【睇戲】一秒拳王


昨年のあまりにも少なかった映画鑑賞本数を大反省し、正月早々から香港映画。

毎年、11月から新春にかけてシネマート心斎橋、新宿で開催される「のむこれ」。観ておきたい作品が必ずいくつかあるのだが、なにせ小生の商売の繁忙期にあたり、「ああああ…」と思っているうちに上映終了ということに。今回も華語片のほとんどを観ること叶わずじまい。で、「もう、これは絶対観ておかなあかんよ!」と心に固く誓ったのが『一秒拳王(邦:ワン セカンド チャンピオン)』。いつも「なんでこの原題がこんな邦題になるねん⁉」とぼやいている小生だが、今作の邦題は原題はもちろん英題もそのまんま、これはこれで「もうちょっと工夫ゆうもんがないか?」と(笑)。そして、ワンとセカンドの後ろが半角アキなのがミソ(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

のむこれ6
一秒拳王 邦題:ワン セカンド チャンピオン

港題『一秒拳王』
英題『One Second Champion』
邦題『ワン セカンド チャンピオン』
公開年 2021年 製作地 香港
言語:広東語、標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

原創故事(原作):趙善恆(チウ・シンハン)
導演(監督):趙善恆

監制(プロデューサー):文佩卿(マン・プイヒン)

領銜主演(主演):周國賢(エンディ・チョウ)
主演(出演):查朗·桑提納托古(チャーノン・サンティナトーンクン)、趙善恆(チウ・シンハン)、林明禎(リン・ミンチェン)、熊倬樂(ホン・チェッロッ)
特別演出(特別出演):盧海鵬(ロー・ホイパン)、袁富華(ベン・ユエン)、黃又南(ウォン・ヤウナム)、蔡瀚億(ベビージョン・チョイ)、黃溢濠(ウォン・ヤットホウ)、周祉君(アーロン・チョウ)、岑珈其(カーキ・サム)、張松枝(デオン・チョン)

《ストーリー》

一秒先を予知できる能力を持つヤン。その能力を生かせず堕落した大人になってしまったが、あるきっかけで、ボクシングを始めることになる。それは男手ひとつで育ててきた、聴覚障がいのある息子リョウに父親として認めてもらう為だった…。<引用:「のむこれ6」公式サイト

タイトル、一見、プロレスリングノア拳王のサクセスストーリーかと(笑)。

ま、冗談はさておき、これ、観てよかった。こういう映画があるってのは知ってはいたが、「どうせ曹星如(レックス・ツォ)の人気に乗っかったしょうもない作品でしょ」としか思ってなかった。<のむこれ>で取り上げられなかったら観ることはなかっただろうし、その他大勢の部類で忘れ去っていたところだが、いや~、ええのんピックアップしてくれたわ。

日本での有名どころは誰一人出ていないけど、それでもこれだけのものが撮れる、っていう香港映画の底力のようなものも感じ取ることができた。まず、子役が最高に良かった。耳の不自由な役をしっかり演じていたし、父親との距離感の変化なんぞを的確に表現していて、いい子役だなと思った。小生なんぞは、あの子に全部持って行かれた!って感じだ。熊倬樂(ホン・チェッロッ)って子だけど、TVBやViuTV、香港電台のドラマに出ているようで、映画はこれが初めて。他にもCMやミュージシャンのMVにも多数出演と、なかなかの売れっ子のようだ。今度里帰りした時にチェックしておこう、と、相変わらずの香港テレビっ子な小生である(笑)。

色々と泣かせるの、この子。小生も聴力が悪いから気持ちがよくわかる…。左はボクシングジムのトレーナーの従妹 、小瑤を演じた林明禎(リン・ミンチェン)

この子の父親、すなわち主役の周國賢(エンディ・チョウ)は時々見かけるけど、ここまでずっと出っ放しってのは初めてやな。まあ、主役やからそうなんやけど(笑)。小生が過去に観た作品では『九龍不敗』に出ていたようだが、そうでしたっけ?ってくらい印象薄い(笑)。俳優というよりも歌手のイメージが強い。小生の在住時はそうだった。

「一秒先を予知できる能力を持つ」というのが、ミソ。これがなかったら、彼は永遠にダメな父親でありダメなおっさん。

父、この通り、お子さんです(笑)

その「一秒先を予知できる能力を持つ」ということで、子供の頃はテレビで引っ張りだこだった周天仁(ヤン)。「今日睇多D」なんて番組にも出演。これって、ATV(亞洲電視)の人気バラエティ「今日睇真D」をパロってるね(笑)。司会者も何守烏って、これまた何守信のことだ(笑)。こういうところ、クスっと笑ってしまう場面。で、このまま神童の道を歩むのかと思いきや、「そんなの何の役にも立たない」と父親(演:黃又南/ウォン・ヤウナム)に言われる始末。実はこの父親もダメっぽい…。大人になってもバーでその日暮らしの毎日なもんだから、嫁さんは愛想尽かして、子供を生むとさっさと他の男のもとへ…。可哀そうなのは難聴で生まれ、ダメな父親と二人で暮らさなければならない良仔。

そんなある日のこと、借金の取り立てに囲まれた仁が、「一秒先が見える能力」で借金取りを蹴散らしたのを、ボクシングジムを経営する葉志信(演:趙善恆/チウ・シンハン)に見そめられ、ジムに招聘される。この葉志信を演じた趙善恆、重要な役どころであると同時に、本作の監督。元々はToNickというユニットのリーダーなんだが、なかなかの多芸多才で、音楽活動だけでなく、俳優、映画監督としても活躍している。

きれいな顔の兄ちゃんだが、映画のために相当鍛えたんやろうね。バキバキの腹筋がそれを物語っている!

葉志信は、仁のトレーナーとして「一秒先が見える能力」を発揮できる闘い方をコーチング。もちろん、バーでウダウダ暮らしていたなまった身体も鍛えなおす。その甲斐あって、仁は連戦連勝を重ねていく…。

仁がボクシングに真剣に打ち込むようになった背景には、息子の存在がある。いじめっ子に補聴器を壊された良仔。いじめっ子の母親に文句を言うも、すごすごと引き下がり、逆に「さ、おばさんに一緒に謝ろう」と、何とも理不尽なことを言う父親の仁。我ながら情けない父と思ったのだろう…。父として、自分はどうあるべきかと思いを巡らせたとき、出会ったのがボクシング。きつい練習に耐えて、強くなってゆく父に、やがて良仔も信頼を寄せて行く。

ボクシングジムの半分は、ジムのトレーナー・葉志信の従妹が経営する大笑瑜伽(ラフターヨガ)の教室。いつか、父と子の間に笑顔も見られるようになる

さて、映画後半は、事故で一秒先が見える能力を喪失してしまった仁が、「俺にはまだ諦めないという能力がある」とか言って、チャンピオンに挑戦するという無謀な、いや、心動かされる展開に。このチャンピオン、ジョーを演じたのが、日本のチラシでは主役扱いになっているタイのイケメン俳優、查朗·桑提納托古(チャーノン・サンティナトーンクン)。このチャンピオン、またの名を「秒殺小子(秒殺王子)」。とにかく強い。そして見よ、この肉体美を!モテるやろな~…。ま、日本的には彼が主役の方がいいのかもしれないが、こういう置き換えは良くない。あくまでもこの映画の主役は、周國賢(エンディ・チョウ)なのである。最初の方で載せている香港版のポスターも領銜主演(主演)として、周國賢一人だけ名前を挙げている。一枚看板、大看板なのである。

試合は案の定、壮絶な展開となった。要は、仁がジョーにボコられまくったのだが、諦めずに何度も立ち上がって立ち向かってゆくシーンの連続に、「それもう、普通はKO負けですってば!」と突っ込みながらも、やがて涙腺が緩んでくるのだから、まんまと乗せられているわけだが、ここまで来たら存分に乗せられようではないか。

「ホンマに打ち合いしてるやろ!」というような白熱のシーンの連続に、格闘技好きの血が騒ぐ。そりゃもう、気分は後楽園ホールのリングサイド(笑)。ちなみにチャンピオンのジョーのトレーナー役には袁富華(ベン・ユエン)。この人も、最近は色んな作品に出ている。

笑いヨガのおねーさんも息子の良仔もリングサイドで心配そうに試合を見つめる

ラストシーンは非常に清々しい。香港映画でこの清々しさはないだろう!ってくらいのもので(笑)。あの終わり方なら、誰も傷つかないから娯楽として映画を観る分には上出来だろう。でも、世の中、そんな人ばかりじゃないからね(笑)。

香港では珍しい「スポ根」ものであるが、それだけにとどまらず、父子家庭における父と子の関係、打たれても打たれても自分を信じ、何度も相手に立ち向かってゆく強い気持ち…。こういうのが上手い具合にからみあって、意外にもと言ったら失礼だけど、ヒットしたんじゃないだろうか。特に「打たれても打たれても……」の部分は、香港人にはグッとくるものがあったのかも。

「日本での有名どころは誰一人出ていない」って最初に記したけど、小生的にはおいしいメンツが揃っていた。仁がウダウダ暮らしているバーのマスターに盧海鵬(ロー・ホイパン)。ボクサーの一人には黃溢濠(ウォン・ヤットホウ)。清掃員役で蔡瀚億(ベビージョン・チョイ)。喧嘩した仁や取り立て連中を取り調べる警察官に岑珈其(カーキ・サム)と、よく見れば色々出ている(笑)。

あと、ラフターヨガ教室を経営する葉志信の従妹・小瑤を演じた林明禎(リン・ミンチェン)は良いね。マレーシアの女優ということで、広東語が苦手なんだろう、作中では「台湾から来た」という設定で、標準中国語を話していた。たまに「広東語もできるわよ」って広東語を話すシーンもあったけど(笑)。

「香港では上映できない作品」なんてのが、次々と日本で公開されているが、小生、あの手の作品からは「香港映画」を感じることができない。色んなメッセージを伝えたい気持ちはわからないでもないし、「記録片」としてはよくできたものだとも思う。しかし、映画はあくまで娯楽として楽しみたい小生には不向きな作品群である。この『一秒拳王』にも、しっかりメッセージは込められている。それでいて娯楽作品としても十分堪能できる。今年はこうした作品が一つでも多く、日本で公開されることを願いたい。

《受賞など》

■第27屆香港電影評論學會大獎
・推薦作品賞:『一秒拳王』
・他2部門ノミネート
■第17屆香港電影導演會年度大獎
・最優秀主演男優賞:周國賢(エンディ・チョウ)
■2020年度香港電影編劇家協會大奬
・最優秀演技賞:周國賢(エンディ・チョウ)
・最優秀脚本賞:章彥琦、何肇康、李浩田、凌偉駿
■第40屆香港電影金像獎
・最優秀主題歌賞:『時間的初衷』 作曲、歌:周國賢、恆仔@ToNick 作詞:鄭敏
・他3部門ノミネート

《一秒拳王 One Second Champion》 終極預告

(令和5年1月4日 シネマート心斎橋)


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