【毒書の時間】『いわいごと』 畠中恵

<NHKで「まんまこと~麻之助裁定帳~」としてドラマ化された時の主要メンバー3人。野球シーズンと重なったため、毎週ってわけじゃないけど、雨などで試合のないときには必ず観ていたもんだ。地上波テレビよ、もっと時代劇を!>


人気の『まんまこと』シリーズ第8弾。何分、売れっ子作家さんで、このシリーズ以外にも、これまた人気の『しゃばけ』シリーズも抱えていらっしゃるんで、次から次と、というわけにはいかないので、大体1年ごとに新しい巻が出てくるという感じ。まあ、のんびりと次を楽しみに待つというところ。今回はそのタイトルから見て取れるように、誰かの身の上にお目出たいことが起こるということなんだろう。さて、誰のことかな…。

『いわいごと』 畠中恵

文春文庫 ¥836
2024年3月10日 第1刷
令和6年5月12日読了
※価格は令和6年5月15日時点税込

江戸は神田、玄関先でさまざまな揉めごとの裁定をしている町名主の跡取り・高橋麻之助。立場が嘘のようなそのお気楽ぶりは、十六のときの「ある出来事」が原因というが――。今日も持ち込まれる難問奇問・やっかいごとに、時には悪友・八木清十郎と相馬吉五郎の力を借りながら、麻之助は敢然と(?)立ち向かう!<引用:文藝春秋『まんまこと』シリーズ特設サイト

というのが、最初の『まんまこと』の宣伝文。以降、次のような順序でシリーズは続いている。※年月日は一刷日付

『まんまこと』 2010年3月10日
『こいしり』 2011年11月10日
『こいわすれ』 2014年4月10日
『ときぐすり』 2015年7月10日
『まったなし』 2018年4月10日
『ひとめぼれ』 2020年6月9日

それぞれの日にちは、文庫版の発行日なので、単行本となると、さらに数年さかのぼる。1年半ほどで次の巻が出ることもあれば、3年以上待たされることもある。今作の『いわいごと』は今年の3月10日なので、4年近く待ったわけで、ほんに「待ってました!」というところ。すでに3年前に第9弾『おやごころ』の単行本が好評発売中である。

ちなみに「まんまこと」は「ほんとうのこと」という意味。

江戸の町名主というのは、よくできた制度で、奉行所が一々かかわるほどでない町内の小さなもめごと、それこそ夫婦喧嘩やら近所の猫が盛りでうるさいだの、捨て子だの、そういう問題を玄関先で相談を受け、裁定してしまうという制度。ただ、このシリーズはエンタメ小説でもあるので、そういうありふれた事案ではなく、麻之助らが知恵をしぼり、推理を働かせるような「難事件」がほとんど。ちょっとしたミステリ仕立てになっている。そこの悪友三人の身の上、家庭、三人を取り巻く両国の人たちのストーリーを上手いこと絡ませている。

さて、小生はというと、香港から帰国後の「日本社会復帰リハビリ」期間の真っ最中の2010年に「時代物小説を読む」というメニュー(笑)があり、何気に文庫版の『まんまこと』を選んだのがご縁の最初だった。それから14年の歳月が流れ、いまだに日本社会に完全なる復帰ができずに往生しているんだが、シリーズはずいずいと進み、その間にはNHKでは福士誠治主演でドラマ化もされ、木曜時代劇「まんまこと~麻之助裁定帳~」として放映もされた。そしてこの度、第8弾文庫版が発行されたのである。――2021年2月に単行本が出た際に、ざっくり立ち読みしてあら方のストーリーは把握しているけどww)

そして今回のシリーズ第8弾。と、その前に第7弾『かわたれどき』のあらすじを。

悪友・清十郎に子が生まれ、縁戚のおこ乃の縁談がまとまるなど、麻之助の周りで祝い事が続くものの、自分自身には揉め事ばかり。特に親しい料理屋の娘・お雪には何かと振り回される日々だ。ある時、野分と呼ばれる大嵐が起こり、お雪が洪水に流される。間一髪助かるが、何やら一大事⁉…<引用:『かわたれどき』(文春文庫)カバー>

この「何やら一大事」というのは、実はお雪さんが大水に遭った時に事件現場を垣間見たショックからか、直近数年の記憶を失ってしまったのだ。麻之助を振り回していたことはもちろん、麻之助のこともすっかり忘れてしまったのだ。しかし、漢だね~、麻さん、そんなお雪さんでもいい、夫婦になろうと思うと両親に告げる…。

という前回の終わり方から、てっきり麻之助は直前の記憶を喪失してしまったお雪さんと夫婦(めおと、以下同様)になるもんだと思っていたが、いやはやまったく…。縁は異なもの、と言うけど、こうなったのかという結末に。

麻之助は同じ町名主の西森名主の娘・お和歌さんと夫婦になることに。こいつは作者に一杯食わされた(笑)。

だってそうですやん、このお相手さん、今巻でぽっと出てきた人ですもん、「え!えええ…」って思ってしまうが、男女の縁とはこういうもんですな。ただ、物語としては、動き出したらとんとんと事が運ぶだけじゃ、あっという間に終わってしまうので、お雪さんとのことも含め、ちょいちょいと事件を絡めながら進んでいくというのは、もはや「安心と信頼と安定」の領域に達している。この「安心と信頼と安定」の「畠中ワールド」だからこそ、小生だって第8弾までお付き合いできているのだ。「間隔が空きすぎ!」と文句言いながらもね(笑)。

今巻で「ほー」と思ったのは、江戸の結婚システムというか祝言までの流れ。決まってからの展開がスピーディーなこと!もう「有無を言わさぬ!」と言う感じで、こりゃ当人たち以上に両親が大変だと思った。終盤に、この時代の「結婚」というものを象徴するこんな下りがある。

お江戸には見合いというものがあるが、ちらりと相手を見るくらいで、本当に簡単なものだ。だから夫婦になってから、相手のことを少しずつ承知していく。そんな夫婦が山ほどいるに違いなかった。

また、麻之助は心中、こんなことを思ってもいる。この時代、夫婦になるということは、こういうことだったんだろうな。

(私とお和歌さんも、今日からお互いのことをわかっていけたらいい。うん、そうだよね)

麻さん、今度こそ幸せになっておくんなせぇよ…。

麻之助たちとの長い付き合いは、この一冊から始まった!


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