【睇戲】狂舞派3(港題:狂舞派3)<日本プレミア上映>

アイキャッチ画像:7年ぶりに帰ってきた『狂舞派』は、返還前から香港に根付く社会構造に切り込む作品。このビジュアルがそれを物語っている(引用:『狂舞派3』Facebook>

第16回大阪アジアン映画

長編1本に短編3本を観て、前日はすっかりくたびれた。休養日にしたいけど、このご時世である。観られるとき観ておくに限る。世の中、どう転ぶかわからんのだから。と言いながらも、この日は1本だけ。これ以外に特に観たいと心が動く作品もなく(あ、関係者の人すみません!)、月も半ばとなれば、お財布の中身も心寂しくなってきつつあるし(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門|特集企画《Special Focus on Hong Kong 2021》
狂舞派3 題:狂舞派3 <日本プレミア上映>

で、『狂舞派3』である。シリーズ最初の作品を観たのは2014年の大阪アジアン映画祭のこと。シリーズものにはなるんだろうなぁ…。などと思っていたもんだが、7年たってようやく…。って、え?「3」なんか?「2」は?と、?が渦巻いたのだが、はは~ん、そうきたか、みたいなね(笑)。

港題『狂舞派3』
英題『The Way We Keep Dancing』

邦題『狂舞派3』
公開年 2021年 製作地 香港
言語 広東語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黃修平(アダム・ウォン)

領銜主演(主演):顏卓靈(チェリー・ガン)、蔡瀚億(ベビージョン・チョイ)、楊樂文(ロックマン・ヨン)、劉敬雯(リディア・ラウ)、霍嘉豪/Heyo、劉皓嵐(リアンダー・ラウ)、阿弗、黃莉雅/Tasha、林悅榮(ユエンロン・リン)、李俊華(孖八<Popper 88>)、朱天奇/翊飛、何啟華(ディー・ホー)
友情演出(友情出演):何嘉麗(スザンヌ・ホー)、游學修(ネオ・ヤウ)、吳肇軒(ン・シウヒン)、灰熊(蘇偉泉/ソー・ワイチュン)

領銜主演、要するに看板俳優がやたら多いね(笑)。ポスターの「番付」ではそこに名前があっても、映画を観てみたら顏卓靈(チェリー・ガン)、蔡瀚億(ベビージョン・チョイ)、霍嘉豪(ヘイヨー)が実質大看板で、後はそれを囲む小看板って感じだった(笑)。まあ、この看板さんたちが中心となって物語が展開するから、メンバー全員で領銜主演となるわけかな。そこは大目に見てあげましょうぜ。

本来、2020年の新暦正月映画として公開されるはずだったが、COVID-19の感染急拡大による香港の映画館の休館であえなく上映は見送りとなり、ようやく今年の旧正月映画として2月18日から香港でも上映が始まる。だから、現地公開から半月余りで大阪で観ることが叶うことになった次第。ま、そのへんちょっと複雑な心持ではありますわな。

また、前作ではストリートダンスがフューチャーされたが、今作はラップをフューチャーしていた。ラップは字幕が大変だったろうなと思う。翻訳だけじゃなく、ラップにしなけりゃならないんだからねぇ…。

作品概要】

ハナ(顏卓靈/チェリー・ガン)は今やマネジャーの付くアーティストとして売り出し中。一人だけスポットライトを浴びるハナと仲間たちの間がぎくしゃくしてくる。おちゃらけキャラのトップYouTuberリョン(蔡瀚億/ベビージョン・チョイ)もデベロッパーの都市計画を利用しようと図るがそれも裏目に出る。ヘイヨーも仲間や師から孤立してしまいスランプに陥る。各々が葛藤を乗り越えた時、同じ志を持つ仲間のリユナイトが輝きを取り戻す!<引用:大阪アジアン映画祭作品紹介ページ

急速に再開発が進み、昔ながらの街並みがすごいスピードで姿を消す九龍は觀塘(Kwun Tong)地区。このあたり一帯はかつては觀塘工業區(Kwun Tong Industrial Area )と呼ばれ、工場団地がひしめくエリアだったのだが、この15年ほどの間で工場ビルやブルーカラー向けの住宅ビル群は、觀塘商貿區(Kwun Tong Business Area)として面貌を一新しようとしてる。空き家となり、再開発を待つばかりの工場団地ビル群を拠点とするアーティスト集団が、「KIDA (Kowloon Industrial District Artists)」。KIDAは今、再開発の波の中で行き場を失いつつあるのだとか。今作ではKIDAが再開発の波に乗るかそるかが、物語の中核となる。

事の始まりは、人気YouTuberとなった阿良(演:蔡瀚億/ベビージョン・チョイ)がKIDAの根城である龍城工廈區の再開発、それもHip Hop文化を前面に押し出した計画を狂舞派に持ちかけたことから。こいつ、前作では太極拳野郎だったのにえらい変貌ぶりだ(笑)。太極拳を極めていればよかったのに、欲を出したな、こいつ(笑)。

メンバーたちは、ハナ(顏卓靈/チェリー・ガン)一人が売れっ子スターになってしまっていることが面白くない、という中で話は展開してゆく。ま、結末はすっきりとするものではあったけど、それはあくまで、この映画の中の龍城工廈區の再開発にかかわる狂舞派の面々にまつわるエピソードの部分だけの話。

地産覇権」、要するに大手デベロッパーが香港社会を支配している、という図式は返還前から延々と続く、悪しき構造。香港市民の、とりわけ若者の不満の根源はここにあり、と言っても過言ではないだろう。今作の都市計画を見てわかるように、政府(昔は政庁)とデベロッパーの公然の癒着体質により、住む場所、商売の場所、芸術活動拠点などなどを奪われる人が後を絶たない。夜景が美しい今の香港の高層ビル群は、この「地産覇権」の象徴でもある。

地産覇権を象徴する場面は作中のあちこちに散りばめられていたが、最たるものは阿良が人気YouTuberとなる前、食べる物さえ困窮していた頃に知り合った段ボール回収のおばあさんだろう。阿良は都市計画推進の一環として、このおばあさんとの出会いや、温かい交流を新聞の取材で語る。が、結果としてその行為がおばあさんの「定位置」すなわち、商売の場を奪うことになってしまう…。大小様々、こういうことが毎日数限りなく、香港のあちこちで起きている。別に返還後の話ではない。それ以前からずっと、である。

みんなこいつに振り回されたねw しかし男子でイマドキこういう髪型も珍しいw

地産覇権は言い出すと映画の話からどんどん逸脱してゆくのでここらで止めて…。気になった出演者を振り返るとしよう。そもそも、地産覇権をどうこう言うつもりは、監督にはまったくないかもしれないし(笑)。まあ、小生が勝手にそう観ているだけの話だからね(笑)。

まずは、何と言っても顏卓靈(チェリー・ガン)。豆腐屋の娘であだ名が「豆腐花」だった純朴で一途にダンスに取り組む女の子が、7年後にはイイ女になっちゃってて、おじちゃん、思わず「お前、あの子か!」とスクリーンに叫びたくなったよ(笑)。出演作品を観たのも前作以来だけに余計にね。女優としても作中のハナとしても、いい感じで成長している。

Heyoこと霍嘉豪が今作では前面に出て、揺れ動くメンバーたちの気持ちを代表していた。前作では確か「その他大勢」的な出演だったと思うが、今作は彼のHip Hopが前面に出てきて、作品の色合いを印象付ける役目を果たしていたと思う。彼は実生活でもKIDAである。

狂舞派以外のKIDAや町の住民たちの批判の矢面に立って苦しんでいた

そして実は大阪アジアン映画祭、3作目の登場となる子役の劉皓嵐(リアンダー・ラウ)。この子のダンスはキレッキレだったねぇ。黃修平(アダム・ウォン)監督、実に上手いなと思ったのは、エンディング曲が流れる場面。建設現場を背景にメンバーが個々にダンスするんだが、この子のシーンがすごく長かった。地産覇権はこの子が大人になっても背負ってゆかねばならないのか…?ってことを訴えかけているようで、印象深いシーンだった。

このシーン、すごく印象深いし、とてもいい!

友情出演陣にも目を向けておきたい。大阪アジアン映画祭の常連、游學修(ネオ・ヤウ)は阿良の友人で現在は新聞記者。件の段ボール回収のおばあさんのエピソードなど、狂舞派各メンバーを丁寧に取材する役どころ。別のメディアの記者役の許賢(ホイ・イン)、イベントマネージャー役の蘇致豪(ソー・チホー)。この3人が中心となって最近「試當真(Trial & Error)」というYouTubeチャンネルを開設した。すでに風刺の利いた動画をいくつもアップしており、なかなか楽しいことをやっている。そこになんと『狂舞派2』がアップされている!狂舞派の主要メンバーや黃修平(アダム・ウォン)監督も出演しているじゃないか!興味と時間があれば観ておいてほしい。

あ、それとホンマに「『狂舞派2』はどないしたんや~?」というマジな疑問には、黃修平監督がインタビューで色々語っているからそこから察してね(笑)。うまいことやりはったね(笑)。

今作が短編含め4作目の大阪アジアン映画祭参加の黃監督。最初の短編は観ていないが、長編3作は観た。「学生映画かい!」という思いが「そういう芸風なんかな」になり今作では「この作風で続けてほしい」と思うのだから、監督さんも小生も成長したね(笑)。次作も大阪で是非!

<受賞>
《第57屆金馬獎》6部門ノミネート

《 #狂舞派3​​》THE WAY WE KEEP DANCING 正式預告 Official Trailer

(3月7日 シネ・リーブル梅田)



 


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