【上方芸能な日々 文楽】夏休み文楽特別公演<親子劇場>

人形浄瑠璃文楽
平成二十八年夏休み文楽特別公演
<第一部 親子劇場>

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数年前までは、お子たちのための演目だからお子たちが楽しめばそれでよしと、ご遠慮していた「親子劇場」だが、「いっぺん観ておこう」と行ったら最後、それは大人も十分すぎるほど楽しめる内容で、いつの間にか毎年行くようになっていた。

今年は『西遊記』が「GO WEST !」なんて、まさかポケモンGOの配信を意識したわけでもないだろうが、まあそんなネーミングでバージョンアップ(?)して登場するという。ここ2年ほどはまっさらな「新作」で話題を呼んできたが、今年はだれもが知っている「古典」の「新作」というか焼き直しで楽しんでもらおうという試み。『西遊記』ならお子さんはもちろん、大人も楽しめること間違いなしだ。期待して文楽劇場へ。

当たり前だが、大人に連れられたお子たちでいっぱいの文楽劇場。半分以上が子供の客ということで、客席もいつもより明るい感じがしていい。公演期間中に来ていたお子たちの中から、将来、文楽の世界に飛び込んでくる子が一人でもおれば、そして将来的に常連客になるような子が一人でもおれば、もうけもんってところだろう。そうはいかんから、色々大変なわけだけど、文楽に限らず伝統芸能全般は…。

五条橋

牛若丸と弁慶の運命の出会い。♪京の五条の橋の上、大の男の弁慶が…♪の歌を知っていれば、あるいは『牛若丸』の昔話を知っていれば、おおむねこの演目もどういうものかはわかるだろうけど、客席のお子たちはどうやろう…。身内の恥ずかしい話を暴露すれば、小生の4人の甥っ子、姪っ子は、誰もこの歌もお話も知らないという悲劇である。親がアカンわな、それは。

床は掛け合い。牛若丸に睦、弁慶に始。後者は本人の体形や声質で納得だが、さて前者はどうかな? せっかくかしらを男中子役に変更し、牛若丸により少年らしさを持たせたのに、太夫もそれに合わせて咲寿を抜擢すればよかったのに。ま、客席のお子たちには一向に興味のないことではあるけど。

人形は牛若丸に蓑紫郎、弁慶を玉勢。どちらもよかったが、玉勢がこのところ安定した動きを見せていると感じるのは、小生だけかな?

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解説 「文楽ってなあに」
そして恒例にしたがい、「文楽ってなあに」である。ホンマ、センスのないタイトルやわ(笑)。いまどきのお子なら、「What’s BUNRAKU?~教えて、文楽!~」くらいがちょうどいいんでないかい? で、中身は、玉翔がなかなか軽妙に司会していて、舞台に上がった3人のお子にほとんど強制的にぶっつけ本番で人形遣い体験をさせていたのがおかしかった。結局、3人が体験してこのコーナー終わり。果たして、「文楽ってなあに」という疑問にお答えする内容だったかどうか…。その存在価値を問う。

新編西遊記 GO WEST ! ~玉うさぎの涙~

■初演:文化13年(1816)、大坂御霊境内芝居で『五天竺』として。昭和63年(1988)に悟空の活躍に絞った改作を行い、このときに外題も『西遊記』に改められる
■監修:桐竹勘十郎 ■脚本:壌晴彦 ■作曲:鶴澤清介 ■美術:大田創 ■作調:望月太明蔵

 

NEW_New_D案-3校-3-校了今公演では、従来の『西遊記』が、まだ斉天大聖と呼ばれていた孫悟空が天空で暴れたため岩に閉じ込められたのところを、三蔵法師が救い天竺へ旅立つという流れだったが、いよいよゴールの天竺を目前にし、猪八戒、沙悟浄とともに事件を解決してゆくという「新作」仕立てで、俳優、演出家として活躍する壌晴彦が脚本を手掛け、美術をテアトル・エコーを中心に活躍する大田創が担当した。番付の「鑑賞ガイド」によれば、「『新編西遊記 GO WEST !』の第一弾として、ご覧いただきます」とあるので、第二弾、三弾と続くのであろうか?

「玉うさぎ」というのは、実際に『西遊記』の原作の「第九十五回假合眞形摛玉兎 眞陰歸正會靈元」などから題材を選んだのだという。

床は、咲甫、芳穂、靖、希、小住、亘に作曲者の清介、清志郎、龍爾、寛太郎、清公。これ、小生的には好みの太夫、三味線が並んでいて、相当ワクワクするメンバー。エキゾチックな雰囲気を出すために、胡弓、琴に加え、大弓(おおきゅう)も動員。三味線の胴の裏に丸い穴を開けて、胡弓の弓で弾く。これを目の前で龍爾が奏でていたが、う~~ん、いまひとつどういう音色を響かせているのか判断のつかないほど低い音だったかな?

この作品もまた、『金壺親父恋達引』同様に口語会話仕立て。まあ、お子さん向けだからこれはこれでいい。でもやっぱりしっくりこんのよな~。ま、ええか。

さすが大田創の舞台美術。これは一見の価値大いにありだった。文楽の舞台というよりは、『ライオンキング』みたいな感じ。この舞台に、大人も子供もひきつけられる。画期的な試みだった。壌晴彦による脚本と言い、大田創の美術と言い、「子供に喜んでもらおう」という以上に「攻めの姿勢、強気の文楽」を感じた。

人形も、悟空の幸助を軸に、沙悟浄に勘市、三蔵に勘彌……などなど、のびのびした舞台だった。そして玉佳はん、やっぱり猪八戒なのね(笑)。そして一輔は相変わらず立ち姿美しい!

で、ここまでして作り上げた『新編西遊記』だが、当のお子さん方はどう感じていたか?
明らかに引率の大人は退屈気味だったが、意外にもと言っちゃ失礼かもしれんが、子供たちは真剣だった。終演後も「おもしろかったな~」って声があちこちから聞こえたので、関係者ではないけど、「楽しんでくれてありがとう」って気分になった(笑)。やっぱり大阪の子は、文楽が好きやな。

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 (平成28年7月30日 日本橋国立文楽劇場)


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