この日、2本目は台湾映画で『徘徊年代』。決して、徘徊老人の映画ではありませぬ(笑)。公式カタログを読む限り、これまたちょいと小難しそうな内容ですな…。う~ん、困った…。
コンペティション部門|特集企画《台湾:電影ルネッサンス2022》
徘徊年代 邦:徘徊年代 <日本プレミア上映>
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題『徘徊年代』
英題『Days Before the Millennium』
邦題『徘徊年代』
公開年 2021年 製作地 台湾
言語:台湾語、標準中国語、ベトナム語
評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):張騰元(チャン・タンユエン)
監制(プロデューサー):李遠(リー・ユエン)、林仕肯(リン・シーケン)
主演(出演):阮安妮(アニー・グエン/Annie Nguyen)、江常輝(スティーブン・ジャン)、阮秋姮(グエン・トゥ・ハン/Nguyen Thu Hang)、陳淑芳(チェン・シューファン)
<作品導入>
結婚斡旋業者の仲介で、台湾の地方都市に嫁いできたベトナム人女性ヴァン・トゥエ。外国人妻に偏見のある義母に日々監視の目を向けられ、寡黙な夫とのコミュニケーションも不足気味のトゥエにとって、日々の息抜きは在台ベトナム人の友人との他愛ないおしゃべりであった。そんなある日、仕事のトラブルで情緒不安定となった夫に暴力を振るわれたトゥエは、家を脱出して女性保護シェルターに身を寄せることに。そこでの生活を経て、夫との離婚を決意したトゥエは、台湾での自立を目指すのだが…。<引用:「第17回大阪アジアン映画祭」作品紹介ページ>
英語タイトル『Days Before the Millennium』が指すように、2000年前後の台湾が舞台となっている。そう言えば、さっき観た『喜歡妳是妳(邦:はじめて好きになった人)』もそうだった。しかし、その『Days Before the Millennium』がどうして中文では『徘徊年代』になるのかな…。まあなあ、わからんでもないけど…。
前半、後半で二つの物語で構成されている。前半は結構陰鬱な話で後半は活動的な話。どちらもベトナムから台湾へ来た女性が主人公。「時代が変われば、こうまで境遇が変わるのか」と、少しばかりの戸惑いも感じる。この頃の台湾は、政治の民主化がなんとか達成できたことで、社会の民主化が動き始めた時期。そんな背景もあったのだろうか。
1990年代の台湾は、深刻な嫁さん不足であった。なんでだろうね…。そこがわかる説明的なシーンがあったかな?説明かどうかはなんとも言えないが、前半の主人公、ヴァン・トゥエ(演:阮安妮/アニー・グエン/Annie Nguyen)がベトナムから嫁いできた家は、陰気な家だった。無口な夫に、監視の目がウザい嫁に冷たい姑。まあとにかく陰気で息苦しい。家の中も暗くて湿っぽいのがスクリーンから伝わってくる。うまいこと撮ってるなぁと感じた。
姑役の陳淑芳(チェン・シューファン)と言えば、昨年観た『親愛的房客(邦:親愛なる君へ)』のおばあちゃん役の人やな。今回はきっつい役どころだが、さすが金馬奨女優。「こんな姑おったら、たまったもんやないなあ」という演技を見せてくれた。夫を演じた江常輝(スティーブン・ジャン)は、元はモデルで今は人気俳優。この役でイメージを覆す新たな一面を見せている。ちなみにTwitterは日本語。日本に興味を持っており、日本語の勉強中だとか。ねぇ、COVID-19でなければ、こういう人が来阪して舞台挨拶してたんだろうけど…。
この陰気な家で、テレビは当時のニュースを伝える。李登輝が総統に選ばれた選挙を前に、ミサイル発射で揺すりをかけてくる中国。あれは1996年だったかなぁ…。香港は固唾をのんで成り行きを見守っていたなぁ…。この辺、やっぱりさっき観た『喜歡妳是妳(邦:はじめて好きになった人)』と共通している。偶々なんだろうけど。
外地から台湾へ嫁いできた人を「新住民」「新移民」と呼んだ。香港で「新移民」と言えば、大陸から合法的に「片道ビザ(居住が前提条件のビザ)」で来た人たちを指し、台湾とはニュアンスが違う。こういうのも「ほぉ~」と思う。同じ言葉でも同じ中国語圏なのに土地が変われば、意味も変わる。当たり前なんだろうけど、普段は気づかないことで、映画は時にこういうことを教えてくれる。
夫は仕事に行き詰って、次第に彼女に暴力を振るうようになる。耐えかねて家を飛び出して、ひとまず「駆け込み寺」に身を寄せる。あるんやなぁ、こうやって救ってくれるところが。その後、DVなどの問題から逃れてきた女性のための保護施設みたいなところに移るのだが、様々な境遇の女性がいることが描かれている。そしてようやくみんなが打ち解けはじめた時に、あの「911台湾大地震」が起きる。時に1999年のことである。しばらく台湾の友人と連絡が取れず、心配していた日々を思い出す…。で、彼女はその後、台湾のIDを獲得する。IDを手に、彼女の目からこぼれる涙が印象深い。さあ、これから彼女の新しい日々の物語が始まるんやな、って思ってたら、いきなり別のベトナム女性のストーリーが始まって、「あらあら…」ってところだ(笑)。
時代は2016年になっていた、一瞬で(笑)。ここからの「新住民」のベトナム女性(演:阮秋姮/グエン・トゥ・ハン/Nguyen Thu Hang)は、斡旋業者の手で台湾へ嫁いできたのではなく、自らの意思で台湾へ来て台湾の大学を卒業し、バリバリと働く女性。この16年間で色々と法律が改められたんだろう。前述のように、政治の民衆化に目途がたって、続いて社会の民主化が一気に進んだ時代ということだろう。この間の台湾は非常に興味深い変革を遂げている。そして今なお、その変革が続いている。それが台湾にとっていいのか悪いのかは、まだ判断を下すには早すぎるようだが…。
この女性、新住民の女性たちを支援する仕事をしようとしているのだが、選んだ仕事が探偵社。探偵社でどんな支援ができるのか、ってのは映画を観てくださいというところだが、後半の大きな特徴は、主人公の顔は映らず後ろ姿だけが映るという点。これどういう意味なんだろうと、あれこれ考えるに、「探偵社」というのがあるからかなぁとか…。考えが浅いか(笑)。そこは、本作もアジアン映画祭公式サイトの作品紹介ページに、監督インタビューがアップされているので、興味ある方はどうぞ、と言って逃れておきます(笑)。
張騰元(チャン・タンユエン)監督は、本作が長編デビュー。出世作は短編『焉知水粉』で、やはり新住民がテーマとなっているそうな。
上映時間148分という長編ではあったが、案外、退屈を感じない内容だった。冒頭で「小難しそうな内容ですな…。」と記したが、まあ小難しいことには変わりないが、それなりに得るものはあったと思う。それは多分、前半、後半と二つの物語に分かれていたことが大きいのかのかなと。とすれば、監督の手法にうまいこと乗せてもらったというところか。結構やるやん、張騰元ってところかな。
《徘徊年代》 前導情境預告
(令和4年3月13日 シネ・リーブル梅田)
『侯孝賢の映画講義』 2021/11/19
侯孝賢 (著), 卓伯棠 (編集), 秋山珠子 (翻訳)
¥3,960 (Amazon.com)
1980年に『ステキな彼女』で初監督を務めて以来、『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』『童年往事』『恋恋風塵』『悲情城市』『戯夢人生』などの映画を世に出して台湾ニューシネマの興隆を牽引し、世界的にも台湾を代表する映画監督として知られる侯孝賢。本書は侯孝賢が2007年に香港バプテスト大学で行った講義の記録である。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。