【睇戲】2019年 香港民主化デモ 傑作短編集

アイキャッチ:2019年7月1日、大荒れとなった祖国回帰日。暴力的破壊集団は立法会議場に突入した。行動をリードした梁繼平(ブライアン・リョン)は逮捕覚悟で素顔をさらし、「香港人抗爭宣言」を読み上げるも、さっさと米国へ逃亡し、現在はワシントン大学でご学業に励んでいる。いい気なもんだ (蘋果日報)>

2021香港インディペンデント映画祭 in 大阪

香港インディペンデント映画祭も、あれよのうちに最終日。結局、全作品観たな。こと、香港の事となればどこまでも付き合いよく、太っ腹である(笑)。映画観たくらいで太っ腹なんて言ったら、逆にかっこ悪いけど(笑)。

さて、今回の主催団体の一つ「影意志」。何度も記すが、香港インディペンデント映画を支える会社であり、ここ無くして香港にインディー作品なし、と言っていいくらいの映画会社で、香港特区政府香港藝術發展局からの助成金で活動してこられたんだが、それが打ち切られることになったようだ。理由は説明するまでもなく、『理大囲城』のような「暴動を美化し、国家転覆や分裂へ導く恐れ」のある作品をプロデュースし、上映しているから。国安法がらみなのは明白だが、国安法を一番恐れているのは、香港特区政府なんじゃないかというような措置だな。これじゃ、インディー作品だろうがメジャー作品だろうが、映画そのものが作れなくなってしまう。映画を基幹産業として支援してゆくというのは、香港政府の方針の一つだが、やってることがこれではなぁ…。

最終日は、上述のような背景もあり、益々香港で観ることが難しくなった「2019年 香港民主化デモ 傑作短編集」の5作品。確かに内容は「暴動を美化し、国家転覆や分裂へ導く恐れ」がありそうなものばかり。振り返ればこの映画祭、そんな作品をズラッと並べたんだから大したもんだと思う。香港に居ては、簡単に観られない作品ばかりとあって、在日港人もよく見かけた。「え?香港人って見分け付くんですか?」とおっしゃるかもしれませんが、そこはそれ、15年も生活してたんだもん、一目瞭然ですよ(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

立法会占領 港題:佔領立法會

港題『佔領立法會』 
英題『Taking back the Legislature』
邦題『立法会占領』

公開年 2019年
製作地 香港

言語:広東語

評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):香港紀錄片工作者(香港ドキュメンタリー映画工作者)

【作品概要】

2019年7月1日、香港返還記念日。ビクトリアパークには多くの人々が集まり、市内をデモ隊が行進している。そんな中、台湾の「ひまわり運動」になぞらえ立法会に突入し占領しようと呼び掛ける若者たちと、冷静にそうした無謀な行動を静止しようとする大人たちがいた。最終的に若者たちは立法会に突入・占拠したのだが、その夜は香港の政治史上でも未曾有の夜となり、占拠した若者たちが感じた恐怖も尋常ではなかった。<引用:「「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

<場所:立法会ビル>
立法会議場突入を企図する過激一派。阻止しようと必死で説得する伝統的民主派のベテランたち。結果、力ずくで奴らは立法会ビルへ突入したが、警察の包囲の中、恐怖も尋常ではなかった。と、言いながらも、ビル内を荒しに荒しまくった。この行為が、その後の「民主化活動」に何か好影響を及ぼしたかと言えば、まったく何の効果もなく、1年後の国安法へとつながってゆく。

私たちのやり方 港題:用自己方式的時代

港題『用自己方式的時代』
英題『The time of the individual』
邦題『私たちのやり方』
公開年 2019年
製作地 香港
言語:広東語
評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):廖潔雯(カナス・リウ)

【作品概要】

2019年7月7日、香港の繁華街。若者たちが必死に、中国大陸からやってきた観光客に「一体なぜ、彼らが反中デモをおこなわなければならないのか」、その理由を平和的な手法で伝えようとする。<引用:「「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

<場所:尖沙咀>
反送中」デモで、九龍側で行われた初めての大規模デモ。劉頴匡(ヴェンタス・ラウ)なる当時26歳の男子の呼びかけによる。2019年7月11日付けの拙ブログで「この名前は覚えておいた方がいい」と記している。この九龍デモでは、やたら「優雅なデモ」を呼びかけ、大陸観光客に向けても「反送中」を訴えていた。デモ自体は大きなトラブルはなかったが、結局、その夜は九龍側で暴力破壊集団が警察と衝突し、大量の逮捕者を出し、決して「優雅」とはいかなかった。

仲間たち 港題:手足

港題『手足』
英題『Comrades』
邦題『仲間たち』

公開年 2019年
製作地 香港

言語:広東語

評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):廖潔雯(カナス・リウ)

【作品概要】

2019年7月28日。香港島の西で、警察と市民との間で大規模な武力衝突が起きた。警察は無差別に市民を逮捕したが、市民たちは警察に捕まらないよう、互いに助け合う。<引用:「「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

<場所:西環>
これもまた劉頴匡が仕掛けたデモがきっかけとなって、香港側西環の市街地で暴力破壊集団と警察が激しく衝突した日の映像。このエリアには中央の出先機関である「中聯弁」があり、ここへ押しかけようとするものでもあるが、古いエリアでもあるので、狭い坂道が複雑に入り込んでいて、分散して逃げるにもちょうど良い。結果として、住宅地に催涙煙がもうもうと立ち込めることに。この日の逮捕者は45人。決して無差別に逮捕しているわけじゃない。「不法な集まりはあかんよ」って再三警告しても解散しないわ、攻撃してくるわで、そりゃ逮捕されるよ、仲間たちよ。

試行錯誤 英題:Trial and Error

英題『Trial and Error』
邦題『試行錯誤』
公開年 2019年
製作地 香港
言語:広東語
評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):廖潔雯(カナス・リウ)

【作品概要】

2019年8月12日、ゼネストをおこなっても政府が一向に市民の声に耳を傾けない中、デモ隊たちは最後の賭けに出た。香港国際空港を占拠することだ。警察が強制的に武力撤去に乗り出すと噂される中、最後まで空港を死守した人々と、空港から引き上げようとした人々の対立と助け合いが描かれる。<引用:「「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

<場所:空港>
空港占拠。これもひどかったなぁ。どれだけの搭乗客が迷惑を被ったか。そこに思いを致さないのが一連の暴力破壊活動である。中には思いを致す者もいるが、結局押し切られてしまう。そんなせめぎ合いをとらえていたが、実はこの時、大陸人が占拠者らによって捕らわれの身となってさらし者にされている。「公安が紛れ込んでいる」という疑いからだが、文革顔負けの吊し上げである。もちろん、この短編にはそんな「悪事」は一切収められていない。

誰も見捨てない 港題:缺一不可

港題『缺一不可』
英題『No One Less』

邦題『誰も見捨てない』
公開年 2019年 製作地 香港
言語:広東語
評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):廖潔雯(カナス・リウ)、曾錦山(サム・ツァン)

【作品概要】

2019年9月13日、香港では旧正月に次いで重要な中秋節に、警察拘留所の前で集まった無数の若者たち。彼らが警察に逮捕・拘留されたデモ参加者たちに応援の歌を送る。涙なしでは見られない感動作。その日は、ちょうど抗争開始から100日目。逮捕されたデモ参加者は延べ1453人、その年齢は12歳から72歳まで。<引用:「「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

<場所:金鐘、灣仔、銅鑼灣、荔枝角拘置所>
原題の『缺一不可』はデモ隊の掲げる「五大訴求 缺一不可」から来ている。デモ隊は特区政府に「五つの要求」をし、そのうちの「一つでも欠けてはならない」としていた。ま、香港市民の総意でもなく、デモ側(黒い服着て警察と対峙している連中)を中心に訴えていたものである。本作では中秋節を前にして起きた衝突と、拘束された連中が収容されている荔枝角拘置所の前に集まって、収容されている「手足」に「中秋節快楽!」とメッセージを送る手足たちが収められている。下記のサイトで全編観ることができるが、「美しい友情物語」の映像ばかりで、連中の犯した罪深き愚かなる行為は何一つ収められていない。余談ながら、このころから上の写真のように、ボディーボードを盾に使う子が増えたけど、あれは役に立たないよ…。

https://innews.pts.org.tw/video/MTM4OQ

◆◇◆

いずれの作品にも共通するのは、ほとんど「恐怖分子=テロリスト」と化した破壊と暴力を繰り返す連中の「礼節の欠如」「手前勝手」「自己陶酔」で、「お前らとはまったく話にならない」というのが、当時から現在に至るまで変わらぬ印象である。今回、この短編集を観て改めてそう思った。

◆◇◆

これで今映画祭の上映作品をすべて観終わった。毎日、最終上映の後に監督たちと日本側主催者の林家威(リム・カーワイ)監督を結んでのリモートトークイベントがあった。拝見したかったのだが、何分、緊急事態宣言下にあって、この時間まで居残りしていたら晩飯に苦労することになるので、残念ながら見送った。もし、このトークイベントで監督たちの生の声を聴けたら、もう少し素直な気持ちで感想を記すことができたのかも知れなかったね。

しかし、香港インディー・シーンを支えてきた「影意志」にも何かと圧力がかかり始めていることを考えると、今後、今回の上映作品を香港で観ることはますます難しくなるし、インディー作品自体、製作が困難になってくるだろう。この流れ、決して好ましいものではない。そうなってしまった原因は決して中央政府、特区政府、警察の責任だけではないということは、強く言っておきたい。

(令和3年6月25日 シネ・ヌーヴォ)



 


1件のコメント

コメントを残す