【睇戲】BIG <海外プレミア上映>

さていよいよ、今年の大阪アジアン映画祭、最後の1本と相成りました。『BIG』とは大きく出たね、魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督も! で、実際、最後の最後に、とてもBIGな1本が待っていたのである! 恐らく、この先数年はこれを上回る感動の作品に出会うことはないんじゃないか、ってくらい、そりゃもう感動の雨あられの波状攻撃を食らったのであります。「子供の難病ものはずるいな~」と思いつつ、よくぞ、この作品を撮ってくださいました、魏監督! 文句なしの★5つであります。

©『BIG』Facebook

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画 台湾:電影ルネッサンス2024
BIG <海外プレミア上映>

台題『BIG』 英題『BIG』 邦題『BIG』
公開年 2023年 製作地 台湾 言語:標準中国語
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):魏徳聖(ウェイ・ダーション)
監制(製作):徐國倫(シュー・グォルン)
編劇(脚本):魏德聖、蔡顗禾(サイ・イーホー)
配樂(音楽):何國傑(リッキー・ホー)
攝影(撮影):葉少青(イップ・シウチン)
剪接(編集):蘇珮儀(スー・ペイイー)
音效(音響効果):杜篤之(ドゥー・ドゥージー)
動畫導演(アニメーション監督):丹治 匠
美術監督・色彩設計:宇佐美レオナルド健

演員(出演者):鄭又菲(フェイフェイ・チェン)、馬志翔(マー・ジーシアン)、廖慧珍(リャオ・ホイジェン)、滕韋煦(フェリックス・トン)、范逸臣(ファン・イーチェン)、田中千絵、郭大睿(マックス・グォ)、夏宇童(レン・シャー)、周厚安(アンドリュー・チョウ)、黃之諾(ホアン・チーヌオ)、黃采儀(アリス・ホアン)、王夢麟(ワン・モンリン)、于卉喬(ローズ・ユー)、曾珮瑜(ペギー・ツェン)、黃鐙輝(ホアン・ドンフイ)、謝以樂(シエ・イール)、陳博正(チェン・ボージョン)、李佳豫(アンジェラ・リー)、賴銘偉(ユーミン・ライ)、鄭人碩(チェン・レンシュオ)、盧妍蓁(ルー・イェンジェン)、蔡侑庭(サイ・ユウティン)、徐沛晴(Zhana)、PINK FUN-陳以芯(Cindy)、林楷傑(ジェイソン・リン)、張芳瑜(ティファニー・チャン)、安德森(アンダーソン)、徐灝翔(スー・ハオシャン)、 張心妍(チャン・シンヤン)、王恩詠(ワン・エンヨン)

《作品概要》

小児がん病棟で共に暮らす、異なる背景を持つ6組の家族の悲喜こもごもを描いた感動のヒューマンドラマ。ドキュメンタリー撮影で出会った少女の明るさに衝撃を受けた監督が製作を決意。<引用:第19回大阪アジアン映画祭公式サイト

段ボールで作ったロボットで病院の廊下を遊び場にする鞍上部腫瘍の是延(シーイエン)。三輪車で走り回る同室の羅恆(ルオ・ハン)と大の仲良し ©『BIG』Facebook

魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督作品としては、2012年の『賽德克·巴萊(邦:セデック・バレ)』、2017年『52Hz, I love you』以来3作目の大阪アジアン映画祭参加となる。本作1回目の上映となった3月4日には、子役の鄭又菲(フェイフェイ・チェン)とともに、上映後の舞台挨拶やサイン会のため来阪してくれたのだが、残念ながらこの日はすでに帰台しており、直接話を聞くことができなかった。

「子供の難病ものはずるいわ~」なんて言ったが、長尺159分を全く感じさせない、むしろ「もっと観ていたい!」と思うほど、よきひと時を過ごさせてくれた。

小児科病棟「816号室」、通称「BIG」で小児がんと闘う6人の子供たちとその家族の、まさに泣いて笑っての物語で、単に子供たちの闘病を描くだけでなく、その家族の物語も描くことで、作品に一層の厚みを持たせている。手術や辛い治療の場面は、子供たちの苦痛の表情を見せるのではなく、6人を戦士に見立てたアニメーションを使うことで、子供たちが必死に戦っているということを表現している。このアニメ部分をアニメーション美術監督・美術制作スタッフ・映像演出家の丹治匠(たんじ・たくみ)が担当。

さすがは丹治匠。アニメパートも胸打つものがあった。中央は、816病室に移動する前に亡くなった男の子、曉杰かな ©『BIG』公式サイト

この作品については、あれこれ突っ込みを入れるのは野暮というもの。作品の公式サイトを参考に、子供たちとその家族を紹介しておこう。

【大杉ファミリー】大杉(ダーシャン・14歳)、骨肉腫 演:郭大睿(マックス・グォ)

©『BIG』公式サイト

いつもヘッドフォンをして音楽の世界に浸り、周囲を淡々と見つめていたが、病室で同年代の女子、珈農(ジャーノン)に出会い、片思いの日々が始まる!両親はメディカル美容クリニックを経営。人生の成功者に見えるが、母親は何度も離婚を申し出ている。父は、そんな妻の心を開く道を見いだせず、常にイラついており、表情に温かさが感じられない…。父親役の范逸臣(ファン・イーチェン)と母親役の田中千絵は、2008年の『海角七號(邦:海角七号 君想う、国境の南)』以来の共演。愛を高め合ったカップルが、今作では冷え切った夫婦を演じるとは…。

【努拉ファミリー】努拉(ノウラ・4歳)、悪性卵黄嚢腫瘍 演:黃之諾(ホアン・チーヌオ)

©『BIG』Facebook

病室では最年少。父(演:周厚安/アンドリュー・チョウ)は牧師。入院していきなりベッドの上の壁に十字架を設置する(笑)。彼女は臀部付近に腫瘍があり、スカートしかはけない。聖母様の人形を持って、病室内を走り回っている。この様子だけ見ると、重大な病状にあるとは思えないのだが、両親は祈りの日々である…。(母親=夏宇童/レン・シャー)

【珈農ファミリー】珈農(ジャーノン・16歳)、急性リンパ性白血病 演:于卉喬(ローズ・ユー)

©『BIG』公式サイト

双子の弟がいる、どこかミステリアスな女の子。両親は家具店を経営する一方で音楽家でもある。珈農自身も音楽が好きだが、病気になってからは両親とのコミュニケーションを拒むようになる。病院のクリスマスパーティーを前に、自分の音楽の才能が病室の仲間や家族の心を温かくできることに気づいていく。そしてパーティー当日、彼女は両親、弟とバンドを組むことになる。その裏で着々と進む、病室ぐるみの計画は、作品のクライマックス。父を歌手の王夢麟(ワン・モンリン)、母を黃采儀(アリス・ホアン)のベテラン二人が演じる。

【是延ファミリー】是延(シーイエン・7歳)鞍上部腫瘍 演:謝以樂(シエ・イール)

©『BIG』Facebook

いつも段ボール製のロボットに入って遊んでいる。両親は離婚していたが、息子の病気再発で再び顔を合わす。是延は両親がいつも揃ってそばにいてくれることを望んでいるが、会えば喧嘩になる…。絵をかくのが好きで、腫瘍の圧迫が強まり、急速に薄れゆく視力の中、病室の家族たちの似顔絵を描き上げる…。個人的には、この子への思い入れが非常に強かった。どこかに自分の幼いころの面影があるんよな…。

薄れゆく視力…。目を細めながら残された視力で絵を描く姿が胸を打った ©『BIG』Facebook

【源源ファミリー】源源(ユエンユエン・9歳)急性骨髄性白血病 演:鄭又菲(フェイフェイ・チェン)

©『BIG』公式サイト

実質、主人公の源源は、母親(演:曾沛慈/ツォン・ペイツー)、祖父(演:陳博正/チェン・ボージョン)とともに、素晴らしい家族愛を見せてくれた。動物園生まれの源源。飼育員の母親が担当するオランウータンの出産とほぼ同時だった。いつも持っているオランウータンのぬいぐるみを「おねーちゃん」と呼ぶ。ヒップホップダンスを身につけたくて、時々、珈農に教えてもらっている。化学療法、骨髄移植など辛い治療が続くが、頭の中では戦士たちが戦っている!

兒子的大玩偶(邦:坊やの人形)』『冬冬的假期(邦:冬冬の夏休み)』では若かった陳博正が優しいおじいちゃんを演じた ©『BIG』Facebook

【羅恆ファミリー】羅恆(ルオハン・5歳)、小脳髄芽腫 演:滕韋煦(フェリックス・トン)

©『BIG』Facebook

三輪車で病院を駆け巡る元気な子。同じ悪性脳腫瘍の是延とは親友。タクシー運転手のお母さん(演:李佳豫/アンジェラ・リー)のお腹からもうすぐ妹が生まれるのを楽しみにしている。けがで車いすのお父さんと病院の廊下でレースをするのは、生きている証!長髪だった歌手の賴銘偉(ユーミン・ライ)がスキンヘッドになって、地蔵王を信仰する父親を熱演。

病院でこんなことしちゃいけませんよ(笑) ©『BIG』Facebook

そしてこの子たちや家族を支えるのが、溫暖醫師(演:馬志翔/マー・ジーシアン)をはじめとする医療スタッフと、馬馬(演:廖慧珍/リャオ・ホイジェン)らの看護師チーム。

梁醫師(演:鄭人碩/チェン・レンシュオ)と溫暖醫師 ©Livio 生活網

「温暖」というニックネームとは裏腹に、冷たい印象の溫暖醫師とは対照的だったのが、看護師の馬馬。バラエティー番組の「ひな壇」に並んでいても、全く違和感ない廖慧珍が好演した。常に子供たちと家族に寄り添う姿は胸を打つ。廖慧珍と言えば思い出すのが『愛情來了(邦:ラブゴーゴー)。あれから26年か…。

「寄り添う」ということが、いかに大切かを教えてくれた看護師の馬馬 ©『BIG』Facebook
©『BIG』Facebook

母親たちに比べ、他家族との間に壁を作りがちな父親たち。まあ、大体お父さんと言うのはこういう感じです(笑)。偶然、早朝の病院敷地内ファミマに全員揃う。ここで、それぞれの家庭の抱える事情や父親なりの悩みなどを吐き合うことに。一気に意気投合し合う父親たちは、思わず「乾杯~!」。あ、もちろん酒類の販売は無いので缶コーヒーで(笑)。

こうして、家族間の団結が強まった中、病院のクリスマスパーティーを迎える。ここで、この作品のクライマックスかなと小生が思う出来事が起きる。

「俺は絶対やらない!」と固辞していた溫暖醫師だが、結局はサンタに扮することに ©『BIG』Facebook

源源の母と祖父が飼育員として働く動物園へ、子供たちを連れて行ってやろうという、もちろん病院には内緒の企てを親たちが画策する。送迎は観光バスの運転手をしている是延の父親が手配して運転。迎え入れる動物園の方は源源の母と祖父が万全の態勢で迎え入れる。感染症のことを考えると、動物園へ連れて行くなど、あまりにも無謀で現実的にはあり得ない行為だけど、こういう夢のあるシーンがあってもいいではないか。子供たちの辛い闘病生活や家族の苦悩…。それだけでは、結局は「子供の難病もの」に終わってしまっただろう。こうして、子供たちとその家族は源源の「おねーちゃん」と対面するのである。

この表情がすべてでだ。どの子の顔もキラキラしているのを見て、あたしゃもう、涙ボロボロでしたよ… ©『BIG』Facebook
看護師の馬馬に見つかってしまうも、彼女は涙を流しながらバスを見送ってくれた ©『BIG』Facebook

その後、病死内では悲喜こもごも、色んなことが起きる。どの子がどうなったかは書かないけど、子供たちは戦士として精一杯闘ったし、家族も子供たちの闘いを支えた。そして医療スタッフも力の限りを尽くした。それでも…。

表情豊かに小児科病棟の看護師を演じた廖慧珍。彼女の喜怒哀楽は観客の気持ちを代弁しているかのようだった ©『BIG』Facebook

終盤、この816号室、別名「BIG」にまつわる溫暖醫師のエピソードが明らかになる。この溫暖醫師のストーリーも心にじわ~っときた。溫暖醫師には、馬志翔だからこそ醸し出せるであろう雰囲気を感じた。これまた好演であった。

子供たちの演技も見事なものだったが、やはり主人公的存在の源源を演じた鄭又菲(フェイフェイ・チェン)が、非常に良かった。魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督は初回上映時のトークショーで、源源を演じてほしいと思える役者になかなか出会えず苦労したと語る。スクリプターの友人がたくさん集めてくれた子役の写真の中で、「この子だ!」と目を見て決めたと言う。しかし剃髪がネックとなり、どれだけ説得しても断られ続ける。直接面会もしたが駄目だったが、最後に帰りのエレベーターでようやく快諾してくれたのだそう。勇気ある決断をしてくれてありがとう。どうや?出演してよかったやろ?

確かに、いい目をしてるね、この子 ©『BIG』Facebook

大阪アジアン映画祭での華語片上映作品は、これまでにも多くがその後、劇場公開されてきたが、本作も早いうちにぜひとも劇場公開され、多くの人たちに観てほしいと願う。「今年はイマイチ気分が乗らない」なんて思っていたが、最後の最後に、素晴らしい作品に出会えた。

Being is Gift”。その思い、闘う戦士(子供たち)から、しかと受け取った!

《受賞など》==================================

第5屆台灣影評人協會獎
最優秀女優賞/曾沛慈(ツォン・ペイツー)ノミネート

追記(令和6年5月15日)
第26屆台北電影獎で下記の8部門にノミネート

最優秀監督導/魏徳聖(ウェイ・ダーション)
最優秀長片作品/『BIG』
最新人俳優/鄭又菲(フェイフェイ・チェン)
最優秀脚本/BIG:魏德聖
最優秀映画音楽/BIG:何國傑(リッキー・ホー)
最優秀音楽効果/BIG:杜篤之(ドゥー・ドゥージー)、吳書瑤(ウー・シューヤオオ)
最優秀ビジュアル効果/BIG:林宏峯、余國亮、梁偉傑
最優秀技術/BIG:動畫導演:丹治匠

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816《BIG》正式預告

(令和6年3月10日 T・ジョイ梅田)

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ということで、予定作品をすべて観終わったので、恒例の「私的各賞」について。

最優秀作品:『BIG』
最優秀監督:練建宏(リエン・ジエンホン) 『莎莉(邦:サリー)』
最優秀主演男優:황치열(ファン・チヨル) 『동행(邦:同行)』
最優秀主演女優:鄭又菲(フェイフェイ・チェン) 『BIG』
最優秀助演男優:白只(マイケル・ニン) 『臥底的退隱生活(邦:潜入捜査官の隠遁生活)』
最優秀助演女優:廖慧珍(リャオ・ホイジェン) 『BIG』
最優秀新人俳優:鄭又菲(フェイフェイ・チェン) 『BIG』
最優秀短編:『동행』

監督賞も『BIG』魏徳聖(ウェイ・ダーション)としたかったところだが、ここは将来性を考慮し、練建宏(リエン・ジエンホン)にした。結果的には『BIG』が席巻する形になったが、もし、他に2、3作品観ていたら、全く違う結果になっていたかもしれない。それ故に、何度も繰り返して恐縮だが『盜月者』を逃してしまったのは大きいし、今年、重点的にフォーカスされたタイ映画を1作も観られなかったのも、残念なところである。また、それら諸々を差し引いても、小生の最も気になる香港作品が低調気味だったのも、個人的には残念に思う。一方、短編は6作品観ることができたが、『동행(邦:同行)』が非常によくできていたし、男主役の황치열(ファン・チヨル)の好演も印象に残るものだった。

来年20回となる大阪アジアン映画祭。香港映画の怒涛の巻き返しを期待したい。

魏徳聖(ウェイ・ダーション)の出世作『海角七號』。『BIG』で大杉の両親を演じた范逸臣(ファン・イーチェン)と田中千絵が主演。


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