【睇戲】僕は屈しない(港題:地厚天高)

2021香港インディペンデント映画祭 in 大阪

さてさて、今映画祭の「真打その一」である。本土派というか「港獨派」のカリスマ的存在である梁天琦(エドワード・レオン)を追ったドキュメント作品『僕は屈しない(港:地厚天高)』を観た。

「本土派」についてはこれまでも拙ブログで散々紹介してきたので、今回は詳細は避けるが、要するに「香港至上主義」を提唱する一派である。従来の泛民主派=伝統的民主派では掬えていなかった層から高い支持を得ている本土派港獨派自決派なども日本のメディアは「民主派」と呼ぶが、こうした一派は決して「民主派」ではなく、従来の民主派に「No」を突き付ける一派である。中国との対立姿勢が明確なことから「民主派」と呼ぶんだろうけど、民主的ではないのは2019年の暴乱を見ての通りで、異なった意見には一切耳を貸さず、暴力で封じ込めるのだから、彼らに香港の未来を託すわけにはいかないのは明白だ。

ただ、本土派の言い分にも当初は小生も賛同する部分は多かったのは確かで、特に従来の民主派には与しない姿勢というのはすごく評価していた。なので「梁天琦が民主派を変えてくれるのでは」と期待もしていたが、その後の言動の数々はただひたすら小生を幻滅させるものばかりになってしまったのは、なんとも残念な限りであった。

そんなわけで、小生的には観る必要のない作品なのかもしれないが、かと言ってせっかくの機会を逃すのももったいない話なので、観てきたという次第。ま、観てよかった。「彼らに香港の未来を託すわけにはいかない」というのを改めて確認できたのは収穫だ。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

僕は屈しない 港題:地厚天高

港題『地厚天高』 
英題『Lost in the fumes』
邦題『僕は屈しない』

公開年 2017年
製作地 香港
言語:広東語

評価 評価し難し(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):林子穎(ノーラ・ラム)
監制(プロデューサー):崔允信(ヴィンセント・チュイ)

【作品概要】

その内容から香港での劇場公開はかなわなかったが、2018年から今日まで香港アートセンターをはじめ、すでに数百回以上の自主上映が行われ、毎回満席を記録した奇跡のような映画。その人気の理由は、この映画の主人公である香港本土派の政治活動家、エドワード・レオンのカリスマ性にある。2019年の民主化デモでのメインスローガン「光復香港、時代革命」は、実は2016年にレオンが立法会議員に立候補した際の選挙スローガンに由来し、彼の影響力の大きさが窺えるだろう。レオンは旺角(モンコック)で起きたデモ騒動で6年の実刑判決を受けているが、本作はその事件の顛末を活写している。
本作に出演した後、レオンは一時海外に亡命した。その後、香港に戻ると逮捕され、未だ服役中である。<引用:「2021年 香港インディペンデント映画祭 」公式サイト

相当なヘビースモーカーである。というか、もはやチェーンスモーカー。話すときには煙草が手放せないという感じだ。小生ものべつまくなし煙草を吸ってるが、彼はそれ以上である。恐らくは相当神経質なんだろうと、自分と合わせて推察する。まあ奴にしてみれば、「煙草でも吸わなやってられんで、しかし…」ってとこかもしれないが。香港の独立を訴える「港獨派」の政治集団「本土民主前線」のリーダーとして、バリバリやっていた頃だ。作中でよく見かけるブルーのスウェットパーカー、Tシャツが「本土民主前線」のトレードマークだが、あのパーカー欲しかったんだ、実は(笑)。

作品は2019年の暴力破壊行動ではなく、2014年の雨傘以降から2015年の立法会補選、2016年農暦新年に起きた「旺角騒乱」、同年の立法会選挙立候補無効、国外逃避あたりまでを記録している。冒頭にも記したように、当初は彼には期待していた。本土から押し寄せる「水貨客(個人並行輸入客)」の問題にスポットをあてたのは、多分奴が最初だったと思うし、発言がこれまでの「伝統的民主派」とは一味も二味も違うので、「こういう人を待っていたんよ!」な気分ではあった。が、上記の「旺角騒乱」あたりからの「暴力も辞さず」な姿勢には、「案外、ダメかも」なイメージに転じて行く。それこそ「光復香港、香港独立」などと言い始めた時点で、小生的には完全アウトだ。「一国両制度」の放棄を喧伝するような奴に香港の将来は託せない。

2016年の立法会選挙立候補から立候補の無効、青年新政梁頌恆(バギオ・リョン)支援に転じるまでの言動の変節などは、「で、お前、どうしたいねん?」という目まぐるしさを覚えている。この間、奴は相当悩んで悩んで悩みまくっていたと思われる。折に触れて挟まれるインタビューから苦悩ぶりがうかがわれた。おそらくかつてないほど、煙草の本数も増えたんじゃなかろうか。香港、煙草代高いのに…。ギターなんかも弾いちゃう普通のにいちゃんなのにねぇ…。

しかしまあ、梁頌恆も当選はしたものの、騒ぎを起こすだけで何も役に立たなかった。やりようがもっとあっただろうにと思うが、結局のところ「傘兵(雨傘後に成立した政治組織の当選者)」は、碌な奴がいなかった。

そのへんのあれこれを思い出させてくれる作品だった。『蘋果日報』終焉の前日になんという因果であろうか…。

現在、奴は服役中である。2022年1月に刑期満了となるが、服役前とは香港の状況は相当変化している。奴が生きて行く場所が香港にあるとは思えない。邦題のように「僕は屈しない」とばかりに、欧米に活動の場を求めるのだろうか?今では全く支持できない人物だが、最初は支持していただけに、半年後の梁天琦が気になるところである。

地厚天高 預告片

(令和3年6月23日 シネ・ヌーヴォ)



 


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