【上方芸能な日々 文楽】文楽若手会

<先週の「鑑賞教室」の時よりも、さらに暑さが増してきた。暑い日は冷房完備の文楽劇場で過ごしましょう!>


実は、本公演よりも楽しみなのがこの「若手会」。何と言っても、木戸銭がお安い。これはとても大事(笑)。若手が大役を語る、弾く、遣うのが嬉しい。演目は、大体が正月公演や4月公演でかかったものになるので、「なるほど、ここはまだまだしんどいな」とか「おお!なかなかやるやんけ!」など、まさに若手の技量を見るのにうってつけ。あと、お安いからか、客席はお子さんや若い人も多く、心なしかカジュアルな雰囲気がして、案外とノリもよい。気軽に文楽を楽しもうという空気がいい。もちろん、舞台に出る側は、この日に向けて必死でお稽古を重ねており、それ故に、熱気が伝わって来る舞台が多い。等々と、いいことづくめなのである。中には期待を大きく裏切られることもあるけど、そこは若さゆえのこと。反省して頑張る糧にしてくてれればいいのだ。

今年は「すしや」と「新口村」がどちらも正月公演でかかった。「釣女」はお馴染みの景事。どんな「発見」があるか楽しみ。

人形浄瑠璃文楽
第32回文楽若手会

義経千本桜

 <すしやの段>

前:芳穂 友之助
後:希 清

盤石の4人だった。「若手」とは言え、4人とも20年以上のキャリアだから、当たり前と言えば当たり前なんだろうけど、文楽はこの辺のキャリは、まだまだ若手である。本公演で、ここを任せてもらえるのは、もう少し先の話になる。芳穂の安定度は言うまでもないが、希も最近は時代物で骨太な語りを聴かせてくれるようになってきた。どうしても体型同様に、線の細さを感じたものだが、このところは、ずしんと響くようになってきた。芳穂も希も三段目の切場を息切れすることなく、たっぷりと聴かせてくれた。

人形では、玉翔の権太が良い動きを見せていた。玉翔のニンに合った役どころだろう。

傾城恋飛脚

 <新口村の段>

口:薫 清方
前:亘 清公
後:靖 寛太郎

節季候(せきぞろ)、古手買(ふるてかい)、巡礼(実は丹波屋八右衛門)が入れ代わり立ち代わり忠三郎宅を訪れ、その度に女房に追い返される。追い返す様がコミカルな感じ。ここを太夫で3年目の薫太夫、三味線も4年目の清方で。薫は「なかなか舞台度胸が据わってる」と注目しているんだが、こういうノリの場面は苦手なのか?ちょっとグダグダに聴こえてんだが…。

追われる身の梅川、忠兵衛が忠三宅にやって来て、この段がクライマックスへと向かう。まずは亘太夫と清公で。時代物を雄壮に語るイメージの亘だが、世話物も結構やるやんけ~、って感じ。こういう発見が、若手会のいいところ。「世話物、OKです!」としっかりアピール出来たんじゃないだろうか。

クライマックスは靖太夫、寛太郎。未来の切場を任せられるであろう二人。これは好演。忠兵衛と親・孫右衛門になんとか「今生の別れ」をさせようと苦心する梅川、逸る忠兵衛、悲しい結末を迎えると知りながら、二人の逃避行を助ける孫右衛門…。いくつもの「情」が交錯し絡み合う名場面。客席の反応も非常に良かった。靖も時代物の印象が強いが、世話物代表格と言えるこの場面を、やり切って、またステップアップしたと感じた。

人形では、孫右衛門の玉勢が老父の子を思う気持ちをよく表現していた。一方で、忠兵衛の勘次郎がややバタついていたように見えた。

釣女

太郎冠者 小住
大名 
美女 
醜女 咲寿
錦吾 燕二郎 清允 清方

<人形>
太郎冠者 勘介
大名 玉路
美女 蓑悠
醜女 和馬

この中で最も「古手」は咲寿で19年目。「そうか~、もう19年になるのか…」と、思わず遠い目になってしまう(笑)。と言うことで、非常に若い座組で追い出し景事でおなじみの『釣女』。昔は醜女の首(かしら)は、いかにも醜女という感じだったはずだが、昨今は何かと五月蠅いのか、もっぱらお多福で、醜女どころか愛嬌がある(笑)。そんな風貌で「悔しい~」と太郎冠者を追っかけるのだから、もはや「かわいらしい」とさえ感じる。醜女は醜女であって欲しいんだが、そうはならいのは時代ということか…。

舞台は楽しく明るく、そしてノリ良く。ご見物もお喜びのご様子は何より。そういう空気を作れたということを、自信にしてくれたらいいなぁ。

ついでながら、パンフをタダでいただけるのは嬉しいんだが、昨年までは綴じだったのが、今年は蛇腹折りになり、メンツのプロフィールの文字がめっちゃ小さくなってしまって、その場では全く見えず…。帰宅して老眼をかけてやっと見えるほど小さい文字。あれは大概不親切ですよ、来年から改めてもらえませんか!何かと諸物価高騰の折、印刷経費もバカになりませんけど…。よろしくひとつ。

文楽研修生」の応募がゼロだった。それを以て、メディアは「危機感」を訴えるが、小生の感覚では現状では「危機」は感じていない。「ああ、ま、そんな年もあるよな」ってところ。これが3年も4年も続くと、話は別だが…。

あの研修カリキュラムは、小生のような古典マニアには垂涎の内容で、「これ全部、タダで教えてくれるんですか!」ってもんだが、なかなか目を向けてもらえないようだ。劇場はもちろんのこと、技芸員も自身のSNSなどで呼びかけているが、効果のほどは、応募人数を見ればわかる。原因は色々あるんだろう。それも多岐にわたっているんだろう。一朝一夕に解決できるものではないはずだ。演じる方とすれば、前週までの「鑑賞教室」や今回の「若手会」のような、カジュアルに文楽を見物できる機会を増やすとか、従来もやっている学校へ出向いてのプチ公演を地道に継続してゆくしかない。

「文楽見てちょうだい!」のPRが徹底的に不足している。そこが一番の問題やな…。

なお、文楽劇場では、期間を設けずに32期研修生を「随時募集」。詳しくは下記より。

文楽研修生 募集要項

(令和5年6月25日 国立文楽劇場)


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『菅原伝授手習鑑』『仮名手本忠臣蔵』とともに、文楽の三大名作のひとつと評される『義経千本桜』。NHKと国立劇場に保管されているアーカイブ映像より、全段をDVD4枚に収録。人間国宝の竹本住大夫や、今は亡き名人・竹本津大夫、先代鶴澤燕三、吉田玉男、先代桐竹勘十郎らの名演を収録した決定版。DVD-BOXには、購入特典として床本集を封入。(Amazon.co.jp)


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