【睇戲】幸運是我

香港映画マニアに嬉しい企画「香港映画祭2021」が11月27日からシネ・ヌーヴォで始まった。以前から「首部劇情電影計劃の入選作の中で、なんで『點五步』だけが日本で上映されてないんだ!ブーブー!」って言ってたら、ようやく今回上映されることに!満を持してとはこのことだ。が…。余人に代えがたい特殊な技能を要する委託業務が、ここらへんからググーっと多忙になってきて、なんとなんと、『點五步』の上映日はことごとく涙を呑むことに…。よほど嫌われたんだな…。今度、香港里帰りの時にDVD買って来るしかないな…。『點五步』だけでない。「おお、これ観たかったんや!」という作品がずらりと並ぶのだが、結局はこの日の『幸運是我』以外は無理だった…。まあ、仕方ない。

その『幸福是我』も11月30日に、「権利元より、上映許可が出せなくなったとの連絡がありました。以後、権利元との協議を重ねておりましたが、権利元の社内決議にて『香港映画祭2021』への『幸福な私』『暗色天堂』『深秋の愛』の出品を取り下げが決まったとのことで、上記3作品については上映中止せざるを得ないとの決断に至りました」との発表があり、ギリギリセーフ。

まあ、あれだな。権利元=英皇電影が、一緒に上映してほしくない作品があったってことだろうなってのは容易に察せられるところ。いや、実際は知らんよ、でもまあね…。本土でがっぽり稼いでいる英皇集團としては、「それは困るんですよ!」ってとこかな。

ってことで、7作品のうち1本だけ観ること叶った『幸福是我』も、ラッキー以外の何でもない。今年最後の運を使い果たしたな、俺(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

幸運是我 邦題:幸福な私

港題『幸運是我』 英題『Happiness』
邦題『幸福な私』
公開年 2016年 製作地 香港
言語:広東語
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):羅耀輝(アンディ・ロー)
編劇(脚本):羅耀輝
監製(プロデューサー):余偉國(ダニエル・ユー)
配樂(音楽):波多野裕介

領銜主演(主演):惠英紅(カラ・ワイ)、陳家樂(カルロス・チャン)、劉雅瑟(シア・リュウ)
主演(出演):張繼聰(ルイス・チョン)、吳日言(ヤン・ン)、吳業坤(ジェームス・ウー)、林兆霞(ジュン・ラム)、周俊偉(ローレンス・チョウ)、車婉婉(ステファニー・チェ)、郭穎兒(セリア・クォ)
特別演出(特別出演):邵音音(スーザン・ショウ)、錢小豪(チン・シウホウ)、麥家琪(テレサ・マック)
友情演出(友情出演):余偉國、鍾慧冰(マリナ・チュン)、彭立威(レイ・パン)

アイドルスターを惜しげなく並べて、いわゆる「売れ線」のエンタメ大作を連発する英皇電影としては、非常に珍しい、ハートウォーミングかつ社会派の作品。この作品は、ずっと観たかった作品の一つでもある。

2017年の「第12回大阪アジアン映画祭」のオープニング・セレモニーで、オープニング作『Mrs K(邦:ミセスK)』主演の惠英紅(カラ・ワイ)が「二分だけ時間もらえますか?」と言って、紹介したのがこの作品。本作の主人公同様に痴呆症を発症し、数年前に他界した自分の母親を本作の主人公に重ねていたと語っていた。「痴呆症の人、その家族と優しく接してほしい。そしてこの作品を支援してほしい、ネットでも観られますよ」と訴える一幕があったんだが、もう、そこから気になって気になって仕方かった作品。ようやくスクリーンで観られる日が来たというわけで、朝からウキウキで仕事も手に付かない(笑)。

《作品概要》

●チャン・カイヨク(ヨク)は幼い頃に両親が離婚し、母と共に広州へ引っ越した。母を病気で亡くしたあと、父の住む香港に戻るヨク。社会の底辺をさすらう中、認知症を患うツェー・ユエンファン(ファニー)と出会い、彼女のアパートに転がり込むことに。年齢も人生経験も全く違う二人が不思議な同居生活を始め、反発し合いながらもやがて互いを受け入れていく。●脚本家ロー・イウファイ の感動的な監督デビュー作。香港映画を代表する大女優のひとり、カラ・ワイは本作で3度目の香港アカデミー賞最優秀女優賞を受賞した。<引用:香港映画祭2021公式サイト作品紹介

主演の惠英紅は、「女ジャッキー・チェン」とでも言うべき功夫女優の第一人者で、香港映画には欠かせないアクションスターだったが、『Mrs K』を最後にアクション映画からは身を引いたようだ。まあそりゃねえ、小生とは2つ違いのお姉さんだが、さしものベティも思うように動けなくなってきたってことだな…。そこで、ってわけでもないんだろうが、今作はあのキレキレのアクションスター時代からは想像もつかない、痴呆症が進行してゆく独居女性、謝婉芬(ファニー)を演じている。そしてこの役で、見事3度目の香港電影金像獎「最優秀主演女優賞」に輝いている。この演技の背景には、彼女が先の「大阪アジアン映画祭」で語った痴呆症の母親の存在があったのだろう。

男主役の陳介旭(阿旭/ヨク)を演じた陳家樂(カルロス・チャン)は、どっかで見たことあったかな?多分、今回が初めてだと思う。なかなかいい俳優。今年の香港映画最大のヒット作『梅艷芳』では歌手の鄭少秋(アダム・チェン)を演じ、陳木勝(ベニー・チャン)監督の遺作となった甄子丹(ドニー・イェン)主演の『怒火(邦:レイジング・ファイア)』にも出演しているので、これからも色々な作品でお目にかかるのだろう。歌手、CMモデルとしてすでに長い芸歴のようだが、悪いなあ、歌手時代のことはまったく知らんわ(笑)。まだ演技に青臭さを感じたが、それがまた阿旭の若さを感じさせ、ファニーの人生経験を際立たせていたように感じた。なかなかいいマッチングだったのでは。

この時代にラジカセ!と思ったが、後から思うと、これ、効果的だったなあと

もう一人の主役は、痴呆症老人たちを見守るショーシャルワーカーの女性、小月(演:劉雅瑟/シャー・リウ)。小月が広州出身というのも、この作品のポイントの一つで、終盤、阿旭との幼いころのエピソードが盛り込まれる。この展開は非常によくあるパターンなんだけど、小生は嫌いではないな、こういう話は。若いうちは、「ケッ!」とか思うかもしれないけど、段々年齢を重ねるとねぇ~(笑)。香港で経験を積んで広州へ帰る小月、広州から父のもとへ戻ろうと香港へ戻ったが、父には相手にされず孤独のどん底を彷徨するしかない阿旭…。そう、うまくいかないのよ、人生は。

劉雅瑟㊧と惠英紅

いつの間にかファニーの部屋の居候になった阿旭。ある日、ファニーの留守中に骨董の家財道具を売って、アナログテレビを3Dテレビに買い替える。二人でソファに並んで座って3Dメガネをかけてテレビを観る光景は愉快なんだが、実は、デジタルテレビには困った問題がある。亞洲電視本港台(ATV広東語チャンネル)が「2」ではないのだ。だれが決めたわけでもないが、確かにアナログ時代は本港台は「2」だった。本港台で連続ドラマを毎晩観るのを楽しみにしているファニーにとっては、由々しき問題だ。「2」でないと知った時のファニーの荒れようは、観る者にファニーの身が普通ではないことを知らしめる。これ、小生もよくわかる。小生が住み始めて最初に中古屋で安く買ったテレビは、チャンネルをぐるぐる回すタイプで、しっかり本港台は「2」だったから…。

最初は3D映像を「うぉ~!」とか言って楽しんでいたファニーだが、ドラマの時間になってからが大変…

こんな具合な摩擦が次第に大きくなり、互いの不理解による溝も大きくなる。二人の表情が険しくなってゆく。やがて、それぞれがお互いの過去を知ることなどで溝は埋まってゆき、ポスターにあるような穏やかな表情になる。この経過はかなり泣かせられる。ま、それは実際に観て泣いてください(笑)。摩擦があっても、不理解しかなかっても、溝があっても、関心を持つということだけは忘れてはならないなと思う展開だった。

過去、ということで言うと、阿旭が幼いころに妻子を捨てた阿旭の父親(演:錢小豪/チン・シウホー)は、大概なクソ野郎だなと思った。あれではあまりにも阿旭が可哀そうすぎる。あまりにも身勝手ではないか…。阿旭はここまで家族のぬくもり、親子の愛情に飢えていたのだ。それを知り、大きな決心をするファニー。彼女もまた、よく決心したなあと感心。

魔が差した阿旭は父親と後妻の愛息を連れ出してしまう。怒りの父親は阿旭を思いっきり張り倒す…。辛いシーンだった

撮影の多くは香港島・西環(Sai Wan)の東邊街(Eastern Street)とか正街(Centre Street)とかの坂道。友人も多く住んでいた懐かしいエリア。ファニーが住んでいるような古いアパートメントも多いので、「もしかしたら、これはあの建物?」なんて想像してみたり…。やっぱり、香港映画を名乗るなら、こうして香港で撮影してくれないとね…。

ファニーが進行してゆく痴呆症に抗う姿が、身につまされた。自分の年齢を思うと、もしかしたら、明日、始まっても不思議ではないことだけに。若い人が観たら、そうでもないかもしれないが、前述の大阪アジアン映画祭で惠英紅は、痴呆症の人やその家族に理解を、というようなことを語っていたが、ホントそうだなと思う。難病で苦しむ人、障碍者なんて自分とは縁がないなどと思ってはいけない。「明日は我が身」なのだ。健常者=障碍者予備軍なのだ。

脚本家の羅耀輝(アンディ・ロー)、初めての監督作品は、なかなか骨太な社会派作品に仕上がったのではないだろうか。今後の監督作品にも期待したい。

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さて、最初にも記したように、ちょうどこの日に版元の英皇電影から本作を含む3作品の上映は許可しないという通達があり、本映画祭ではこれ以降、観ることができなくなってしまった。そういう意味では、この日『幸運是我』を映画館のスクリーンで観た観客だけが、日本国内で『幸運是我』を観ることができたということになる。少なくとも現時点では。そして最も気の毒に思うのは、会主の林家威(リム・カーワイ)監督の『愛在深秋(邦:深秋の愛)』も英皇作品ということで、上映が中止になってしまったことだ。

《受賞など》

【2016年度】
■第11屆華語青年影像論壇
・新鋭男優賞受賞:陳家樂(カルロス・チャン)※應岱臻(アレックス・イン)と同時受賞

【2017年度】
■第23屆香港電影評論學會大獎 1部門でノミネート
■第2屆德國中國電影節(ドイツ中国映画祭)
・最優秀情優勝受賞:惠英紅(カラ・ワイ)
■第11屆香港電影導演會年度大獎
・最優秀女優賞受賞:惠英紅
■第1屆馬來西亞金環獎(マレーシア金環賞) 1部門でノミネート
■微博之星2016 1部門でノミネート
■第11屆亞洲電影大獎 1部門でノミネート
■第36屆香港電影金像獎
・最優秀主演女優賞受賞:惠英紅
・他
3部門でノミネート
■2017電影之夜 2部門でノミネート

電影《幸運是我》終極預告‧9月8日相知相守

(令和3年11月30日 シネ・ヌーヴォ)


『香港・濁水渓-増補版』邱 永漢 (中公文庫)
2021/4/21 ¥1,100

金だけだ。金だけがあてになる唯一のものだ――。
戦後まもない香港で、故郷を捨てた台湾人たちがたくましく生き抜く姿を描き、一九五六年、外国人初の直木賞受賞作となった「香港」。日本統治と国民党の圧政のもと、ある台湾人青年が味わった挫折と虚無を主題とする「濁水渓」。著者の青春時代が結晶した代表作に、作家デビュー当時を回顧した随筆「私の見た日本の文壇」を増補した新版。〈解説〉東山彰良 (Amazon.com)


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