【聞くコツ語るツボを聞く】第10回文楽の夕べ

中之島公会堂、あ、今は「大阪市中央公会堂」って言うのね。
どっちでも大阪では通用するねんけど、あそこのホール(=大集会室)なんて、いつ以来だろう?

記憶に間違いがなければ、まだ幼稚園に上がる前に、祖母の知り合いの舞いのおっしゃんの発表会かなんぞに連れて行かれたのが最初で、それ以来かもしれないから45年ぶりくらい? ひょ~! アタイも長生きしてまんな(笑)。

おっしゃん
古い大阪の人や、今でも芸事の人は「お師匠はん」のことを「おっしゃん」と言う。かつて毎日放送の人気番組だった『素人名人会』で、審査員の山村楽正が「おっしゃんの言わはること、よう守って、もう一回おべんきょして来とくなはれ」ってなことを出場者に言っていたもんだが。

もう、いまどき日常で「おっしゃん」なんて使う人、おれへん。

今回、中之島公会堂へ行ったのは、そんな「おっしゃん」の話を聴くため。

第10回文楽の夕べ
主催 日本経済新聞社

「文楽の夕べ」なる催しを、日経新聞が開いているのは何気に知っていたが、10回も続いているのか。すでに恒例行事となり、その人気高く、今回も1700名以上の応募があり、当選者は1000人。当選した俺、かなりラッキー。

催し自体の構成はいたってシンプル。ミニ公演を挟んで座談会二題。

いずれも、そのうち日経紙面にくわしく掲載されるだろうから、そっちをよく見てもらえばいいし、そもそも対談とか座談会とか、シンポジウムなどの類は、会場を出るとまったく頭に残っていないヤツなので、何か言えと言われても、無理ではあるのだけど、いくつかのポイントをかいつまんで。(「え~、そんなん言うてたか~?」のツッコミは無しで願いますw)

対談「義太夫 聞くコツ語るツボ」
竹本住大夫、阿川佐和子
進行:山脇晴子

「この頃はお客さん皆さん、優しいですよって、『住さん、感動しましたわ』言うて誉めてくれはるし、えらい拍手してくれはりますけど、『なんや下手な浄瑠璃聴かせやがって! まだお前太夫やってんのか!』言うお客さんの声も、あって当たり前。せやから弟子に言いまんねん、『お前ら、拍手の音、聴き分けろ』と。『ようやった』ていう拍手か、『(下手くそなのが)やっと終わった』ていう拍手か、聴き分けろとね」

上でも書いた「大阪弁」について。

「大阪弁が乱れてまんな」「文楽の世界に入ったからには、大阪弁ができんとな」「義太夫節は大阪弁で書かれてるもんやし、三味線の音も大阪弁でんねん」「楽屋で、『~ちゃってさー』とか聞いたら、肚立ちまんな!」

「実は、今書いてる小説の舞台が尼崎でして…。原稿を関西の友達に見せると『アンタ、これどこの言葉?』と。大阪弁、京都弁、尼崎の言葉がごっちゃになってしまって、世の中にあり得ない言葉になっているようなんです…」

「(たとえば)商家の奥さんのこと『お家はん』。これ、『お・い・え・はん』ちゃいまっせ、大阪弁では『おぃぇはん』だっせ」

「え、『おえーーはん』?」(会場爆笑)

「いっぺん、外人が研修生に応募してきたことがありましてん。たとえ日本語が上手いことでけたとしても、家とか日常が英語でっしゃろ。これではやっぱり無理でんねん、文楽やるには…。落としましてん」

内容の多くは、これまでに新聞や書籍で何度も何度も目にしてきたことが多かったが、さすがに文字でなく、ナマの声で聴くと、これほどに説得力のあるものはない。だから「ライブ」は素敵なのよ。(と言いつつも、外へ出た瞬間にほとんど忘れている、俺、カワイイねw)

住さんのリハビリは今も続いている。もっとも、リハビリの段階から「トレーニング」に進んだようだが、厳しい日々を送っているのには、変わりは無い。

「この前、『伊賀越道中双六』で「千本松原」だけ語りましたけど、昔は「沼津里」からぶっ通しでやったんですが、あきまへんなあ、情けのうおます」

確かに21年前は、三幕通しで語った住さんだけど、今も脳梗塞からの快復途上にある人が、「千本松原」だけといえ、あれだけの語りをやり、満場を涙させた「奇蹟」の光景は、未来永劫語り継がれるものである。でも、それで良しとしない住さんの、この向上心が、とにかく眩い。

「要は、下手の横好きでんねんな」

「師匠がそんなこと仰られたら、お弟子さんたちどうすりゃいいんですか」(会場笑い)

「私はほめられて伸びるタイプですね」

「幸せでんな~~」(会場爆笑)

文楽の将来について住大夫は一言。
「不安でんなぁ」
補助金問題もさることながら、技芸員の量、質、特に質…。たった一言だけど、ずしんと胸に響く。おっしゃんにそない言われると、我々は一層不安でたまりまへんがな…。

上演『裏門の段』
床*文字久大夫、藤蔵
人形*勘平-勘十郎、おかる-一輔、伴内-幸助、伴内の家来-大ぜい

住さんは、幸助と一輔を買っていると言う。「人形もなあ、振り回してるだけではあきまへんのや」。このごろ、小生もそこの意味するところが、ようやくわかり始めて来た。これは観劇の場数を踏んだという以上に、折に触れて住さん他、重鎮の言に触れてきたことが大きいと思っている。こうして見物人も「修業を積んで」いくのである。

座談会「ここが楽しみどころ」
竹本文字久大夫、鶴澤藤蔵、桐竹勘十郎
進行:南端玲子

三人とも言うのが「15分ほどの裏門の段が、文楽の基本的要素を全て含んでいる」ということ。それだけにやってみたい、やりたい思うのだが、文字久、藤蔵ともに「本公演ではやったことがない」。

文字久が、おもしろい喩えで「裏門」およびおかる・勘平のストーリーを解説してくれたのが印象的。なかなか楽しい人。

これからの文楽については、

文字久「たとえば3Dなんかを上手く取り入れたら、新しいことを生み出せそう。でも、本質(古典)は外すことはできません。そこを外さずに、新しい試みにも挑戦していくのが大切やと思う」

藤蔵「映画なら、『次回上映予告』が流れますが、文楽でも、次回の予告をアピールすることで、リピーター獲得につなぎたいと思う」「ストーリーなどが、もっとわかりやすくなるような仕組みも必要」

勘十郎「こんなこと位わかってるやろと思わず、より多くの人たちに分かりやすい解説、親切さが必要」

ですよね、ですよね! 何年も前から文楽の劇評めいたものを、ブログにアップして来て、最初の頃はかなり激しく「文楽劇場は不親切極まりない」だの「パンフレットは不良品だ」とか言ってたんだが、最近はもう諦めの境地だった(笑)。

でも今回の『伊賀越」では、まことにささやかながら、パンフに「相関図」があったことで、さらには第2部の「双六」のお土産があったおかげで、ずいぶんと登場人物の関係が整理できた人も多かったはず。

ホント、もっと親切さがほしいね。あと、勘十郎師の発言やったと思うけど、
「次の公演で出る人形をロビーに並べて、見てもらうとかねぇ」
そうそう、次公演への誘いが、チラシ1枚では困るわな…。そりゃ、公演期間前半の客入りが不振なのも無理はない。この日も、壇上から次公演をPRする勘十郎が手にしているの、A4のチラシだけ。1000人以上の観客に見えるはずがない。重鎮にこんな宣伝のやり方させるな、協会も劇場も!

こんなあれこれで、結構充実の2時間半。心は充分満たされホカホカ気分になったけど、外に出たら、もう寒ぅて、寒ぅて…。翌朝の大阪、24年ぶりに11月の初雪観測。住さん、どうかご自愛のうえ、正月公演でまた元気なお姿を!

内容から離れて…。それにしても「正月広告特集」的なニオイがしてくる催しでんな…。要するに、山本夏彦の受け売りじゃないですが、「世は広告」というところですな…。そう、広告ですョ、広告が世を仕切るのですョ、動かすのですョ…。

(平成25年11月28日 大阪市中央公会堂にて聴講)


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