【上方芸能な日々 文楽】第22回文楽若手会


毎年楽しみな「若手会」。普段は左遣いや足遣い、さらには「ツメ人形」でのその他大勢として、黒い頭巾の下の顔を見ることがほとんどない人形遣いが、大きな役を与えられ、「並び物」で先輩たちについて行くのが精いっぱいの太夫や三味線弾きが、「ソロ」の場を与えられたり…。と、そこまでではないが、若い人たちが本公演では就くことのない役どころをやってみせる舞台なんで、「お!」という、嬉しい発見も時々あって、目が離せない。切符もお安くて懐に嬉しい(笑)。

今年は「太十」に「合邦」という大きな場面がかかるので、見逃せない。果たして、びっくりするような発見はあるのか? 

人形浄瑠璃文楽
第22回 文楽若手会

絵本太功記

今年の正月公演の演題でもある。だからと言って、ベテラン勢の「太十」と比較なんて野暮なことはしないけどね。 

「夕顔棚の段」

碩 錦吾

やはり碩太夫はただ者ではないね。まだまだ声は若いけど、先輩連中を脅かす存在になっていくと思う。これからがますます楽しみな若手の一人である。敢えて厳しいことを言うと、「え?ここはその言い方(発音?)でよかったんかな?」という箇所がいくつかあった。と言って、小生も「間違ってる!」と指摘できるほど自信があるわけじゃないww。

「尼ヶ崎の段」

前 小住 清公
後 希 友之助

何と言っても希太夫でしょ、ここは。なんせ「後」だけで1時間近い長丁場。「持ちこたえられるんか?」と心配したが、しっかりやり遂げた。上演中には何度も客席から手が鳴ったし、終わってからも大きな拍手の中で盆が回った。多分、普段は劇場にあまり来ない人も多かったと思うけど、そんな人たちをも、すっかり世界に引き込んだという証だろう。段切をしっかり語ろうとする意思というものが、客席全体に行き渡ったんではないだろうか。もちろん、友之助もよく手が回っていて、聞きごたえ十分の二人だった。

「前」の小住、清公も頑張っており、本公演で出しても十分に通用する立派な「尼ヶ崎」であったと思う。

人形陣もそれにこたえるかのように、玉翔の光秀は出色の出来。「左」は多分、兄弟子のあの人かな?とても配慮を感じた。母さつきの玉誉、操の蓑太郎もよく遣えていた。もっとも、この3人はすでに「若手」ではないわな(笑)。

摂州合邦辻

こちらは今年の4月公演でかかった演目。こういうのは、やっぱり本公演の舞台で、ベテランさんたちがそれぞれの「当たり役」をスイスイとやってるのを、人形なら足遣いや後見で体で感じ、床なら舞台袖や盆の裏で聴いてるだろうから、「ほな次、お前らでやってみ」ってところかな…。俺なんてそんなん、プレッシャーで押しつぶされてまうわ(笑)。

「合邦住家の段」

「そんなん言うてもしゃーないやん」と言われるかもしれないが、さっきの「夕顔棚」もここも、出だしがそれぞれ妙見講と百万遍。題目と念仏ではあるけど、どっちも「お経唱えてる」わけで、被ってるけど、ええの?とは思うわな…。ちょっと気になった。

中 咲寿 燕二郎

小生の「推し」二人。聴く度に、上手になって来たなぁと嬉しい咲寿と、もう初舞台の頃から「末恐ろしい」と思っていた燕二郎、個々のレベルは着実に向上してるんだが、ここは平凡に終わった。端場は端場なりに、この先への予感めいたものを感じさせてほしかった。敢えて「推し」だからこそ、辛口に言うておく。

前 芳穂 寛太郎

申し分のない二人。玉手御前、突飛な行動で父である合邦の怒りはMAXに。「ヤイ畜生め」から始まる合邦の怒りの長科白、合邦はえらい怒ってはるのに、ついうっとりしてしまうほど。寛太郎の三味線も、合邦、玉手御前、合邦女房の親子三人三様の心の機微を上手く表現していたと思う。

後 靖 清丈

これまた先ほどの「尼ヶ崎」の「後」同様に約50分の長丁場。その間、何度客席から手が鳴ったことか。大熱演である。靖太夫は実力だけで言えば、すでに「若手」ではなく、キャリアで「若手」とされているんだなと、改めて確認できる出来栄えだった。浅香姫vs玉手御前の俊徳丸を巡る「女のバトル」から、合邦の「なまいだ~」の連呼まで、客席をしっかりリードしていた。清丈もよく手が回っていて、非常に聴きごたえがあった。

人形は、玉手御前の紋吉が際立っていた。玉手御前の年齢、性格、境遇といった、人物の「スペック」をしっかり見せてくれた。元々、実力派だとは思っていたが、その見方が間違っていないことを証明してくれる舞台だった。一方で、この段の登場人物で、一番難しいのは俊徳丸かと思うが、これを玉路が遣った。まずは丁寧に遣っていたかとは思うが、「何か一つ」物足りなさも感じた。う~ん、それ何だろう…。

しかし、入平って奴(やっこ)は、どこで何してたんや?と、合邦を観る度に思うのは俺だけかな(笑)。

二人禿

亘 聖 薫 小住
清允 燕二郎 清方 清公

(人形)
蓑之 蓑悠

床も人形も「若手をズラッと並べました。若々しく、華やかな追い出しをご堪能ください!」って感じ(笑)。それ以上でも以下でもない。敢えて言えば、床はしっかり頑張ったと思うが、人形にそこまでの意識があったかどうか…。まあ、本人たちは相当稽古したとは思うんだが…。

「お!と言う発見がある」てなことを書いたが、この日は普段から「お!」と思わせてくれている人たちが、改めてそう思わせてくれた。逆に言うと、「こいつ、やるなぁ~」というのがほとんど無かったということだ。決して、成長が停滞していると言うわけではないが、せっかくのチャンスの場なのだ、はじけて欲しいとは思うよな…。

(令和4年6月18日 日本橋国立文楽劇場)


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