世はWBC一色。侍ジャパンの戦いが大いに気になるところだが、小生は台湾のチアガールの皆さんが非常に気になる(笑)。楽しいね、台湾の応援は。
今日は今回初めて台湾映画の長編。なんかここ数年、台湾から長編でいいのがあるというような声が減っているような気がする。あくまでも「気がする」だけど。そう言えば、大阪アジアン映画祭でも、短編の良作が目立つ一方で、長編の上映が少ないんでは?とも感じるが、果たしてどうなんだろう…。「これ、おもろいやん!」って作品が少ないなぁ。今は低調期に入ってしまったのかな…。それだけに、今日観る『本日公休』と明日見る『黑的教育』への期待が高まる。さて、どうでしょうか…。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
コンペティション部門
本日公休 邦題:本日公休 <日本プレミア上映>
台題『本日公休』 英題『Day Off』
邦題『本日公休』
公開年 2023年 製作地 台湾
言語:閩南語、標準中国語
評価:★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):傅天余( フー・ティエンユー)
編劇(脚本):傅天余
監製(プロデューサー):吳念真(ウー・ニェンチェン)、吳明憲(デニス・ウー)
配樂(音楽):鍾興民(Baby-C)
摄影指導(撮影監督):張誌騰(ツァン・ツーテン)
領銜主演(主演):陸小芬(ルー・シャオフェン)、傅孟柏(フー・モンボー)、陳庭妮(アニー・チェン)、施名帥(シー・ミンシュアイ)、方志友(ファン・ジーヨウ)
特别演出(特別出演):陳柏霖(チェン・ボーリン)、林柏宏(オースティン・リン)
客串演出(ゲスト出演):胡智強(フー・ジチャン)、千千(チェンチェン)、阿翰(アハン)
《作品概要》
常連客に支えられて40年、昔ながらの理髪店を営んできた阿蕊(アールイ)。一人息子に二人の娘、元娘婿に幼い孫、微妙な距離感の家族との関係もそれなりに、阿蕊の毎日は穏やかに過ぎていく。そんなある日、遠くの町・彰化から通い続けていた男性客が病の床に伏したことを知った阿蕊は、店に「本日公休」の札を掲げ、彼の散髪をするために、古き良き時代の愛車VOLVO 240GLに乗り込むのであった……。<大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ>
上映後のQ&Aの時間に言っていたお客さんもいたが、まさか21世紀になって、大阪で陸小芬(ルー・シャオフェン)に会えるなんて!という感激でいっぱいだった。この日、ABCホールに来た人の多くがそう思いながら映画を観て、舞台挨拶に登場した陸小芬を見つめていたことだろう。1990年公開の『客途秋恨』で、日本でも名を上げた陸小芬だが、1999年公開の『小卒戰將(日本未公開)』を最後に、スクリーンから遠ざかっていた。その彼女が今回、「この脚本を待っていた!」とばかりに再びスクリーンに帰ってきたのだ。それだけでも超感激なのに、大阪へも来てくれたということに興奮しないわけがない!こんな奇跡のような瞬間にいることができて、「長生きするもんやね~」としみじみ思う…。
『客途秋恨』から33年もの歳月が流れ、陸小芬はすっかり台湾の歐巴桑(「おばさん」と発音する)になっていたけど、開業40年の理髪店を一人で切り盛りする理髪師の生き様やプライド、さらには一男二女の母の顔をたっぷり見せてくれた。
陸小芬演じる阿蕊(アールイ)の店も、客の年齢は高くなり、どこか茶飲み友達が寄り合う場所のような感じがしないでもない。今や、日本でもほとんど見られなくなったスタイルの理髪店は、店舗と居住空間の仕切にガラス障子があって、懐かしさを覚える。
作品は、家族のストーリーである。「断絶」というほどではなく、世代間の意見の相違ではあるが、3人の子供たちはそれぞれ、阿蕊とは少しばかり対立している。ソーラーパネルへの投機で一攫千金を狙う阿男(アーナン 演:施名帥/シー・ミンシュアイ)、広告制作のスタイリストの阿欣(アーシン 演:陳庭妮/アニー・チェン)とヘアサロンで働く阿玲(アーリン 演:方志友/ファン・ジーヨウ)には、阿蕊の暮らしや仕事は「時代遅れ」と映っているように見える。
実は、この3人の子供以外に、阿蕊には元・娘婿と孫がいる。阿玲の元旦那で自動車整備工の阿川(ア―チュアン 演:傅孟柏/フー・モンボー)と彼が育てている孫は、定期的に阿蕊の店に散髪しに来る。イケメン俳優の傅孟柏だが、この作品では前髪パッツンの坊ちゃん刈りである(笑)。しかし、そのヘアスタイルが、腕利きの整備工で誠実な阿川にはぴったりであった。ま、若いから、毛はすぐ伸びるよ(笑)。
別れたとは言え、阿川と阿玲はまだお互いに踏ん切りがつかないでいるのだが、阿川の友人たちが、阿川を交えて合コンの席を用意する。そこに現れたのが洗浄機付き便器の営業をしている女性。演じているのは、大食いYouTuberの千千(チェンチェン)。それぞれが惹かれ合うものがあったようで、最終的にはこの二人はひっつくことになるのだが、それによって、「別れた妻の実家」である阿蕊の理髪店にも、これまでのように頻繁には来れなくなる。ひとまず最後となる散髪の際に、「今までみたいには来れないけど」と元の義母である阿蕊に言葉を掛ける阿川のなんと性格の良いことよ…。3人の実の子供より、元娘婿の方が、阿蕊には優しく接していたなぁ…と思うも、ま、こういうもんだわな、実の子って(笑)。
この物語のメーンになるのは、《作品概要》にも記したように、阿蕊が引っ越し先で病床に伏せている長年の御贔屓の歯医者さんの散髪に、「本日公休」の看板を掲げて出かけて行くという展開。本来は、阿川が付き添うことになっていたが、当日朝、顧客から大至急の依頼があり、阿蕊が一人で行くことに。慌てていたためか、或いは年齢による物忘れか、スマホを忘れて行くということで、波乱が起きるわけだが…。
なんとか御贔屓の家にたどり着き、すでに亡くなっている御贔屓をベッドに寝かせたまま散髪する阿蕊。「この商売は、お客様に最後まで奉仕しなければならない」という思いで仕事をやり遂げる。このシーンは非常に感動的だった。阿蕊の眼差し、それを涙目で見つめる家族たち…。無口だった歯医者さんだが、息子や娘には期待していたと、子供たちに語り掛ける。それは、きっと阿蕊自身も…。このシーンはあかんかった。いや、映画があかんのと違うて、小生自身が涙腺決壊寸前だったという意味で…。
阿蕊がここにたどり着く前、サイエンスパークを脱サラして、掘っ立て小屋で農業を営む若者(演:陳柏霖/チェン・ボーリン)に道を聞くのだが、彼が電気はソラーパネルでまかなっていることを知り、息子の阿男にも少し理解を示すような雰囲気に…。多分、「ああ、こういうことを言ってるのか」とちょっとわかったのかな。それは歯医者さんの家族への言葉の伏線になっているかもしれない。まあ、歐巴桑(おばさん)は歐巴桑なりに子供たちのことを理解してやろうとは思っているんだわ…。「時間があれば家に帰って」と、母親の思いを彼に語ってもいるし…。
「本日公休」と札を出して、スマホを置いたまま行方の知れなくなった阿蕊を心配して3人の子供たちが店に集まる。それぞれに母を心配している。少しばかりの世代間の考えの違いはあっても、やっぱり母親が心配なのだ。そんな優しいシーンだった。
阿蕊が師匠の下で修業していた時代の回想シーンも、感動的。阿蕊の理髪師としての技術、プロ意識がどのように養われたかを知る一端だった。
ラスト、阿蕊ら歐巴桑たちが遠浅の海で羽をのばして「イェ~イ!」とジャンプしてる場面、阿玲とアンディが独立したのか「QBハウス」を営んでるシーンが、ちょっと「ええ?」だったけど(笑)。
傅天余( フー・ティエンユー)監督は、自分の母親の物語であると言う。舞台となった古風な理髪店は、今もお母さんが営んでおられる店。そのお母さんは、客席にいらっしゃった。典型的な台湾の歐巴桑だった(笑)。また、阿川を演じた傅孟柏(フー・モンボー)の弟さんも客席にいた。監督は、この映画を通じて、母親の思いや感謝を目いっぱい伝えたかったんだろう。それに大女優の陸小芬(ルー・シャオフェン)が応えてくれた、そんな作品だった。台北と違い、のどかな台中郊外の風景もまた、心を穏やかにさせてくれた。
さて、この映画には、先ほども触れた大食いYouTuberの千千(チェンチェン)がゲスト出演しているが、もう一人、人気のYouTuberが出演している。娘の阿欣が撮影に携わっているCMに登場する「スター」役の阿翰(アハン)である。作中、ちょいちょい映る撮影現場、完成したCMがテレビから流れるシーンなど、日本語のセリフでこのCMは流れる。コミカルなシーンだが、ちょっとした箸休めで、いいアイデアだった(笑)。
もう一人、ゲスト出演で胡智強(フー・ジチャン)が理髪店へやって来た中学生役で登場。モテる髪型にしたいとのオーダーだったが、帰宅後、母親に叱られて、哀れにも丸刈りにされるという役。胡智強は昨年の金馬獎で新人賞を受賞し助演男優賞にもノミネートされた若手の注目株。ちょいととぼけた感じがいい。これから出演作品が増えていくことだろう。
2023最暖心電影【本日公休】正式預告
(令和5年3月17日 ABCホール)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。