【上方芸能な日々 文楽】文楽夢想~継承伝~

人形浄瑠璃文楽
文楽夢想~継承伝~

通常の「若手会」とは、一味も二味も違う若手主体の公演「文楽夢想~継承伝~」を観てきた。

何が違うかと言えば、まず公演にかかわる諸経費(出演料ではない)を、当世流行の「クラウドファンディング」により賄おうという、文楽では初の試み。この取り組みは、早くから在阪各メディアが「話題性あり」として取り上げたことや、実質上、発起人、仕掛け人的存在の玉翔をはじめとする、技芸員たちのSNS等を通じ、広く世に行き渡ったことで、目標金額300,000円に対し、集まった支援金額はなんと!3,465,500円に上った。文楽ファンの熱い思いが伝わる。ファンを動かしたのは、豪華で貴重な返礼品の魅力もさることながら、やはり公演の中身に期待が集まったのは言うまでもない。

通常公演との大きな違いのもう一つは、「師弟競演」という普段では観ることができない舞台だという点。例えば、歌舞伎では親子で連獅子を舞うなんてことも珍しくはないが、これが文楽の世界ではまず観られない。それだけに「見逃してなるものか!」感が満載の特別で魅力的な公演。それもこの日1日、昼夜2公演だけ。そりゃ、小生も万難を排して駆けつけますわいな!

二人三番叟

靖、小住、亘
錦吾、清志郎、友之助、清允
(口上)玉路
三番叟 勘十郎 左:勘次郎、足:勘昇
三番叟 勘介 左:玉翔、足:玉征
(かいしゃく)蓑之、玉峻、玉延
(幕柝)玉路

パンフが「人形小割」の体裁なので、普段の公演ではわからない口上、かいしゃく、幕柝が誰かがわかる。何と言っても、人形の左遣い、足遣いがわかるのがいい。(まあ、普段の公演でも、左と足は大体おおよその見当はつきますが…)「うめだ文楽」もそうだが、これはとてもいいアイデアなので、本公演は不可能としても、せめて若手会でも取り入れてほしい。実際、足で「こいつ、すさまじい運動神経の持ち主やな!」って惚れ惚れすることもあるわけですよ。

三番叟は勘十郎さんと弟子の勘介で。勘十郎さんは手慣れた動きで涼しい顔して、すいすいとこなしているが、勘介は必死のパッチさが伝わる。師匠に付いて行こうと懸命なのが見て取れて、ちょっと胸が熱くなる。と言いつつも、勘十郎も普段は叉平の方を遣るが、今回は検非違使でちょっと勝手が違った様子。この辺が妙味ですな。床も三味線で錦吾がシンを勤めた。かなりアップテンポでヘヴィな曲なので、ビシバシとリードしたのが、これまた胸アツ。

幕が引かれた後、玉男さん登場。ほどなく、汗だくの勘十郎さんも登場し、しばし入門時からの仲良しコンビのトーク。玉翔から勘十郎に「こんなんしたいんですけど…」と相談があって、「そりゃええやん」ということで企画がスタートしたと。思い起こせば、去年の今頃は文楽はじめ、ステージものはほぼすべてが休演状態に。若手は舞台に飢えていたんだと思う。末端のファンに過ぎない小生ですら、飢えまくっていたんだから…。「今年だけでなく、今後も続けていきたい」と嬉しい一言に、客席からは大きな拍手。関西・大阪21世紀協会の﨑元理事長もちょこっと出て来はったけど、何しゃべりはったか忘れた(笑)。

傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段

三輪
清公
(口上)勘次郎
女房お弓 一輔 左:紋臣、足:蓑之
娘おつる 蓑悠 左:勘次郎、足:勘昇
(かいしゃく)勘介、玉峻、玉延
(幕柝)勘次郎

まず床が子弟ではないけど、超ベテラン太夫の三輪さんに若手の三味線弾き清公くんが挑む。こういう取り合わせも、本公演では聴けないもの。お互い、押したり引いたりしながら浄瑠璃は成り立ってゆくが、どっちかと言えば、三味線が太夫の「道案内役」な立場。そこを若い清公くんがどうこなすかが聴きどころ。結果としては、三輪さんの独壇場だったけど、その空気を作った清公も立派なもんだった。

一方の人形は、正真正銘の「親子」。父親の一輔と息子の簑悠で人形も親子。そういうこともあって、この段自体がもともと辛い物語でついウルウルしてしまうんだが、この親子競演には、胸いっぱいになってしまう。一暢はんがご存命であれば、どれだけ喜ばれたかと思うと、なお一層、胸に来るものがあった。しかし簑悠くんはなかなかの男前やな…。と言っても新婚さんですよ、きゅんとしてるそこのお嬢さん!(笑)。

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若手座談会
 俺の話を聞け!

錦吾、勘介、簑悠 聞き手ー亀岡典子(産経新聞文化部)

出番を終えた3人の若手に話を聞くコーナー。亀岡記者より「時間、押し気味なんですぅ」と最初にお断りがあったが、うまく話を引き出してくれたおかげで、色々聞けたのはよかった。

いつも師匠勘十郎の出番が終わると、千日前通で師匠の迎えの車を勘昇と腰を折り曲げて見送る姿を見ている。そんな勘介くんは、小学校の卒業文集に「夢は人形遣い」と書いたと言う。子供の頃に文楽に進むと心に決めていたのだ。今は「とにかく毎日が楽しい」。「これが仕事というのが本当に嬉しい」と。先ほどの三番叟は「師匠が横で常に見てくれて、引っ張ってくれ、テンポを合わせていただいて…」と。そんな言葉を聞けて、おじちゃん、めっちゃ嬉しい。

簑助師匠のもとで修業を積む蓑悠。なにせ四代続く文楽の家なんで、幼少のころから家では浄瑠璃が流れていたという環境で育つ。と言っても、文楽は世襲制ではないので、別に文楽に進む必要はなかったのだが、学校の先生からも「人形遣いになれ」と勧められていたこと、やっぱり文楽が好きなんで、この道を選んだと言う。一暢、一輔、簑悠と、このお家の三代の人形遣いを観られて、おじちゃんは嬉しいよん。

見るからに無口そうな錦吾だが、なかなか熱い男だった。先の二人とは違って、研修生として文楽の道に進んだ。亀岡記者より「それが厳しい錦糸師匠を選びはったのは、またなんで?」との問い。まあ厳しいやろうな、あの人は。「研修当時から厳しかったけど、この人なら!と、弟子になろうと決めていた」と。うん、見る目あるな! 三番叟のシンも見事にとっていた。

三人それぞれに「文楽継承」の想いが伝わる、とてもよい座談会だった。三人とも初舞台からずっと見てきているので、とても頼もしく感じたし、ちょっとウルウルしてしまった。あきまへんなあ、年取ったら、ちょっとしたことで泣いてまう…。

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チケットなんちゃらのプレリーザブなんちゃらで押さえた席が、これがどうしたことか、席数制限下の文楽劇場としては、最上とも言えるお席で、「ああ、これで今年の運のすべてを使い果たしてしまったな…」と、嬉しいやら落ち込むやらで、大概忙しいことだった(笑)。

五条橋

小住、亘、靖
友之助、清允、清志郎
(口上)勘介
牛若丸 玉男 左:玉翔 足:玉延
弁慶 玉路 左:玉佳 足:玉征
(かいしゃく)蓑之、玉峻、簑悠、勘昇
(つけ、幕柝)勘介

牛若丸を師の玉男さん、弁慶を弟子の玉路が遣う。玉男さん、先ほどの勘十郎さんとの「仲良しトーク」で語っていたが、「牛若丸は初役」だとのこと。一方の玉路は、玉男の足を遣うことが多く、その運動神経と体力は目を見張るものがあって、「ほ~、よう動きよんなぁ」と感心している。とは言え、主遣いとなると勝手が違う。さあどうなる?なんてのが見どころだが、実は床も、小住の牛若丸、亘の弁慶をツレで靖、三味線もツレで三人の中で一番キャリアのある清志郎が勤める。ここも聴きどころ。

玉路は力強かったが、やや長刀の扱いに苦心したかな? 玉男さんは、初役とは言え、余裕のよっちゃんでしたな。小住、亘はもうこの辺は任せられるレベル。糸は清允が踏ん張っていた。そこはやっぱり清志郎がうまくまとめたのかな。

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いずれの演目も、師匠や大先輩に食らいつく弟子、後輩の姿が頼もしく、また、それを温かい目で見守り「そっちちゃうで、こっちやで」と導くような師の眼差しを見て、こうして芸は次代へと連なってゆくんやなということを実感できる、とてもよい舞台だった。もちろん、トークでも「俺の話」をしっかり聞かせてもらった。しかしあのタイトル、次は考えよな(笑)。今回出演していない師弟も、次回見せてもらいたいなと思う。

また、何らかの形でご支援したい。

しかし、勘次郎にダンスの素養があるとはね(笑)。詳しくは「文楽夢想~継承伝~」内のプロモ映像を!

(令和3年8月7日 日本橋国立文楽劇場)

 


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