【睇戲】『狭き門から入れ』(港題=三條窄路)

香港インディペンデント映画祭
『狭き門から入れ』(港題=三條窄路)

無題「香港インディペンデント映画祭」、この日は2本観る。まずは『狭き門から入れ』。今映画祭では2本目の崔允信(ビンセント・チュイ)監督の作品である。さすが、香港インディペンデント映画界のトップランナーだけのことがあって、骨太で直球勝負の内容。で、この作品もまた、今後日本で目にすることができるかどうかと言えば、可能性のかなり低い作品。残念だけど…。テレビや新聞は「返還20周年を迎える香港がどうしたこうした」とやたらと伝えるけど、そういう報道を何本も見るより、たとえばこの映画1本観ただけで、「はは~ん、なるほどそういうことか!」と、色んなことがわかる。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題 『三條窄路』
英題 『Three Narrow Gates
邦題 『狭き門から入れ』
製作年 2009年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督) 崔允信(ビンセント・チュイ)

主演(主要キャスト) 廖啟智(リウ・カイチー)、杜海濱(ドゥ・ハイビン)、王亦藍(ウォン・インナム)、黄毓民(レイモンド・ウォン)、何華超(トニー・ホー) 、黄伊汶(エンメ・ウォン) 、張穎康(ジョナサン・チャン)

黄毓民(レイモンド・ウォン)がラジオ番組のパーソナリティ役で出演。同じ番組で共に政治批判をする牧師役に廖啟智(リウ・カイチー)。番組への圧力、牧師個人への暴行寸前の圧力などは、作品公開当時(返還10周年前後)にあったようななかったような、非常に現実的な事件。映画を観ながら「あれ、こういうことなかったっけ?」とか「これってもしかして、あの事件のことかな?」などなど、記憶が頭の中で渦を巻く。まあ映画を離れて、現実社会においても、黄毓民は「舌禍」が絶えず、毀誉褒貶の非常に激しい人物である。そんなことがわかっていてこの作品を観ると、余計に現実味のある内容なのである。

思えば、中共による香港メディアへの圧力というのは、このころからあからさまになってきたように記憶する。明らかに「注文が付く」場合ならまだよい方で、この映画のようにラジオのコメンテーターや、紙媒体の編集長らが「襲撃」されたりすると、それが政治的暴力なのか、個人的な怨恨なのか、その正体が見えないだけに怖い。ただ、今となっては、たとえば新聞では『蘋果日報』以外はすでに「軍門」に下ったと見ていいだろう。『蘋果日報』には経済的圧力がかけられているのが現状で、多くの広告主が紙面から去り、公称30万部以上の発行部数があるにもかかわらず、広告紙面は寂しい限りである。まあ、これに関しては配布ターゲットを絞ったフリーペーパーの台頭も大きく影響してはいるのだけど…。

映画の中でも、やる気満々の女性記者が、せっかくの特ダネ記事が発行直前に差し替えられるという場面がある。編集長は、相手が大口の広告主だから差し替えは当たり前だと言う。そして件の広告主に食事に招かれ、「袖の下」を握らされる…。

この女性記者の場合は「袖の下」だったが、恐らく多くの香港メディアはわき腹にナイフを突きつけられたのだろう。昨今の香港メディアからは、そんな雰囲気が漂ってくる。まあ、こういうのは返還前から予想はしていたわけだが…。

返還10年(2007年)ごろの香港、深圳を舞台に、刑事と警察をドロップアウトした若者、新聞記者、牧師が、中国官僚と香港の不動産業者との癒着スキャンダルを暴いていくというもので、これはこれでけっこう見ごたえあるサスペンスになっていて、作りが心憎い。

『十年』で好演した廖啟智(リウ・カイチー)は、いまやこの手の映画には欠かせない。

中国のドキュメンタリー映画監督、杜海濱(ドゥ・ハイビン)が中国公安を演じているのも、通には嬉しいところ。

本当に終始、あの事件、この事件、あの噂、この噂なんかが頭の中を駆け巡る作品で、10年前の映画とは思ないほど。『十年』が制作時の10年後、2025年を描いたのと同じように、この作品も10年後の2017年、すなわち返還20周年の今年を描いたものなのかもしれない。とすれば、崔允信(ビンセント・チュイ)の慧眼には脱帽するのみである。

《三條窄路》預告片 

(平成29年6月8日 シネ・ヌーヴォ)



 


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