【睇戲】全個世界都有電話 <日本プレミア上映>

本日の2本目。香港映画『全個世界都有電話(邦:全世界どこでも電話)』。「どこもかしこも電話がある」くらいのニュアンスかと。監督の黃浩然(アモス・ウィー)は、大阪アジアン映画祭ですっかりおなじみの監督。長編デビューとなった『點對點(邦:点対点)』を皮切りに、数年に一度、本映画祭で最新作が公開される。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画 Special Focus on Hong Kong 2024
全個世界都有電話
邦題:全世界どこでも電話 
<日本プレミア上映>

©AM730

港題『全個世界都有電話』
英題『Everyphone Everywhere』
邦題『全世界どこでも電話』
公開年 2023年 製作地 香港 言語:広東語
評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黃浩然(アモス・ウィー)
監制(製作):曾麗芬(ウイニー・ツァン)、黃浩然、鄺珮詩(テレンス・コン)、鍾宏杰(フランキー・チュン)、吳奇龍(フィロ・ウー)、陳保英(チェン・パオイン)
編劇(脚本):黃浩然、鍾宏杰
攝影(撮影):梁銘佳(レオン・ミンカイ)
剪輯(編集):黎冠東(ライ・クントン)、譚國明(スタンレー・タム)
配樂(音楽):秦旭章(WiFi)、蔡佳穎(ツァイ・ジァーイン)、川流(Slow)

領銜主演(主演):周國賢(エンディ・チョウ)、陳湛文(チャン・チャームマン)、韋羅莎(ロサ・マリア・ヴェラスコ)
演出(出演):鄧麗英(タン・ライイン)、周漢寧(ヘニック・チャウ)
友情演出(友情出演):蔡思韵(セシリア・チョイ)
客串(ゲスト出演):楊偉倫(ヨン・ワイルン)、鄧偉傑(デズモンド・タン)、阿正(アジェン)、區嘉雯(パトラ・アウ)、東方昇(East Sing)、專家Dickson、岑樂怡(ボンド・サム)、邵仲衡(デビット・シウ)、光頭幫、黃修平(アダム・ウォン)、趙伊禕(イーイー・チャオ)、程展緯(ルーク・チン)、岑珈其(カーキ・サム)

《作品概要》

25年前に高校を卒業した40代の同級生男女3人は、1人がイギリスに移住するのを機に、メッセージを送りあった当時の携帯電話を持って集まることに。中国返還から25年の香港を舞台に、香港人の切なる願いをポップに描いた群像劇。<引用:大阪アジアン映画祭公式HP

小生が香港暮らしを始めた90年代初めは、携帯電話を持っているのはごく限られた人だった。レンガのようなごっつい別名「大哥大」を使ってる人もまだまだいた。「大哥大」とは、組織のボスを指し、ヤバい系の組織の人を指すことが多かったが、映画界における「大哥大」は洪金寶(サモ・ハン)のことである。要するにボスとか社長とか偉い人しか持っていないものということだ。

このモデルさんのように金ピカの装飾で葉巻吸ってる人が持ってるイメージw。この形状は通信機器にして凶器であるww

で、我々一般人の通信はもっぱら「Call機(=ポケベル)」。多くの人が「秘書台」を契約していた。これはポケベルに呼び出しが入り、「秘書台」に電話すると、「誰それさんから電話ありました」と教えてくれる。「秘書台」への電話も誰それさんへの電話も、茶餐廳などの店頭の電話を借りるのである。固定電話は香港内なら通話料がかからないので、誰でも嫌な顔せずに貸してくれた。それが当たり前だった。もっとも、90年代中ごろには一気に携帯電話が普及し、Call機はあっという間に淘汰された。小生は確か97年にNokiaの携帯を帰国する友人から譲り受けたのが最初だったと思う。

Motorolaのこのタイプが一般的なCall機。いや~、これは懐かしいな!

しかし、この映画を観て「時代も変わったなぁ」とつくづく感じた。世の中、簡単には固定電話を貸してくれないのだ。そらまあ、スマホだろうがガラケーだろうが、子供から老人までほぼ全員が携帯を所持している香港で、「電話貸して」と言う方が珍しいし、怪しい。

さて、物語。

中学時代の友人鍾哲(演:周國賢/エンディ・チョウ)、レイモンド(演:陳湛文/チャン・チャームマン)、アナ(演:韋羅莎/ロサ・マリア・ヴェラスコ)の 3 人は、1997年の夏休み(すなわち、香港の祖国回帰直後)に初めての携帯電話を一緒に購入した。レイモンドが英国に移住する前、3人は携帯で最初にお互いに送ったメッセージへの回答を明かすすために食事会を開くことを約束していた。

時は流れ、2022年。レイモンドは再び移住するのを機に、3人での食事会を提案。この3人の携帯にまつわる物語だが、「まあ、こんなことも起きますよね」って感じの「小編」という印象で、それほど感じるものがなかった。ならば、何をここで語るべきか…。う~ん、何だろう??

長洲住まい、仕事はテレワーク。いいよな、こういうのを見ると、またまた香港で仕事したくなる… ©高先電影

約束の日、長洲に住んでいた鍾哲は携帯電話を家に忘れてしまう。気づいたのは船を下りてからのこと。ここから携帯を持たないことの、艱難辛苦の一日が始まる。

「わっちゃ~、携帯忘れてきた!」と半ば茫然の鍾哲

レストランの正確な場所はスマホの中。わずかに、觀塘(Kwun Tong)の工場ビルの中の何某の「私房菜(プライベートキッチン)」だということだけ覚えている。觀塘には同じような外観の工場ビルが並び、どのブロックか見当がつかない。いろんなところで電話を借りようとするも、ことごとく断られる。ようやく借りることができて妻(演:蔡思韵/セシリア・チョイ)に電話がつながるが…。鍾哲の初恋の人でもあるアナの電話番号を探してくれ、なんて言われて、いい気がしない…。

「俺の携帯を見てくれ」と頼まれても、奥さんもカフェで働いており、簡単に家に戻るわけにもいかない。さらには女性の電話番号を探してほしいと言われても、ねぇ…

レイモンドのWhatsAppがハッキングされてログインできなくなり、会話記録も盗まれる。レイモンドは、97年にスコットランドに移住し、帰国後は不動産業者として働いていた。離婚後、一人で娘を育てる。ついに地区マネージャーに昇進するが、娘との関係は良いとは言えず、再び英国へ移民することについて対立する。移民の表向きの理由は、香港の将来を悲観し、娘のためにということだが、現実的な理由は、昇進の機会を得るために犯した商業犯罪から逃れるためで、一刻も早く香港を離れたいのだ。WhatsAppのハッキングで会話記録が洩れた以上、急がねばならない。昨今の移民潮流における、大多数の人たちとは、全く違う理由からの移民であり、この移民理由は香港の観客から賛同を得ることができたのだろうか?

WhatsAppがハッキングされ、凍りつくレイモンド
いきなり移民を告げられ、落ち込むレイモンドの娘(演:鄧麗英/タン・ライイン)。そう言えば『填詞L』にも出てたなぁ ©AM730

私房菜に早く到着したアナは動き回る他の二人とは違い、室内にいるためか、彼女のシーンがことごとく退屈だった。彼女はオンライン詐欺からメッセージを受け取る。彼女はでーんと構えて、詐欺師らを弄ぶが、それほど面白くもないシーンの連続だった。後に、相手の一人が義理の息子というのを観客は知るわけだが…。

継子を演じた周漢寧(ヘニック・チャウ)。オタクぶりが板についていた
ヴァーチャル空間に現れる詐欺グループは光頭幫の3人

彼女もまた、家庭の問題を抱える。再婚相手(演:鄧偉傑/デズモンド・タン)はエロい野郎で、秘書と浮気をしている。まあ、現場の状況は詐欺師らを弄ぶ一方でちゃ~んとアナは監視してるんだけど(笑)。

こうした携帯にまつわる3人のストーリーを故事線一、二、三と3つのストーリーラインで描く方法は、まあ、いいんだけど、小生はなかなか入り込めず。いくつか共感できる場面もあったけど、一定の年代以上に共感してもらえそうなシーンを散りばめた「短編」の積み重ね、という感じがした。

25年の時を経てようやく集まった3人。それぞれがスマホのせいで非日常を経験する

「返還から25年経過した香港の人たちの気持ちがわかる」などと、きれいにまとめているレビューもたくさん目にするが、そうかな…。確かに、WhatsAppの会話記録が(政治的に)ヤバいので、国安法前夜にさっさと欧米へ逃げた連中と、レイモンドの行動は重なるものが無いとは言えないけど…。小生的には、ちょいちょい嵌め込まれる「ああ、25年が過ぎたか」と感じさせる映像や、地図アプリなんて優れモノがない時代に、觀塘の工場ビル街で目的地にたどりつく苦労や、3人が持ち寄った携帯電話に懐かしさを感じるというくらいしか共感はなかったなあ。前作の『緣路山旮旯』がよかっただけに、いささか残念な内容だった。

どの機種も懐かしい!が、生まれた時にはすでにスマホ社会だった世代にはそこまで響いただろうか… ©高先電影

むしろ多くのゲスト出演者を見て楽しんだ。

レイモンドが飛び込んだちょいと怪しい携帯修理屋を楊偉倫(ヨン・ワイルン)。こういう照明の当てられ方がよく似合う(笑)。『正義迴廊』で人気ブレークして以来、引っ張りだこである。

鍾哲の奥さんが働くカフェの同僚に、阿正こと黃正宜(ボニー・ウォン)。商業電台叱咤903のDJだが、しゃべくりの面白さからViuTVのバラエティ番組の出演数も増える。本作でもテンポのいい喋りが「ラジオの人」っぽくてよかった。

3人が食事した私房菜の日本人寿司職人に黃修平(アダム・ウォン)監督。こうやってちょいとカメオ出演するのが好きみたい。岑樂怡(ボンド・サム)が三役出演。この人自体は良く知らないんだけど(笑)、三役ってのが珍しい。携帯ショップの店員、私房菜の給仕は、すぐにわかった。ベテランの區嘉雯(パトラ・アウ)も白蘭花売りの老婆と、電話を貸してくれない工場ビルの保安員の二役。

工場ビルの清掃員に程展緯(ルーク・チン)。実際に清掃員でありながら、世界的な芸術家。面白い人選だなと。

黃浩然監督には「次回は頼みますよ~」ってところだ。

「私自身スマホが苦手。色々できるが、その色々が私にはできない。機能に追いつけていないんです」と黃浩然(アモス・ウィー)監督。ああ、わかるわ(笑)

【《#全個世界都有電話》】正式預告

(令和6年3月10日 ABCホール)

三人の主役の一人、陳湛文(チャン・チャームマン)の映画初出演作。監督は小生の朋友、陳果(フルーツ・チャン)。決して子供には見せないでほしい内容(笑)。


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