【上方芸能な日々 文楽】平成29年夏休み特別公演<1>

人形浄瑠璃文楽
平成二十九年夏休み特別公演
<第一部 親子劇場>

夏休みの文楽公演は三部建て。ということで、公演期間中三回行った。一日で済ましてしまうことももちろん可能だが、お子さん向けの第1部観て、最後は『夏祭浪花鑑』の泥場で〆るってなると、いささか脳内に混乱を来してしまう恐れ、無きにしも非ずだ。小生のような頭の中の整理能力に甚だしく問題のある人間には、三部を分けて観るのがよかろう、ってことだ。要は、「アホは続けて観ても何も残らない」ということだ(笑)。

かかる次第において、まずは第1部。お子さん向けの演目で「親子劇場」と銘打つ。なので、劇場内には親子連れや孫さんを連れた爺さん婆さん、町会の子供会のようなプチ団体なんぞが目立つ。もちろん、大人だけのご見物、良く見かけるお方も多い。とにかく最近のお子達は夏休みでも外で遊ばない。曰く「暑いから」だそうで、そりゃまあ小生なんぞが小中学生の頃と比ぶれば、この気温上昇は異常を通り越し、「クレージー」だから仕方ないわな。だから、こういう冷房完備の場所であれば喜んで着いて来るらしい。ま、その割には、日曜なのに7割程度の入りだったが(笑)。

金太郎の大ぐも退治

赤鬼、青鬼の登場でいきなり泣き出すお子あり。文楽の妖気ものの人形としては、かなりソフトな顔立やと思うけど(笑)。振り返るに、小生は子供のころ、お婆はんが文楽の土産に見せてくれた番付に載っていた町娘かなんかの人形の顔が恐ろしかったもんだが…。まあ、お子さんそれぞれですな、感ずるところは。

文楽研修生から千歳太夫に入門した碩太夫(ひろたゆう)が床の端に並ぶ。初々しい。研修の時から「おお!」と思っていたが、なかなか堂々としていて将来を感じさせる。声はまだ「ツルンツルン」やけど、しゃきしゃきやっていたので合格点じゃなかろうか。せいだい千歳はんに鍛えてもらいなはれ。

芳穂、靖、亘の三人はこの演目では、こんなもんだろうなと。悪く言ってるのでなく、ね。

三味線は、清丈を核にまとまりよく聴かせる。富助門下を離れ、清友門下となった友之助に心なしか、吹っ切れたものを感じたのは小生だけではないだろう。と言いながら、お目当ては燕二郎だったので、舞台の人形もそこそこに、じっと見つめていた(笑)。なんかこのごろ色気づいたのか、髪型がおしゃれになっている。ええんでないかい。ごめんね、そんな所に注目して(笑)。

最後は、大ぐもの正体だった鬼童丸の宙乗りで幕を閉じたが、う~ん、宙乗りに対するお子達の反応はイマイチで、やんやの歓声は引率のお父さんお母さんの方だったな…。てか、何をどうしたら、キミらは感じてくれるんだ?ってところだな。

途中、赤鬼と金太郎のやり取りで「子ぢやわいやい」「さうかいやい」っちゅうのがあって、小生なんぞは「キターーーーーーーーー!」って思ったもんだが、このお子達の中から一人でもいいので、数十年後にここで同じ思いをしてくれる子が出現したら、いいなと思う。

赤い陣羽織

■初演:昭和46年(1971)1~2月 労音主催の例会(大阪、神戸、東京)
■作:木下順二 歌詞作曲:野澤松之輔 補曲:鶴澤寛治

スペインの作家ペドロ・アントニオ・デ・アラルコンの『三角帽子』を木下順二が民話劇に翻訳した作品。新派、新劇、歌舞伎、映画、オペラそして文楽と様々な舞台で上演、上映されてきた作品。ちなみに小生は、今回初めて観た。

で、初めて観て「これを子供向けにやっちゃうのか?」と。むしろ、このストーリーならば、18時開演の第3部で大人のお客に見せる方が受けたんじゃないかと思った。案の定、小生が観た日は(ほかの日はわからないが)、子供は退屈そうだった。一方で大人の客はそれなりに楽しんでいた。この演題、文楽で上演するに際し、作者から「原作独特の台詞を完璧に残す」という条件が課されたというから、浄瑠璃はすべて現代語で進んでいく。だから子供向けに上演したのだとしたら、あまりにも短絡だし、子供たちのためにもならないんじゃないかと思った。今後、この作品がかかることがあっても、小生はまず間違いなく見物をパスする。これは単に「おもろないから」という理由でなく、これを「文楽でござい」と舞台にかけることへの疑問、憤り、抗議…、そういう理由である。

以前は親子劇場については「どうぞお子達で楽しんでください」というワケで、あえて行ってなかったんやが、「いやいや、大人も十分楽しめる内容でっせ」と聞き、この数年は出かけるようにしていた。たしかに「子供向け」と侮れない作品群で、大いに楽しめていたのだが、そんな従来に比べ、今年の親子劇場は少なくとも小生の印象は、極めて低調なものだった。その「低調」を一身に背負っていたのは、言うまでもなく『赤い陣羽織』だった。正直、「お蔵入り」させてもいいんじゃないかと思ったほどである。毎夏の文楽を楽しみにしている子供たちもいると聞く。その子たちが、「もう来年は来んでもエエわ」と思っていないことを祈るばかりである。

今回はちょっと辛口すぎたかな? ま、たまにはバシッと言っておくのもええやろ(笑)。

(平成29年7月23日 日本橋国立文楽劇場)





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