【上方芸能な日々 文楽】令和3年4月公演<第三部>

人形浄瑠璃文楽
令和3年4月公演<第三部>

さて、第三部。数年前に文楽劇場の座席シートが新しくなり、かなり座り心地が良くなったことで、腰への負担もグッと軽減された。ということで、朝から晩までぶっ通しで観ても、以前に比べるとそれほど苦痛には感じなくなった。もっとも、座り心地が良いということは、すなわち寝心地もいいわけで(笑)。

で、この三部だが、どうしてこういう狂言建にするんやろうと不思議に思う。小生は『刀剣乱舞』なるものは、今回初めて知ったわけだが、たいそうな人気らしい。そしてこの「とうらぶ」のファンの女性を「刀剣女子」と呼ぶというのも、初めて知った。文楽劇場の告知によれば、

国立文楽劇場では4月文楽公演において、人気オンラインゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-(とうけんらんぶおんらいん)』とユネスコ無形文化遺産である人形浄瑠璃文楽とのコラボレーションを実施いたします!4月文楽公演第3部で上演する『小鍛冶』は、宝刀「小狐丸」誕生の物語。『刀剣乱舞-ONLINE-』の「刀剣男士 小狐丸」もまさしく『小鍛冶』に由来する刀剣男士であることから、このコラボレーションが実現しました。本公演限定の特別企画を多数ご用意してお待ちしております。文楽ファンの方も、『刀剣乱舞-ONLINE-』ファンの方も、文楽は初めてという方も、この機会に興味を持たれた方も、ぜひ大阪・国立文楽劇場へご来場ください! <引用:国立文楽劇場ホームページ「トピックス」

ということらしい。なるほど、「刀剣女子」と思しき方々が見受けられた。ああ、そういうことかと。これまでもコラボは幾度か目にしてきたが、今回は劇場も一層気合が入っており、劇場入り口の鉢巻き、告知ポスターで「刀剣男士 小狐丸」を全面的に押し出し、なななんと!人形まで作ってしまうという塩梅。そこまでミーハー路線に走るなら、その前の上演に『阿波鳴』はないだろう…、という話だ。それもだ、前半だけで止めておけばいいのに、後半の陰惨で理不尽で気の毒で可哀そうな、我が子を殺して金を盗む場面までやるんか~、ってところだ。まあ、文楽にウキウキワクワクする話はほとんど無いけど(笑)、もうちょっと選びようがあったろう…。「刀剣女子」さんたちは、「ないわ~、この展開…」と思いながら観ていただろう。もったいないなあ…。

まあでも、『小鍛冶』のためのオールカラーの解説書と、小狐丸の人形拵えの解説書や映像、コラボ特別スタンプ、『阿波鳴』の解説書を用意していたのは、文楽劇場にしては気が利きすぎているくらいだったわな(笑)。そこは大いに評価してあげましょ。言い換えれば、他の演目もこれくらい気合入れてくれと(笑)。

刀剣女子さんたちは、このパネルと並んでうれしそうに記念撮影していた
初日はケースに入っていた小狐丸だが、ケースが反射するというので、二日目からはケースから出して展示したとのこと

傾城阿波の鳴門

 「十郎兵衛住家の段」

口;碩 燕二郎
前;千歳 富助
後;靖 錦糸

「口」は御簾内から、若手による上方伝統文化芸能ユニット「霜乃会」の二人。将来の超有望株の碩だが、いかんせん、まだまだ若い。年齢も声も。これから何度も太夫としての「声変わり」を繰り返し、相応のキャリアになれば、この子は相当聴かせる存在になると思う。その片鱗は、このわずかな御簾内の出番でも十分伝わる。それは燕二郎も同様。研修生の時から「お、こいつ!」と目をつけていたんで多少の贔屓目もあるけど(笑)。

涙、涙、ひたすら涙の「前」が千歳はんと富助はん。今や黄金コンビ。ここまでで終わってたらすごいエエ話。実際、これまで小生が聴いた『阿波鳴』は、「順礼歌の段」としてここで終わる。かわいそうでたまらんストーリーながら、「もしや、この母と子はこの後、幸せになるのでは?」と一縷の望みを持たせる終わり方をするんで、もうこれでええやんと思うのだが…。肝心の千歳はんだが、ちょっと苦しそうだったかな?勘十郎はんのお弓はもちろんよく、おつるの勘次郎も思いが伝わる遣いようで非常によかった。

「後」を靖が語る。そう言えば、靖は今公演から千歳門下になったとか。「とか」と付けたのは、公式なお知らせは目にしたことがなく、SNS上の情報で知って「へ~、そうなんや~」ってなったから。嶋さんが亡くなられたことで、いずれ誰かの門下に預かってもらうことになるとは思っていたが、こういうのは、ちゃんとお知らせしていただきたい。番付に数行書き足すだけでいい話なんだけどなぁ~。

話の方は、元も子もない展開に。ようこんな話作ったなぁというところ。以前、桂南光師が「ルンルン気分で家に帰れない話」と言ってたが、まさにそれ。そんな難しいところ、下手すれば客から「もう、ええわ~、せっかくの話を台無しにせんといて~」と思われかねないような場を、靖が錦糸はんのリードでまとめるも、物足りなく感じた。実際、ノリにくい話ではあるが、あと二押しくらいは欲しかった。玉也はん休演で、代役の玉佳が十郎兵衛を。直後に本役の『小鍛冶』を控えている中でもそつなくこなすのは、さすが。

小鍛冶

稲荷明神 織 宗近 睦 道成 芳穂 ツレ 小住 亘
藤蔵 清志郎 友之助 清允 清方

さあ、刀剣女子の皆さんお待ちかねの『小鍛冶』が始まるよ~。

まずSNSなどで、刀剣女子さんたちの感想を見るに、好評だったのは何より。さらに何よりだったのは、織さんの語りと藤蔵の演奏に衝撃を受けた人が多かったのが嬉しい。観に来ただけやなしに、聴いてくれてたんやな~と。実際に、織さんも藤蔵も「これでもか!」の熱演で、いつも来ている小生ですら、ちょっと感動もんだったくらいだ。他の太夫も三味線も、この二人によくついて行き、重厚な床を形成していた。

人形も玉佳の小鍛冶は凛とした中にも、常にエネルギッシュな動きを見せ、観客の目を釘付けにした。左の玉勢、足の玉路も非常によく動いた。玉路の足遣いはいつも動きが良い。相当な運動神経と体力の持ち主なんだろうなと思う。

人形が良く動き、床がよく聴かせる。実に理想的な『小鍛冶』だったと思う。そいうのが、文楽に初めて接したこの日の観客に響き、「また文楽に来たい」と思ってもらえたなら、いいのになぁ…と思いつつ、帰宅の途についた。

(令和3年4月3日 日本橋国立文楽劇場)



 


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