【上方芸能な日々 落語】吉坊ノ会 2020 Autumn

落語
吉坊ノ会

なななんと!小生、今年はじめての落語会である。落語の神さんに平謝りするしかない。いくらCOVID-19の感染拡大で、公演中止や延期が相次いだとは言え、寄席へ行かなくとも、ネットを介してでも様々な芸能をリアルタイムで鑑賞できる世の中、強い気持ちさえあればなんとでもなったであろうに。まことに、まことに相済まぬ次第である。

で、今年もあと2か月余りという時期に、ようやく今年最初の落語会『吉坊ノ会』へ馳せ参じることが叶った。ってわけで、いつもの近鉄アート館へ「Go To落語!」。

様々な分野で劇場公演が再開されてはいるが、チケットの売れ行き自体は概ね、芳しくないのがご時世である。本会も前日まで吉坊くん自ら「チケットあります」とSNS上で宣伝する。主催者でも演者でもないのに客入りが気になるところ。で、行ってみれば

後方のスタンド席は厳しい客入りではあったが、前方の平場の席はほぼ満席。逆に「え?こんなにギシギシに詰めてもよろしいんかえ?」と聞きたくなるほど。大声で笑うことは皆さん控えてらっしゃるとは言うものの、少々、気にはなるところだ。ま、そこは近鉄さん、感染予防対策万全ということなんで、身をゆだねることとして、久々の落語を堪能しましょか。

<ネタ帳>

笑福亭生寿 狸の鯉
桂吉坊三都勇劔傳 大丸屋騒動實記(前半)
~仲入り~
林家二楽紙切り」
桂吉坊三都勇劔傳 大丸屋騒動實記(後半)

囃子ほか浅野美希、桂慶治朗、月亭遊真、笑福亭呂翔

まずは開口一番、生寿くんからスタート。なかなか愛嬌のある口ぶり、表情に好感が持てる。この『狸の鯉』って、ネタは知ってたけど、こうしてナマの高座で聴くのは初めてかも。頃合いの良い前座噺かな。それとも彼が上手にまとめていたのか。どっちにしろ、さっそくどこかで使わせていただこう思った次第()。<どこで誰に向けてとかいうツッコミは無しでお願いしますww

お茶子の若いの。「うん?この子見覚えあるな」と思ってたら、笑福亭呂翔くんである。彼は子供の時から知ってるぞ。「彦八祭り」の地車囃子で踊ってた男子で、いつの間にかというよりも自然の成り行きで呂鶴師匠に入門してた。まだ、高座は見たことない。そのうちに。

さて、お待ちかねの吉坊くんである。今回の演目は『三都勇劔傳 大丸屋騒動實記』なるもの。おなじみの『大丸屋騒動』とはまた違うものらしい。きっちりやれば優に5時間はかかるであろうネタを約2時間にまとめ、とは言え大長講でやりましょう!と、チャレンジャーである。と言っても、これ、疫病禍の自粛時間を有効活用した吉坊の「創作」。そこは木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一主宰の協力も仰ぎながら、彼らしく芝居っ気も散りばめて、「好きなように、気ぃの済むように」やっていたという感じ。展開に関しては、まだ東京公演もこのあとにあるんで詳細は控えるが、マクラで「まあはっきり言いまして『で?』というお話ですw」と言ってた通りで()。途中で気づいたんだが、あまりも多すぎる登場人物を追っかけていたら、いつの間にか置いて行かれてしまう。そこで「あ、そうか!この噺は妖刀村正と護身の聖天像を主人公と割り切って聴くべきやな」と開き直ったら、すぐにオチのお時間と相成りました()

まあ、「聖天」と聞けば、阿倍野の「聖天坂」と生駒の聖天さんこと「宝山寺」くらいしか頭に浮かばない小生としては、吉坊の古文書の読み込みと、それをこうやってネタに仕上げてしまう創作力には、頭が上がらないわけで、「珍しいネタ聴かせてもろた」以上に、「すごい研究発表を聴かせてもろた」という両方があった。

そのすごさ、執念というか熱量というか。ロビーに掲出された「村正」「聖天」をめぐる「吉坊メモ」を見ればようわかる。

ゲストでお江戸より紙切りの林家二楽師匠ご来演。言わずと知れた二代目正楽師匠のご子息であり、小南師匠の弟さん。体を左右に揺すりながら、ボソボソと小ネタを挟んでいるうちに、見事な作品を仕上げる名人芸。客席からのお題は確か三題。「紅葉狩り」、「白雪姫」、「大丸」には刀をあしらって、吉坊のネタに華を持たせたかのように仕上げるのが快い。めっちゃ老練の職人さんのように見えるが、小生よりお若いってのがもうねえ。小生も前後左右に体を揺すりながら仕事しようかな()

というわけで、色々と賢くなったような気分にさせてもらった吉坊ノ会であった。COVID-19の感染は拡大する一方で大阪は連日、過去最高数の陽性者数を確認している今日この頃。まだまだ舞台芸術、劇場公演には厳しい状況が続くが、限られた条件の中でもなんとか「お楽しみ」を見つけてゆきたいものである。

(令和21110日 近鉄アート館)





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