【上方芸能な日々 文楽】令和5年夏休み文楽特別公演<第3部>


夏休み公演第3部は例によって<サマーレイトショー>。18時30分開演では、全然「レイト」じゃないんですけど(笑)。何度も言ってるが、この時間帯、なかなか労働者には難しい時間帯。できれば19時開演くらいにはならないものか。そうすれば、観客動員は飛躍的に伸びると思うんだが…。今回も、開演後からの特別料金チケットが販売された。どれくらい寄与したんだろうか。

慶事である。玉男さんが人間国宝に認定された。現役の人形遣いとしては、勘十郎さん、和生さんに続き3人目。「人手不足で駆り出された近所の子」が人間国宝にまで昇り詰める。泉下の先代もさぞやお喜びであろう。おめでとうございます!

人形浄瑠璃文楽
令和5年夏休み特別公演 第3部「サマーレイトショー」

その玉男さんが団七九郎兵衛を遣い、舅の義平次を和生さんで、夏芝居の定番『夏祭浪花鑑』。なんか2年に1回くらい観てますなぁ(笑)。それでも全く飽きないというのは、大阪の夏にこれほどマッチしている芝居はないということだろう。実際、全体が醸し出す空気感は、どこまでも暑く、どこまでも湿気まみれである。そして鳴り響く地車囃子、「ちょいさ、ちょいさ」の掛け声…。That’s Osakaであります。

さすがに1~3部を床直下で見物できるほど裕福な家庭ではないので(笑)、3部は二等席からww

夏祭浪花鑑

「住吉鳥居前の段」

口 亘 錦吾
奥 睦 清友

義平次、お辰、おつぎ以外が全員登場する場面。なので「この人は、こういう人です」というのをしっかり伝えることが肝要。

亘は冒頭から色々出てくる登場人物を語り分けていた。上手い下手でなく、ちゃんと世話物になっていた点を評価したい。どちらかと言うと、時代物向きかと思っていたが、こういう一面を見せてくれたのはうれしいところ。

睦も時代物向きという印象ではあるが、時に世話物をしっかりと聴かせることもある。今回もそう感じていたが、終盤になって、やや崩れたか。そこをカバーして余りある清友師の三味線はさすが。持ちつ持たれつではあるものの、その域を早く脱してほしいところだが…。

人形は一輔が遣うお梶がかっこいい!

「釣船三婦内の段」

切 千歳 富助
アト 咲寿 寛太郎

『夏祭~』は次の「泥場」がクライマックスとなっていて、話題もそこに集まるが、実はこの「釣船三婦内の段」は非常に面白い。小生はかねがねこの段を「お辰の物語」と呼んでいるが、お辰だけではない。おつぎも琴浦もこの段を非常に聴きどころ見どころの多い段に作り上げることに貢献している。そのへんを、千歳太夫が切語りとして鮮やかに聴かせる。近年にないほどにグッと引き込まれる語りだった。

しかしなんですなぁ、お辰という人はすごいね。「一旦頼むの頼まれたと言うたからは、三日でも預からねばわしも立たぬ。アイ、立ちませぬ。サ、ササ、立ててくだけんせ、親仁さん」と三婦に迫るところなどは、侠客の妻としての度胸となんとも言えぬ色香を感じる。さらに鉄弓を顔に当てた後の「コウ傷付けて預かる心、推量してくださんせ」の言葉。胸に染み入る。こうまでされると、さすがの三婦も「できたぁ~!」と叫ぶしかないわな。お辰を遣った勘彌さんの上手さが光る。

こうして切語りが大役を果たしたアトの咲寿は、一気に場面転換のという役どころを勢いよく聴かせて、客席を前のめりに持ってゆく役目を果たした。若い太夫だからこその魅力を感じた。

「長町裏の段」

義平次 
団七 
燕三

藤太夫と織太夫がどんな泥場を展開するのか。そこに興味が集中する。藤太夫さんは義平次という悪だくみしか脳にないような、憎たらしいジジィを上手いこと語って聴かせ、織さんは織さんで、これまでとは違い、抑え気味にして語ることで、義平次の奸計に追い詰められていく団七の苦しみを表現することに成功していた。まさに舅への義理と今のこの状況に対する怒りの板挟みにもがく団七の心の叫びだった。今公演の泥場は、日を追うごとに評判が評判を呼んでいたと思うが、こうした二人の心象表現の巧みさがご見物を引き付けた成果ではないだろうか。

人形は団七の玉男さんが極上。義平次を殺めてからの一つ一つの決めが、とにかくカッコいい。丸銅でただでさえ「マッチョ」な団七をさらに大きく見せる遣いようで魅了する。和生さんの義平次も厭らしさや憎たらしさを醸し出す。この役の場合、団七みたいな決めの型ではなく、空気感のようなものが必要かと思うが、その厭らしぃ~空気感をじめ~っと感じさせる遣いようだった。かしらがガブに転じていっそうその空気感は増したようにも見えた。

地車囃子は、大阪の高温多湿な夏の夜にぴったりの音色。汗で浴衣が肌にへばりつく気分になるのだから不思議だ。この芝居を締めくくるのに、これほど適した音色はないだろう。

人形について。三婦の玉也さんは三婦の人間像をうまく表現していた。適役だった。紋吉のこっぱの権と簑太郎のなまの八、玉助の一寸徳兵衛も役にふさわしい遣い方が印象深い。

と、こんな感じで、なかなかに見どころ聴きどころの多い『夏祭~』であったが、訪れた日は入りが芳しくなかったのは、何とも残念…。確かに夏芝居の定番中の定番、人気狂言ではあるが、頻発はよろしくないということだろう。そこは考えものである。どうせやるなら「内本町道具屋の段」、「田島町団七内の段」までの完全版でお願いしたいところである。大阪ではしばらく見せてもろてませんよー。

(令和5年8月8日 国立文楽劇場)

これぞ「完全版」!「内本町道具屋の段」「道行妹背の走書」「田島町団七内の段」も収録。出演陣も越路師匠、南部師匠、伊達路時代の伊達はん、叶太郎師匠、先代勘十郎師匠、先代玉男師匠…。まさにスター総出演の様相!


コメントを残す