【睇戲】過時·過節 <日本プレミア上映>

第18回大阪アジアン映画祭」も、いよいよ今日が最終日。一応、短編も数本観たし、長編は相も変わらず華語片ばかりだったけど、ここまでは、どの作品も良作で、なかなか良い時間を過ごせたと思う。本日は3本観るが、引き続いて良作揃いであることを望む。腰は限界を越えているけど(笑)。まずは、小生好みの毛舜筠(テレサ・モウ)、謝君豪(ツェー・クワンホウ)が出演の『過時·過節』から。朝早いので、「起きれるかな~」とドキドキしたけど、なんとか間に合った(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》|コンペティション部門
過時·過節 邦題:香港ファミリー <日本プレミア上映> 

港題『過時·過節』 英題『Hong Kong Family』
邦題『香港ファミリー』
公開年 2022年 製作地 香港 言語:広東語
評価:★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):曾慶宏(エリック・ツァン・ヒンウェン)
編劇(脚本):楊兩全(ヨン・リョンチュン)、呂筱華(ロウ・シウワー)、曾慶宏
監製(プロデューサー):莊麗真(パトリック・チェン)、陳淑賢(スーザン・チャン)
配樂(音楽):蔡德才(ジェイソン・チョイ)
摄影指導(撮影監督):黃錫強(レオ・ウォン)

領銜主演(主演):毛舜筠(テレサ・モウ)、謝君豪(ツェー・クワンホウ)、呂爵安(イーダン・ルイ)、談善言(ヘドウィグ・タム)、袁澧林(アンジェラ・ユン)、盧瀚霆(アンソン・ロー)、馮素波(アリス・フォン)
主演(出演):周志輝(チャウ・チーファイ)、黃寶漳(ミクソン・ウォン)、陸詩韻(シャロン・ロク)、梁健平(サム・リョン)、馮挺然(フォン・ティンラン)、黃梓樂(シーン・ウォン)
友情客串(友情ゲスト出演):梁祖堯(ジョーイ・レオン)、張達倫(マックス・チョン)

《作品概要》

傷害事件スレスレの家族内トラブルをきっかけに、家庭崩壊が始まった香港の中流家庭。数年後、失職した夫はタクシー運転手となり、「会話する」言葉を失った。妻は家政婦のバイトを始め、シングルファーザーの雇い主に密かに心ときめいている。離婚し、実家に出戻った娘は就職をせずに街を彷徨う。そして、父と対立した息子は、あれから家に戻っていない。ひとり、老人ホームで暮らす祖母は、冬至の日に一家団欒の食事を願うのだが……。<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ

すっかりおなじみとなった、新人監督をサポートするプログラム「首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)」の第5回入選作品。大阪アジアン映画祭では、毎年、多くの作品が上映されている。今回も本作のほかに『流水落花』も入選作(第6回)である。香港では、昨年11月に公開が始まり、HK$1,270万を超える興行成績を残している。これはヒット作と言えるに十分な数字。ちなみに同プロジェクト入選作では、『淪落人』、『一念無明』に次ぐ好成績である。

冬至」の家族メシという、香港人にとっては非常に重要な家庭行事を描いているのも、公開時期的に好成績につながる理由の一つだったと思うが、何よりも、今を時めくアイドルユニット「MIRROR」から呂爵安(イーダン・ルイ)、盧瀚霆(アンソン・ロー)という、ViuTVで放映され話題沸騰となった『大叔的愛(香港版・おっさんずラブ)』のカップルが出演というのが大きいかな(笑)。やはり毛舜筠(テレサ・モウ)が主演の、昨年の『阿媽有咗第二個』に続き、今年もまた「MIRRORの洗礼」を受けた小生であった。会場には多くの「MIRROR迷(ファン)」も詰めかけていたようで、大変平和でよろしい。

センターが呂爵安(イーダン・ルイ)、向かって左のグレーのスーツが盧瀚霆(アンソン・ロー) ⒸViuTV

『おっさんずラブ』はさておき。

香港で奉公していた時分、冬至はあんまり好きではなかった。小生が奉公していた業界は、基本、この時期に超多忙を極める。そんな中、香港人スタッフは「じゃあね~」とさっさと引き上げる。中華社会において、冬至には家族でメシを食うという習慣があるのは、重々承知だが、「もうちょっと気ぃ遣えよ!」ってムカッとしながら、一人取り残された部内で年末の締めくくりに向けて、あと一仕事どころか、三仕事も、五仕事もこなすのであった…。

そんなことも思い出しながら、最初は「へっ!勝手に一族でメシ食うとれや!」って気で観ていたら、あららら、これは大事件すれすれですよ、みたいな騒ぎに。いや、もう立派な事件だろう、この状況は。

婆さんの家に向かう車中から、すでに家族のバラバラ感が浮き彫りに

上の写真は、冬至メシのために婆さんの家に向かう車中。運転しながら高圧的な発言を繰り返す妻の玲(演:毛舜筠)。ゲームに夢中の息子の陽(演:呂爵安/イーダン・ルイ)、音楽を聴くことですべてをシャットアウトする娘の琪(演:談善言/ヘドウィグ・タム)。終始険しい表情の旦那、陳旭真(演:謝君豪)。大体、この妻というか母親は、どうしてああもヒステリックで、旦那に対して上から目線でものを言うんだろう。加えて、妻方の母親(演:馮素波/アリス・フォン)も大概、口の悪い婆さんである。なんかもう、これでは旦那サン立つ瀬無しではないか…。と思ってたら、ついにキレちゃったな、旦那サン。よく死人が出なかったことだ…。

双方ともに、ため込んできたものが一気に爆発。楽しいはずの冬至メシも台無しだが、車中にあの雰囲気は、こういうことが起きても不思議でないという伏線だったか

一歩誤れば惨劇という冬至から8年。元々はエンジニアだった旦那は、金融危機の影響で退職を余儀なくされ、夜間タクシーの運転手に。妻は、シングルファザーの家庭の家政婦として生計を支える。娘は一度結婚したが、すぐに離婚して、出戻り。息子は、あの冬至の日に父に張り倒されて以来、家を出て一人暮らしを続ける。ただでさえ無口で自分表現が下手だった旦那は、いよいよ無口となり、家族とのコミュニケーションは完全に途絶える、という、崩壊状態の一家。観ているだけで、息が詰まるような家庭。

完全に心を閉ざしてしまった旦那サン

原因は何だろう?と考えながら観る。夫婦の性格は、上述の通り。息子は、父親似だな、地雷を踏まれて一気に爆発したわけだ。一見、「父親vs息子」の対立、断絶かと思うも、最後まで映画を観たら、決してそういうわけでもなさそうで、むしろ、「似た者同士」で理解はしているんだろうなとも思う。ここらへんは実に複雑だ。小生自身がそうなのだから…。何の小説だったか忘れたが、息子が父親のことを「しゃらくさい」と語ったシーンがあったが、そんな関係かもしれない。う~ん、ちょっと違うかな…。

家政婦先のシングルファザー(演:張達倫/マックス・チョン)に密かに心を燃やす玲。ちなみにその家のかわいらしい男の子は、この前観たばかりの『流水落花』で、里子役の一人だった黃梓樂(シーン・ウォン)。なかなか活躍してるやん。だが、この父子は、サマンサなるいかにもやり手(仕事にも、恋愛にもww)という雰囲気プンプンのアレンジメントで、移民の準備を着実に進めており、ついに玲もお暇を出されてしまう…。職を失ったショック以上に、シングルファーザーやその息子との別れにショックを隠せない玲…。

「生きがい」だった家政婦の職を失い、茫然自失で帰路に就く…

一方、出戻りの長女の琪は、就活と偽って毎日リクルートスタイルで出かけるが、実は当てもなく街をぶらついていた。そんな折、道端で石を売る青年、ノーマン(演:黃寶漳/ミクソン・ウォン)と近しい関係に。ある日、彼に山歩きに誘われたのだが、すっぽかまされて、やめときゃいいのに一人で山へ。案の定、迷ってしまい、結局、両親に救出される。ここで夫婦が関係修復に向かうのかと思ったが、そうはいかなかった…。しかし「世界を旅している」とか言って、道端で石売ってるような奴は、あかんな(笑)…個人の感想ですw。

一番重症だなと思いつつも、一番感情移入できた息子の陽。マブダチの雀仔(演:盧瀚霆/アンソン・ロー)とVRゲームを開発している。彼は、陽にとっては本当に好好朋友だなと思った。常に鬱屈していて怒りを胸に秘めている陽のことを、一番理解していて、一番心配して、いつも寄り添ってやっている。ゲームに投資してくれる人を探し、陽に紹介したりと、何かと骨を折っている。それだけに時に激しく衝突することもある。「陽、雀仔みたいないい奴、そんなに人生に現れないから、離れられるようなことはやめとけよ!」と、ハラハラしながら二人を観ていた。ホント、息子を思う親の気持ちですよ、この辺は(笑)。

投資家と陽を引き合わせる雀仔。実は投資家もまた、家族との間に問題を抱える父親だった…

そんな中、また冬至の日が来る。養老院に入っていた玲の母親、あの口の悪い婆さんも交え、冬至メシをやろうということになったが、旦那は佛山で友人とビジネスを起こすことを決心し、息子はいまだ家に寄り付かない。女たちだけの冬至メシが開かれる。移住先の英国で亡くなった婆さんの息子の明の娘、悅(演:袁澧林/アンジェラ・ユン)もやって来た。袁澧林と言えば、前日に観た『窄路微塵』の女主人公。これから色々な作品で見かけることになりそう。今回共演の談善言(ヘドウィグ・タム)が、まさにそうだったから。

多分、婆さんを交えた冬至メシは、これが最後なんだろうな…

結局、男二人はこの場に現れなかったが、それはそれでよかったんじゃないだろうか。そりゃ、冬至のメシに一族郎党が顔を合わせるのは理想かもしれないけど、別にそうでなくても、それぞれが信じた道を行くのであれば、決してそこにいなくてもよいのではないかと、他人様の家庭のことに口を挟みたくなるような終わり方だった。あの父と息子は和解するのか、しないのか…。ではなく、あの父と息子はきっとお互いをわかっているはず…。そうあって欲しいなあ…。

陽は最後まで父に喧嘩腰だったけど…

さて、MIRRORの二人。二人とも長編映画はこれが二作目ながら、今、香港で一番人気のあるアイドルであることをすっかり忘れさせるくらい、役に入り込んでいた。盧瀚霆(アンソン・ロー)は出番はそれほどではなかったけど、陽の良き理解者として、そして陽とは正反対の明るい性格の、柔軟な考えの持ち主を好演していた。一方、呂爵安(イーダン・ルイ)は、「陽」という名前とは裏腹に、常に鬱屈と怒りの表情を消すことなく、「取扱注意」のステッカーを全身に張り付けたような、扱いにくい青年を見事に演じていた。

上映後は、例によってQ&A。曾慶宏(エリック・ツァン・ヒンウェン)監督の答えで印象に残っているのがある。大体、こんなこと言ってたと思う(笑)。「エンディングは、いろんなパターンを考えていだが、これが一番相応しい終わり方かなと思いました」。ハッピーエンドではなかったけど、いずれまた、みんなで冬至にメシを食う日もあるんやないかなぁーと、ほんの少しだけ期待を持たせるような終わり方…。う~ん、別に向いている方向が違うのなら、無理に会うこともないと思うけどな、俺は…。口の悪い婆さんが言うてたやろ、「有多少人在,就多少人吃(居てる者だけで食うたらええがな)」って。

【全新預告】《過時·過節》

《受賞など》

■第29屆香港電影評論學會大獎
・推薦作品:『過時·過節』
・他2部門にノミネート

■第19屆香港亞洲電影節
・観客賞:『過時·過節』

■第6屆平遙國際電影展
・観客賞:『過時·過節』

■第41屆香港電影金像獎
・1部門にノミネート

(令和5年3月19日 ABCホール)





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