【睇戲】月老


大阪アジアン映画祭以来の映画鑑賞は、昨年うっかり見逃してしまった『月老(邦:赤い糸 輪廻のひみつ)』。きっとご縁がないということだろうと、特に気にはしていなかった。まあ、ランク的にその程度に位置付けていたということだ。ところが、映画の「月下老人」は、密かに赤い糸を結んでいたようで、話題作を見逃した残念な映画ファンをいつも救ってくれる、心優しい塚口サンサン劇場へと招き寄せられた次第(笑)。

ということで、この映画、縁結びの神「月下老人(月老)」のお話である。良縁を結んでくれたのかどうか。九把刀(ギデンズ・コー)が監督、脚本ということなんで、期待して間違いない!(ですよね?)

月老 邦題:赤い糸 輪廻のひみつ

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台題『月老』 英題『Till We Meet Again』
邦題『赤い糸 輪廻のひみつ』
公開年:2021年 製作地 台湾
言語:標準中国語、台湾語、雲南語
上映時間:128分
評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演、編劇 (監督、脚本):九把刀(ギデンズ・コー)
監製(製作):盧維君(ルー・ウェイチュン)
製片(プロデューサー):方曉茹(モリー・ファン)、Paul D. KIM
原著(原作):『月老』九把刀
配樂(音楽):侯志堅(クリス・ホウ)
攝影(撮影):周宜賢(パトリック・チョウ)
音效(音響効果):高偉晏、朱仕宜(チュウ・シーイー)
主題曲(主題歌):韋禮安(ウェイ・リーアン)『如果可以
片尾曲(エンディング曲):TODAY『愛上你

主演(出演):柯震東(クー・チェンドン)、宋芸樺(ビビアン・スン)、王淨(ワン・ジン)、馬志翔(マー・ジーシアン)、拉卡·巫茂(ラカ・ウマウ)、洪都拉斯(ホンジュラス)、陸明君(ルー・ミンジュン)、侯彥西(ホウ・イエンシー)、陳妤(チュン・ユー)、張再興(チャン・ツァイシン)
特別演出(特別出演):蔡昌憲(ツァイ・チェンシン)、陳睿瑋(WEGO)、王興洪(ワン・シンホン)、徐華謙(シュー・ホアチェン)、六月(ジューン・ツァイ)、劉容嘉(キャンディス・リウ)、禾浩辰(ハー・ハオチュン)、劉奕兒(ユージュニー・リウ)、蔡凡熙(ケント・ツァイ)、鄧育凱(トン・ユィカイ)、張立昂(マーカス・チャン)、林智文(スティーブン・リン)

《作品概要》

落雷で不慮の死を遂げた青年が〈 月老=ユエラオ 〉として縁を結ぶのは、 最愛の恋人のこれからの幸せ? それとも〝あの世〟と〝この世〟を越えた禁断の恋? 落雷で命を落とし冥界に連れてこられた 孝綸シャオルン は、同じく冥界にやってきたピンキーとともに、〈 月老=ユエラオ 〉として現世で人々の縁結びをすることになる。ある日、ふたりの前に1頭の犬が現れ、 孝綸(シャオルン) は失っていた生前の記憶を取り戻す。それは初恋の相手、 小咪(シャオミー) の、果たせぬままに終わってしまった“ある約束”だった。<引用:『赤い糸 輪廻のひみつ』公式サイト

男主役の孝綸(シャオルン)を演じたのは柯震東(クー・チェンドン)。2011年の『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』でブレークし、昨年の大阪アジアン映画祭で小生のお気に入りとなった『黑的教育(邦:黒の教育)』では監督デビューした。一方、女主役の小咪を演じた宋芸樺(ビビアン・ソン)も小生お気に入り作品の『我的少女時代(邦:私の少女時代)』、『帶我去月球(邦:私を月に連れてって)』でおなじみ。

そんなわけで、日本でも知る人ぞ知る二人が主演したんだが、この組み合わせを見ると、なんだか甘っちょろい青春ラブロマンスを想像してしまうんだが、そこに「月下老人」がとなると、もう大体映画の展開が読めてしまう(笑)。

月下老人=月老」について、ざっと記しておくと。

唐の韋固 (いご) が月夜に会った老人から将来の妻を予言されたという「続幽怪録」の故事から、男女の仲を取り持つ人。台湾では、広く信仰されていて、月老を祀る龍山寺や台北霞海城隍廟には参拝客が絶えない。日本では考えられないほど、台湾では神さん仏さんが日常に浸透しているので、本作のように月老をテーマにした映画がすんなり受け入れられる素地はあるということだ。

桃園大廟景福宮におはしまする月老さま

色々と前置きがくどくなったが、先に言っておくと、「小生には合わなかった」。ただ、俳優犬(そういうのがあるんや!)のAkitaが演じる阿魯(アルー)が愛おしくて、このわんこには泣かされた。実は小生、数日前に愛犬を亡くしており、彼のことがオーバーラップして余計に泣かされたのだろう。ただでさえ、犬が出てくるだけで涙目になる奴なのに…。

この子がほんと、泣かせる演技をするの(涙)

実は監督の九把刀(ギデンズ・コー)も14年間共に過ごした愛犬が世を去ったらしい。「もう一度会いたい」と願うも、自分があの世に行くことはできないので、その思いを映画にした、とのこと。まあ、気持ちはわかるな…。と言うことは、主役は柯震東でなく宋芸樺でもなく、俳優犬Akitaってことですか!? まあええけど(笑)。

近所のおっさんらとバスケをしていた孝綸が、雷に打たれて即死するシーンから始まる。黒焦げになった状態で、冥界に着いた孝綸は、保険金目当てで元カレに殺され、やはり冥界に連れてこられたピンキー(演:王淨/ワン・ジン)とのコンビで「月老」として現世で人々の縁をつなぎ、徳を積んで来世も人間に生まれ変わろうとする。

ピンキーは次第に孝綸に思いを抱くようになるのだが…

本作は、3つのストーリーラインに分かれている。一つは孝綸とピンキーの「月老」としての縁結び作業。観客は映画を通じて月老の“運営形態”を理解してゆく。二人とともに月老として現世に送り出された月老たちがいるのだが、みんなお揃いの制服を着ていて「学園ドラマか!」と突っ込みたくなったんだが(笑)。別に理由は説明されていないので、これも九把刀の趣味だろう(笑)。

月老のみなさん(笑)。ほとんど学園コメディのノリ

 2つ目のストーリーは、孝綸と小咪のラブストーリー。印象的だったのは、生前の記憶を取り戻すべく、住んでいた町に来た孝綸と愛犬・阿魯の再開シーン。ここはウルウルしてしまったなぁ。一気に生前の記憶を取り戻した孝綸の前に、突然逃げ出した阿魯を探していた小咪も現れる。しかし、現世の人間である小咪に月老となった孝綸は見えていない。でも、阿魯には見えているので、その場を動こうとしない…。動きたくないのは、実は小咪も同様だった。なぜなら…。

すっかり生前の記憶を取り戻した孝綸は、それからというもの、小咪から離れない

3つ目は、馬志祥(マー・ジーシアン)演じる鬼頭成が現世に問題を引き起こすというもの。500年前、盗賊団の頭目だった彼は、自分を斬首した妹分(演:劉奕兒/ユージュニー・リウ)の生まれ変わりである小咪を憎み、復讐の念を捨てられずに人間界に現れ、小咪の命を奪おうとする…。馬志祥の怪演ぶりが目を引く。鬼頭成については、九把刀自らパンフでくどくどと、かなりのページを割いて書き綴っているんだが、読んでも何が何だか?って感じ。

この 3つのストーリーは、どれがより重要であるかという問題はなく、連携しながら進み、最後に一つの物語として完璧なエンディングを迎える、ってのが想像できる流れではあったけど、結局、映画全体がラブロマンスに偏り過ぎたため、3つのストーリーがアンバランスに思えた。

わざわざ鬼頭成のストーリーは果たして必要だったのか? 物語に「悪役」を追加し、愛し合う二人を冥界の不正義と戦わせ、「輪廻転生」の概念を問いかけるのだが、鬼頭成が小咪に襲い掛かるシーンなどは緊張感に満ちてるものの、非常に唐突感はぬぐえなかった。それでも、最後、生まれ変わった子供たちが動物病院で再開?するシーンは、温かいものを感じた。何かと疑問点の多かった作品だが、犬の阿魯とこのシーンには救われた思いだった。

さて、「3つのストーリー」と記したが、小生はここに4つ目のストーリーとして犬の阿魯の物語も加えたい。阿魯が孝綸と出会ったのは、孝綸が小学生の時だった。雨に打たれて心細そうにする捨て犬を拾ったのである。

子犬ってどうして「アタナが頼りなんです」って目で見つめてくるんだろう…。だからこそ、終生大事にしてあげたいのだ…

このころ、転校してきた小咪にいきなり「結婚してください!」とプロポーズする孝綸、勇気あるなぁ(笑)。そこから孝綸、小咪そして阿魯の長い付き合いが始まるのである。二人のことを一番わかっているのは阿魯であり、阿魯を大切にしているのが孝綸、小咪なのである。

重い病気の阿魯は、孝綸が雷に打たれて即死したバスケコートで、小咪に見守られながら息を引き取ろうとしていた。しかし、阿魯にはもう一仕事残っていた。冥界の深い井戸に落とされてしまった孝綸とピンキーに綱を渡し、綱をくわえてありったけの力を振り絞って、二人を引き上げたのだ。もうねえ、ここは涙ボロボロだったよ。九把刀の「もう一度愛犬に会いたい」という気持ちがいっぱい詰まったシーンだった。映画のタイトル『忠犬アルー』でええんちゃう?ってくらいに…。

二人の同級生の獣医役に蔡昌憲(ツァイ・チェンシン)。『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』チームと言うか、九把刀チームと言うか、そういう面々が多数出演していた

全体的には、どこか子供っぽく、それでいて情熱的な物語。主人公は、たとえ死んでも彼女を愛し続けたいたい。ラブシーンも血まみれで、こういう情熱に弱い人は涙を流すんだろう。とは言え、3つのストーリーがバラバラすぎる嫌いもあって、小生は「はあ?」だの「おいおい…」だのの連発だった。結構、面倒くさい作品だった。まあ、娯楽作品としては、前半はコミカルな場面も多かったし、ギリギリ合格点ってところだろうか。犬の阿魯にだけは、大いに泣かされたが、字幕で「クルミ」とするのは、いかがなものか…。

《月老》台灣正式預告

《受賞など》==================================

■第58屆金馬獎
・最優秀音響効果賞:高偉晏、朱仕宜
・最優秀メークアップ&衣装デザイン賞:林欣宜、蕭百宸、劉顯嘉
・最優秀視覚効果賞:嚴振欽
他7部門にノミネート

■2021 yahoo!奇摩搜尋人氣大獎
・大ブレーク作品賞:『月老』

■第3屆台灣影評人協會獎
5部門にノミネート

■2022年台北電影獎
・最優秀監督賞:九把刀
・最優秀主演男優賞:柯震東
・最優秀視覚効果賞:嚴振欽、罡風創意映像有限公司
他7部門にノミネート

■第40屆香港電影金像獎
1部門にノミネート

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(令和6年5月7日 塚口サンサン劇場)

九把刀(ギデンズ・コー)の大出世作となった『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』


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