の亀屋東斎として舞台に上がって、人物相関や端折った個所の展開なんぞをしゃべってくれる。これなら初めて観る人にも親切と言うもんだ。語り口調も、講釈師ほど角張らず、落語家ほど砕けておらず、程よい塩梅だった。その千次郎は、直助権兵衛と小汐田又之丞の二役でも活躍。芸域の広さを万遍なく披露したという印象。今公演での最大の功労者と言える。

二役では、この他に、千壽がお岩さんと佐藤与茂七、りき彌がお岩の妹お袖と伊藤喜兵衛の孫娘お梅、翫政が小仏小平と奥田庄三郎を勤める。皆、それぞれに精一杯、役を勤め分けていたが、お岩と与茂七という悲劇のヒロインと二枚目の二役で、化物になっても武家の妻の忠義なのか、伊右衛門を直接は呪い殺さなかったお岩に代わって、伊右衛門を討つ与茂七を上手いこと見せていた。千壽の立役もなかなかなもんだねぇ、と思った。

そして圧巻、見どころは、やはり「髪梳き」。毒薬で顔が醜くなったお岩を、長唄の『黒髪』(だったっけ?)の調べに乗せて、哀切感たっぷりに演じていた。二階席でじっと舞台を見守っていた師である秀太郎丈の目にはどう映っていただろうか?

見せ場その二としては、「戸板返し」があるのだが、普通は戸板に打ち付けられたお岩さんと小仏小平を一人の役者が二役で演じるための仕掛けだが、今公演では、二役ではなく、二人の役者で演じた。これはこれで「そういうもんだ」として観れば、特に不満はない。

お岩を熱演の千壽については上述の通りだが、小仏小平と奥田庄三郎を演じた、「晴の会」に成駒家から初めての参画となった翫政も好演していた。まだ20歳代の超若手である。彼は上方和事にふさわしい、いいキャラを持っている、大いに期待できる人材。どうか皆さんもご贔屓に!

幕切に向けて「だんまり」の場面。伊右衛門、直助権兵衛、与茂七の暗闇での無言で探り合いに、水を打ったように静まる客席。どの席から観ても、役者が間近に見える近鉄アート館の空間ならではの緊張感。伊右衛門、与茂七の討ち合いの激しさの合間にチラリと覗く足の筋肉が、一級の陸上選手のようで美しい。筋トレとかで作った肉体でなく、芝居の中で、稽古の中で自然と付いた筋肉が躍動する。こういうのは、なかなか松竹座の二階席や三階席からはわからないだけに価値があった。

幕切後に、激しい討ち合いを演じた、松十郎、千壽、千次郎の三人で、切り口上。拍手は鳴り止まず、カーテンコールで演者がずらっと並んで、これに応える。いや~、うまくまとまったなあと、まずそこに感心。

「色悪」伊右衛門を演じた松十郎は、ふっとした瞬間、師の仁左衛門を思わせる演技を見せていたが、やや教科書通りすぎた感があったかな。そのため、お岩へのDVもやや中途半端な感じがした。でもまあ、初役としては、上々出来だったのでは?

ところで、『四谷怪談』を今回の上演作品にしたのは、過去2回の新作から古典への回帰というのがあったようだが、それならやっぱり、上方歌舞伎の未来を託された人たちの舞台なんだから、上方の演目を選んでほしかったなぁってのがある。もちろん『四谷怪談』もいつかは乗り越えるべき作品なんだろうけど、上方にも乗り越えるべき作品は山ほどあるのだから、来年はぜひとも上方の演目を見せてほしいと思った次第。てか、来年もあるよね? 上方三銃士のお三方!

(平成29年8月5日 近鉄アート館)





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