【上方芸能な日々 文楽】令和3年初春文楽公演 <4>

人形浄瑠璃文楽
鶴澤清治文化功労者顕彰記念
和3年初春文楽公演 <4

COVID-19の感染拡大で休演が続いていた文楽劇場での本公演が再開されて、2度目の公演。今回もまた三部構成である。これ、いつまで続けるんでしょうかね?来る4月公演も三部制。夏休み公演は従来から三部構成なんで、秋公演には本来の二部構成に戻るかな?まあ、これも感染拡大状況次第。明日のことはわからない。現に、今公演中も「緊急事態宣言」のさ中だったわけだし。そう考えれば、初日から千秋楽まで公演できて、ああよかったね、ってところなんだろうかな…。

しかし考えてみれば、実に贅沢な狂言建である。それぞれ「見取り」とは言え、『菅原』『千本桜』『妹背山』の人気狂言が一日で観れるわけだから。ラッキーなのか異常なのかと言えば後者なのは明らか。三部構成というのが、こういうやり方でいいのかどうか、いいはずはなく、ここは一考の余地あるところ。ま、どっちゃにせぇ、COVID-19に振り回されっぱなしの1年である。まだまだ先は長そうだけど…。

1月9日第三部

妹背山婦女庭訓

道行恋苧環

お三輪  織 橘姫  芳穂 求馬  希 小住 文字栄
藤蔵 勝平 寛太郎 錦吾 燕二郎 清方

第二部が道行で終わり、第三部が道行で始まるという、なんか変な気もするが、そこは違いを楽しむとする。「千本道行」がポップな明るい曲で人形もケレンたっぷり、舞台は桜満開の晴れやかなものだったのに比べ、こちらの舞台は薄暗い夜で、三味線のシンの藤蔵の音色もズーンと響く音を聴かせる。まさしくお三輪の「疑着の相」を予感させる音色と舞台設定。山家育ちのお三輪が「婦女庭訓」を説き、橘姫が「恋はやったもん勝ち」的なことを言うのが、面白い段。織のお三輪が秀逸。いつもここを語る時に言うのだが「赤い糸」は怖いね。披露宴で「二人は赤い糸で結ばれ」とか祝辞言う人が多いけど、あれ聞く度にお三輪を思い出していた司会者はワタクシです(笑)。

鱶七上使の段

籐 清志郎

長い段ではあったが、藤太夫はんは息切れすることなく、なかなか骨太な浄瑠璃を聴かせてくれた。清志郎もそこをうまく出たり引いたりしながら鳴らしていたので、人形も含め、全体的によくまとまった段だった。やっぱり床次第、太夫次第やなと改めて思わされたところ。ここにも大笑いがあったが、「菅原」の津國はん同様に拍手喝采とまでは至らなかった。

姫戻りの段

希 清丈

希が求馬のずるい計画と、それでも求馬につくしたいという橘姫の一途さを上手く捌けるのかなと、注目してのだけど、いやいや心配に及ばず、ご立派なもんでした。要は、三味線の清丈ともどもに丁寧だったわけで、そこに尽きる。しかし橘姫も偉いもんだわな、あそこまで一途になれるとはなぁ…。

金殿の段

錣 宗助

「疑着の相」がどーのこーのの段(笑)。一介の田舎娘にそこまでの表情にさせ、命を捧げさせる求馬もたいがいえぐい。もうねえ、赤い糸も白い糸も怖いよ、ほんと。で、ここを見るたびに、杉酒屋の家族は今頃どーしてるんだろう?と思う。文楽にはそういうハナシが実に多い。ほったらかしかい!みたいな(笑)。床のコンビはさすがなもんで、官女にいびられるお三輪のなんとも言えぬ気持ち(悲しみ、悔しさ、敗北感、恋する想い……)がひしひし伝わる。人形(勘十郎)がこれまたさすがの遣いようで、目に耳に充実感を感じさせてくれた。鱶七は公演前半を玉志、後半を玉助が遣ったがどちらもダイナミックで荒物遣いの魅力を伝えていた。個人的には玉志にやや分があったと感じた。玉助は小生の脳内で第二部の忠信が引きずってしまったかもしれない。そこは配役の難しいところかな。

1月23日第三部

惜しむらくは、杉酒屋から見せてほしかった。でないと、やっぱりここでの一連の橘姫、お三輪、求馬の関係が希薄なものになってしまう。小生なんぞは、通しで何度も観ているから省かれてもそこはわかるのだが(肯定的なわけではない)、今回初めて『妹背山』を観る人や、初めて文楽を観る人には「なんのこっちゃ?」になってしまう。そういう意味でも、三部制はそろそろ考え直してほしいし、感染予防のために継続するのであれば、さらに狂言建について一考どころか熟考していただきたいと思う。なんらかの策を打たねば、せっかくの名作が台無しになってしまう。文楽が疫病に負けないためにも、そこはぜひ!

緊急事態宣言発出以降の時間表。「金殿の段」が結構端折られたと聞くが、どこがどう端折られたか、ぼんくら見物人にはさっぱりわからんかった(笑)。

(1月9日、23日 日本橋国立文楽劇場)



 


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