【上方芸能な日々 文楽】令和3年錦秋公演第一部

人形浄瑠璃文楽
令和3年錦秋公演 第一部

疫禍で迎える二度目の秋が来た。今公演も、感染拡大状況を横目で見ながらの三部構成となった。一部が『蘆屋道満大内鑑』。二部と三部で『ひらかな盛衰記』の半通し。三段目と四段目が上演される。今後、三部構成が続く限り、こういう「半通し」が増えて行くんだろうな…。

異常なのは、切場を切場語りが語らないという状況。

現況、咲さん一人しかいない切場語り。狂言建上、咲さんを「笹引」に配し、本来の切場を「準切語り」と言うべき人が語る。う~ん…。どうなんでしょうね、これ。こういう「異常事態」を起こさないためにも、せめてあと一人、早急に切場語りが誕生してほしいねえと思うのは、小生だけではないだろう。

劇場前の桜の木にも色づく葉が目立ってきた。桜花爛漫の春公演とは打って変わって、うら寂しを感じる…

蘆屋道満大内鑑

今公演も緊縮財政に付き、二等席から(笑)

ま、季節が秋ということもあって「菊」にちなんで、今回は「蘭菊の乱れ」というシーンのある『蘆屋道満大内鑑』をやるんですかね?まあ、それはよいとして。

保名物狂の段

口 碩 燕二郎

御簾内から。なんか勿体ない。この二人については拙ブログでも何度も称賛しているし、他の方のブログなりSNSなりを拝見しても同じように聴いていっらしゃる。「でも、ここは御簾内でやるって決まってますねん」って言うならば、メンツによって柔軟に対応するってことに改めていってもええんやないかなと。

  ツレ 小住 藤蔵 ツレ  清公

今、一番ノッてる織&藤蔵。強烈なパッションを感じる。お客さんの乗せ方も上手いし、人形も映えてくる。いつも言うように舞台と客席がスイングする空気を作り出してくれる。

しかし、この話、突飛ではあるわな(笑)。恋人が自害して、気が狂っちゃった保名さん、自害した恋人(榊の前)にクリソツの葛の葉(そりゃ姉妹やもんw)にいきなり抱きつくし(笑)。で、保名の家来の与勘平のはからいもあって、葛の葉にやさしく語りかけてもらったら、正気に戻ったって(笑)。その後、名前からして悪者の石川悪右衛門にフルボッコされて悔しさ余って自害しようとして…。そこをまた葛の葉姫(もうこの時点で狐の化身?)に「まあまあ、そこはぐっと思いとどまって」となぐさめられ…。なるほど「もの狂い」である。相当、精神を病んでいるね、彼は…。かっこええのは家来の与勘平(玉志)で、悪右衛門(勘市)をやっつけてくれる。(ただし、悪右衛門は再び登場して…)

こういう下手すれば、「なんやそれ~!」みたいな展開を、決して「なんやそれ~」と思わせない床があって、さらに人形もよく動く。案外と見どころの場である。

和生さんの狐、勘十郎さんの十八番の狐と違って小動物的な「守ってあげたい」感がある。だから保名も守ってあげたんだろうけど。しかし、ほんまもんの葛の葉姫は、まさか自分が屋敷に戻ったあとに、狐の化身の「ニセ葛の葉」が現れてその後、子供までできちゃうことになろうとは想像もつかんやろね(笑)。

葛の葉子別れの段

中 咲寿 清丈

咲寿ももうこの辺ならスイスイとやってこなす。まず第一に「聴き心地」がよくなった。元々「うまく語ろう」なんて変な色気はこれっぽっちもないタイプだったが、若さゆえか時にそう聴こえてしまい、客に「誤解」されやすいところもあったが、最近はそういう部分もなくなり「腕を上げる」ってこういうことかと感心する。

それにしても、「女房葛の葉」を見て「さても似たり」とは随分とのどかやなと床本を読み返せば笑っちゃうが、この辺のびっくり具合を葛の葉姫(紋臣)、信田庄司(勘壽)、その女房(文司)親子が上手く見せていた。

奥 錣 宗助

「これはこれは、信田さん、お久しぶりです!」とのんきな保名(笑)。そして「あそこにも、ここにも葛の葉!これはいかに!」とびっくり仰天する。今まで気づかんかったんやな…。

錣さん、宗助さんの黄金コンビ。錣さんは揺れ動く語りで揺れ動く葛の葉の心情を描く。「恥づかしや年月包みし甲斐もなく」から、語る語る葛の葉は。こういうのを哀切というのだろう、葛の葉が自分のことを話し始め、何と言ってもこの先の子供のことが心配で心配で…。こういう思いが床からしみじみと伝わってきた。

和生さんの葛の葉は、さすがの一級品。しなやかかつなめらか、そして悲哀…。文雀師匠から受け継ぐ「品格」が、この人の遣う人形にはある。品があるから余計に悲しさを漂わすのである。

蘭菊の乱れ

呂勢、芳穂、咲寿夫、亘、碩
清治、清馗、友之助、清允、燕二郎

ずらりと揃った床。掛け合い、並びものなんだが、スキのない完成度の高い床だった。太夫は呂勢、三味線は清治師匠がそれぞれ牽引したわけだが、それだけでも安心なのに、加えて他の4人の太夫と三味線がそれぞれ最良のものを聴かせたということだろう。

和生さんが遣う葛の葉は、「身は畜生の苦しみ深き」を痛々しいまでに見せる。衣裳が「蘭菊の乱れ」だけで使用されるオレンジ色に万寿菊をあしらったものから、狐火を描いた「火炎」の小袖姿に変わり、人間から狐へと戻ってゆく。思わず「狐!達者でおれよ!また童子が会いに来よるで!」と声をかけてやりたい、そんな「蘭菊の乱れ」だった。

そう言えば、蘭菊の乱れで葛の葉が最初に着ていたオレンジ色の衣裳、トップ画像の「釣り行灯」の色はそういう意味なのか!って、知らんけど…。

(令和3年11月14日 日本橋国立文楽劇場)


← 解説書や入門書を「ふむふむ」と読んでわかったような気分になるもいいけど、「お仕事小説」として文楽を眺めてみるのも面白いよ!

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