「台湾巨匠傑作選2020」、どうやらこれが最後の1本となりそう。まだまだ序盤だが、この先は仕事も立て込んでおり、多分、無理。なので最後は、いい作品だったらいいなあと期待を込めてシネ・ヌーヴォへ。
河豚台題=河豚
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題『河豚』英題『Blowfish』邦題『河豚』
公開年2011年製作地台湾
言語標準中国語
評価★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):李啟源(リー・チーユエン)
編劇(脚本):李啟源、潘之敏(パン・ズーミン)
摄影(撮影):韓允中(ハン・ユンチョン)
剪接(編集):李啟源
音樂(音楽):半野喜弘
製片(プロデューサー):簡麗芬(ジェン・リーフェン)
領銜主演(主演):吳慷仁(ウー・カンレン)、潘之敏(パン・ズーミン)、姚安琪(エンジェル・ヤオ)、陸弈靜(ルー・イーチン)
【あらすじ】
恋人に裏切られたエレベーターガールは、彼が飼っている河豚をネットオークションで売る。買手に届けるために訪れた東部の田舎で、心の傷を埋めるために初めて会った男と激しく身体を求めあい、やがて…。『盗命師』のリー・チーユエン監督による、都会で暮らす孤独な女性と、東部の田舎で暮らす青年の愛と喪失、再生の物語。<引用:シネ・ヌーヴォ『台湾巨匠傑作選2020』特設サイト>
金針花が印象的なラストシーン
ラストシーンがとにかく美しい。一面が黄金色の花に埋め尽くされたなだらかな丘陵。そこにたたずむ男女。物語の主人公、潘之敏(パン・ズーミン)演じる小尊(シャオズン)と、吳慷仁(ウー・カンレン)演じる少年野球チームのコーチである。
この美しく咲き誇る花は「金針花」。日本では「ワスレグサ」と呼ばれており、食用にもできるという。台湾にはいくつかの名所があるようだが、今作の撮影地は台湾東部の花蓮県にある標高964mの六十石山。金針花の名所中の名所らしく、8月から9月に満開となると花見客がどっと押し寄せるとのこと。以前から何度も言ってきたが、台湾映画にとって、こういう自然の美は非常に大きな財産。とくに太平洋に面した東部海岸や南部は本当に美しい光景が広がる。こういうエリアをじっくりと旅したいんだが、さてさて、この状況、いつまでそんな日が来るのを待たねばならぬことやら…。
物語は、この男女を中心に、と言うかほとんどこの二人だけで展開してゆく。だから筋がいたって単純なんで、色々考えなくてよいのがいい(笑)。今回のプログラムで最初に観た『盗命師』と同じ監督の作品とは思えないが、通じるのはどちらにも雄大な台湾の自然が盛り込まれているという点。これはこの監督の特徴の一つかもしれない。
台北の百貨店でエレベーターガールやってる小尊は彼氏との二人暮らし。恭しくお客にお辞儀を繰り返す日々ながら、帰宅後は彼氏のために料理も作る。そんな小尊に無関心になってきた彼氏に、何をしてるかと問えば「ネットオークション」だと言う。この彼氏、ある日ハリセンボンを釣ってきて水槽で飼い始める。小尊もエサを買ってきたりして、ちゃんと飼ってやろうとした矢先…。
同僚からシフトの交代を頼まれたので帰宅したら、あら大変!彼氏、浮気の真っ最中!
今度は小尊がネットオークションに夢中になり、ベッドで待つ彼氏そっちのけで、例のハリセンボンをオークションにかけたのだった。ほどなく買い手が付き、彼女は落札者へ届けに行く。電車とバスを乗り継いでたどり着いた先に待っていたのは、ボサボサの髪に無精ひげの若い男。
彼女は「直接水槽に入れる」と言い、彼の住まいに押し掛ける。水槽にハリセンボンを放すと、程なく激しいセックスが始まる。彼氏との生活に区切りをつけたいのか、単調な仕事の日々からの解放感か、とにかく今の自分の心の赴くまま、という感じ。落札者の男もそんな彼女に激しく応じる。
若い才能を見出す李啟源監督
さて、落札者の男を演じた吳慷仁(ウー・カンレン)、台湾ではなかなかの売れっ子だが、日本では公開作品が少ないこともあって、台湾電影迷の間で人気上昇中というところでとどまっているのが気の毒。ちゃんと売り出してあげれば、人気出ると思うんだがね。今作では、非常に激しいセックスシーンと鍛えられた肉体を披露していたが、昨年の大阪アジアン映画祭でも『非分熟女』で、我らが阿Saを茶餐廳の厨房で思いっきり犯していた(笑)。
と、思えば、昨年の「台湾巨匠傑作選」で観た電視電影『鮮肉老爸』では、過去からやって来た男をコミカルに演じていた。
今作『河豚』が一番古い作品で彼の映画デビュー作になるんだが、以降、色々とチャレンジしているというのがわかる。ただ、上手いかどうかというと、三作ではなんとも判断が…。と、とりあえず言っておこう(笑)。ま、そこはまだ若いからね。
一方の潘之敏(パン・ズーミン)。彼女は映画出演はほとんどない模様。吳慷仁ともども、國立臺北藝術大學電影與新媒體學院(国立台北芸術大学映画創作大学院)での李啟源(リー・チーユエン)の教え子である。潘之敏は今作では脚本も李啟源とともに手掛けている。芳香を漂わすような表情やきれいな裸体が、非常に印象に残った。それだけに映画出演が少ないのがもったいないが、現場から離れているわけでもなさそうなので、出演機会を増やしてほしいと思う。
二人とも当時(2011年)は新人。『盗命師』同様に、若い才能を見出して自作で起用することで世に送り出す李啟源の姿勢が非常に好ましく感じる。
存在感のあった陸弈靜
落札者の若者は少年野球のコーチで昼間は家にいない。ある日、近所の小金魚(金魚さん)なる女性が「六花(リウホア)、帰ってきたのね?」とやって来る。盲目の小金魚は小尊とはわからずに「ダンスの続きを教えて」と言い、タップダンスを踊って見せる。盲目の小金魚を演じたのは陸弈靜(ルー・イーチン)。もはやこのプログラム、「陸弈靜祭り」の様相である(笑)。ほんと今回は遭遇率が高い。
丁寧に描かれてゆく二人の距離感
小尊は興味の赴くままに、男の家の二階へ上がってみると、そこには女性ものの服がたくさん掛けてある。試しに着てみたらぴったり。カンの鋭い人(でなくてもw)なら「はは~ん、女の帰りを待ってるな、この男は」ってところである。小生なんぞはカンが鈍いのか「怪しい趣味の持ち主か?」なんて思ってしまうのだが(笑)。小尊はこれらの服を全部片づけてしまうのだが、男は怒って元に戻してしまう。ってわけで、男はトラック運転手と家を出てしまった六花の帰りをあくまでも待っていたかったということで…。
そんなこともありーのの日々だが、小尊はこの家に居ついてしまう。都会の生活に疲れた身には、田舎暮らしと、ミステリアスな男との暮らしは新鮮だったのか…。食事を作って男の帰りを待つ日々。
男はたまに屋台で麺を食べて帰って、彼女の手作りの料理を食べないことも。そんな時は彼女が屋台へ男を迎えに行く。他のテーブルのおっさんたちが奇異の目で彼女をなめるように見るのがおかしい。
結局のところ、男は小尊を逃げた女房の代わりと割り切り、一方の小尊も男を裏切った彼氏の代わりと思って、体を許し合っていたのかな?最初はそうだったんだろうけど、徐々お互いの距離は縮まり、男も小尊の存在を受け入れ始めるようになってゆく。ま、そうなりますわな。
日本時代に作られたという混浴?の共同浴場の湯に浸かりながら、全裸で両手を広げて立つ小尊を見つめる男。翌日には、髪を切り髭も剃ってしまう。彼自身が逃げた六花を忘れようと一歩を踏み出した瞬間なのかもしれない。野球チームのちびさんたちは、イメチェンしたコーチに一瞬戸惑うも、すぐに練習を始めていた。野球が普通に映画のワンシーンになるところが、香港映画、大陸映画との大きな違いだな。
こうして、無数の女性ものの服や隣人の登場と言葉などを丁寧に描きながら、二人の距離感を表現してゆく手法が、非常によかった。
そんなある日、姚安琪(エンジェル・ヤオ)演じる逃げた六花が戻って来る。その夜は川の字になって寝る三人…。
翌朝、連れてきたハリセンボンを手に、家を出て行く小尊。バス停でバスを待つ彼女を追うようにスーツケースを引きずった六花がやって来る。そして…。
新作ではないが、今回の中では非常に見ごたえのある作品で、心に残るものだった。総体的にバランスがよく、映像の編集も凝っていたし、半野喜弘の音楽も非常に物語にマッチしていた。いわゆるアート系作品の部類なのかもしれないが、それを感じさせない大衆性も感じ、台湾映画の奥深さを改めて認識した次第。
(令和2年11月22日 シネ・ヌーヴォ)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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