【睇戲】小早川家の秋

<アイキャッチ画像:浪花千栄子と鴈治郎はん、差し向かいでご機嫌だったが…>

浪花の名女優 浪花千栄子

先日、最終回を迎えたNHK朝の連続ドラマ『おちょやん』。浪花千栄子をモデルにした物語で、断片的にしか観ていないが、結構面白いドラマだった。しかしまあ、美人な浪花千栄子とイケメンすぎる渋谷天外だった(笑)。

小生にとっての浪花千栄子は、とにかく「オロナイン」のホーロー看板のおばちゃん。なにせ本名が「南口キクノ(なんこう・きくの)」、すなわち「軟膏効くの」だから、うってつけの人。当初、オロナインのCMキャラだった大村崑がその本名を聞いて、あっさりその座を譲ったというエピソードもあるほどだ。そしてもう一つは人気ドラマ『細うで繁盛記』での、主人公加代(新珠三千代)の祖母役が印象深い。回想シーンしか出演がなかったが、少女だった加代に「こいさんは大きなったら何になりはりますねんや?」「旅館のおかみ!」「そうでっか、そりゃよろしおますな」という会話のシーン。子供ながらに「きれいな大阪弁しゃべる人やな~」と思ったものだ。

いつも「おっ!」という企画ものをぶつけてくるシネ・ヌーヴォでは、『おちょやん』放映記念にと、浪花千栄子出演映画を大特集。3週間にわたって15本を一挙上映してくれた。もちろん、すべてを観れるわけではないが、運よく、「余人に代えがたい特殊な技能を要する」業務委託が、昨年秋からのプロジェクトが完了し、次のプロジェクトまでの充電期間なんで、時間はあることにある。ならば、できるだけ多くの作品を観ておきたい!ということで、しばらく拙ブログも昭和30年代の邦画ネタが続きます(笑)。

小早川家の秋

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

邦題『小早川家の秋』
英題『The End of Summer』

公開年 昭和36年(1961) 製作地 日本
製作 宝塚映画撮影所 
配給 東宝 言語:日本語
総天然色

評価 — 

監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:中井朝一
音楽:黛敏郎

出演:二世中村鴈治郎、原節子、司葉子、新珠三千代、小林桂樹、宝田明、加東大介、団令子、浪花千栄子、白川由美、山茶花究、藤木悠、杉村春子、笠智衆、望月優子、東郷晴子、環三千世、島津雅彦、遠藤太津朗、内田朝雄、森繁久彌

【作品概要】

小津が宝塚映画に出向して撮ったオールスター映画。道楽者の隠居老人(二世・鴈治郎)がかつての愛人(浪花)とよりを戻したことから巻き起こる、伏見の造り酒屋・小早川家の騒動を描く。鴈治郎が老いらくの恋にはしゃぐ旦那を軽妙に演じるが、大阪弁とは異なる京言葉で返す浪花の名演が光る。男の死を看取ることになる初老の女の哀愁を演じた浪花の代表作のひとつ。<引用:シネ・ヌーヴォ特設サイト

松竹の象徴たる小津安二郎を宝塚映画に招き、東宝オールスターとも言うべき豪華キャストで臨んだ作品。五社協定ガチガチな時代に極めて珍しい作品。ちなみに、「小早川」は「こばやかわ」ではなく「こはやがわ」と読む。

上記概要にもあるように、京都は伏見の老舗造り酒屋が舞台。古い商いでは時代に取り残されてしまうという危機感を持つ婿養子(小林桂樹)が、大手資本の傘下に加わろうという計画を進めていこうとする、という「時代の波」も感じることができる。そんな中での当主・小早川万兵衛(鴈治郎)の老いらくの恋である。

小生には難しい作品であった。長男の未亡人(原節子)の再婚話から始まり、次女(司葉子)は北海道に転勤が決まった同僚(宝田明)への思いが募り、長女(新珠三千代)はまたぞろ昔のええ女の所へ通い始めた父・万兵衛に怒り心頭…。と、家族の恋物語を描いていたが、結局は万兵衛の物語であったような気がした。やはり「死」というのは、それほどにインパクトのある出来事なのだと思わされる。病院のベッドではなく、まさに「畳の上」での死。その瞬間は描かれず、手掛けさん(浪花千栄子)の娘(団令子)の「こんなことになるなら、もっと早うにミンクのストール買うてもろといたらよかった」で、万兵衛の死を描くあたりに小津を感じる。ま、小生なんざあ、小津のなんたるかはまったくわからんのだけどね(笑)。

そう言えば、同居していた小生の母方の祖父も「畳の上」で亡くなった。昔はそういうケースが多かったなぁ…。

60年前の作品だから当たり前なんだけど、とにかく出演陣がみんな若い! そして杉村春子は上手い!名古屋に住まう万兵衛の実妹。お通夜の席で名古屋弁で散々万兵衛への憎まれ口を叩いた後に嗚咽するのが、もう上手くて、上手くて。

原節子は本作以降2作で引退することになるから、貴重な出演作。他の出演者が京ことば、上方ことばで演じていた中で、彼女は標準語で語る。画に描いたような富士額が印象的。彼女と浪花千栄子の着物の着方がそれぞれの立場を表しているかのように感じたが、本人たちが意識してそうしたのか、衣裳さんの指示があったのかはわからないが。

出演陣でよく覚えておくべきは山茶花究。この特集企画の作品、ほとんどに顔を出している。

「みんな若い」と言ったが、笠智衆だけはあくまで笠智衆だった(笑)。まったく小早川家とは無縁なお百姓夫婦が、川で作業をしながら、焼き場から煙が上がるのを見て「誰かが死んでもまたどこかで子が生まれる。世の中ようできたもんだ」な旨の会話。しんみりと胸に響く。恋物語をからめながら、「家族」、「死生観」を描いた作品だということを実感する場面でもあった。

さて、肝心の浪花千栄子だが、先述のように万兵衛の昔のお手掛けさんである。以前聞いた話では、上方では「てかけ」、お江戸は「めかけ」と呼ぶと。諸説あります(笑)。

一度倒れた万兵衛だが、元気を取り戻し、死んだ日の日中には炎天下に二人して競輪に出かけた。競輪の場面の前に「西大寺」と刻まれた石の道しるべが映ったが、となると、あの競輪場は奈良競輪なのか?木造の危なっかしいスタンドだった。で、その夜に逝っちゃうわけだが、駆け付けた長女に「あっけないもんでんなぁ」と。悔やみの言葉はないんかえ?と思った(笑)。

色々と確認したい点もあるし、最初にも記したように、小生には甚だ難解な作品でもあったので、DVDを購入して何回か観てみたい気もする。

(令和3年5月10日 シネ・ヌーヴォ)




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