【上方芸能な日々 文楽】真夏なのに忠臣蔵ですって…

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場35周年記念 夏休み文楽特別公演
通し狂言「仮名手本忠臣蔵」

五段目で運のいいのは猪(しし)ばかり

風雲急を告げる香港事情に関するネタが続き、こっち方面が疎かになっているが、ちゃんと観るべきものは観ているし、そこはやることやってます(笑)。

で、このクソ熱い時期に『仮名手本忠臣蔵』を見せられる客の不運ったらありゃしない(笑)。季節感真っ向無視の狂言建ては、「伝承」という国立劇場の使命を放棄したようなもので、暴挙としか言いようがない。でもまあ、好きなので行くわけだけど(笑)。

さすが「独参湯」。「あ、そろそろチケット買わなければ」と国立劇場予約サイトに行けば、なんと!お席全滅ではないか…。空席ゼロという状態。「こりゃもう、当日行って『幕見』か補助席争奪戦に参戦するしかないなぁ」と。見物前夜にダメ元で再びサイトを見てみると、これはラッキー、ちょうど1席だけ残っていたので迷わずGet! 中央ブロックのど真ん中で、浄瑠璃をしっかり聴きたい小生からすれば、カスを引き当ててしまった気分がしないでもないが、明日行ってみたら幕見も補助席も完売だったら泣くしかないので、ためらわずに買ったという次第。コンサートなんかでもそうだけど、SOLD OUTの時も、直前に確認すると、数席空きができていることがあるので、望みは最後まで捨てたらあかんっちゅうことですな。

今回の「忠臣蔵切り売り」は、午後2時開演の第2部 【名作劇場】での 五段目より七段目まで。まあ、一番面白いところですわな。特に「一力茶屋」はねぇ。

五段目

山崎街道出合いの段

小住、勝平

小住は「最近、ようまとまって来たなぁ」と思って聴いているのだが、その「まとまり感」を出し過ぎてしまうこともあるねぇと思うことも。今回がそれではなかったかな。そこを勝平が「そうじゃない」と引っ張っていたという感じがしたが、耳の肥えた人にはどう聴こえたかな。でもまあ、色々とやってみて、いつか「これや!」という自分に巡り合えたら、それでいいんじゃないかと思う。将来を期待されているだけに、辛辣な評価を受けることもあるだろうけど。

二つ玉の段

靖、錦糸 胡弓 燕二郎

冒頭の川柳は、この段のこと。勘平に撃たれるべき猪は逃れる。ここが勘平の不運というもので、斧定九郎に斬り殺されたおかるの父親・与市兵衛を撃ってしまったと勘違い…。最終的に勘平はその「勘違い」のため、切腹せざるを得なくなってしまうのだから、死体を見つけたら、死因をちゃんと確認せなあきませんなぁ、と毎回思うのである。勘平はもちろんのこと、斬られた与市兵衛、おかる、与市兵衛女房、撃たれた斧定九郎に至るまで、皆、不運である。ってことで、「運のいいのは猪(しし)ばかり」と相成る。

靖がよく聴かせてくれたのか、はたまた錦糸はんの三味線が冴えていたから、よく聴こえたのか、そこはなんとも言えないけど、燕二郎の胡弓も非常に効果的で、聴きごたえのある段だった。

六段目

身売りの段

咲、燕三

咲さん、晴れて人間国宝認定の舞台である。

嶋さん引退後、太夫にだけ人間国宝不在だったが、ようやくというところ。咲さんならもっと早くに認定されていても不思議じゃないんだが、ファンからしたら、えらい待たされたという感じ。まあ、色々順番とかあるんでしょうな…。

申すまでもなく、完成された浄瑠璃。咲さんが全体を支配して、人形の動きも自然と美しくなる。これは太夫がびしっと締めているからでしょうな。やっぱ、文楽の舞台は太夫次第ってことやな。

早野勘平腹切の段

呂勢、清治

圧巻の勘平切腹。しかし、先の判官切腹と言い、ここと言い、日本人は切腹シーンが好きだな。判官切腹に負けず劣らずの「水を打ったような」静寂が客席を包む。ご見物衆全員が固唾をのんで、その一部始終を見守る。そして切腹してから息が絶えるまでの長いのなんの(笑)。ま、そこはお芝居ですから(笑)。「一番面白いのは一力茶屋」と記したが、いやいや、呂勢と清治師匠で聴かされたら、この段が一番面白いと言うか、聴きごたえ観ごたえお腹一杯の段かもしれない、と認識を新たにした次第。

人形も和生はんのおかるの母親、すなわち与市兵衛女房、一輔のおかるは言うまでもなく、それぞれが前段に引き続き、その人間性をよく表現していて、人形が「生きて」いた。

七段目 

祇園一力茶屋の段

次々と入れ代わり立ち代わり、色々と出てきはる(笑)。おまけに上手にこのためだけのお座布が用意され、ここに坐した太夫は、床本無しで掛け合いする、という珍しい場面もある。そして相当エロい言葉も出てきて、昔の人も結構スケベやん!と楽しくなるシーンもある。で、最後は「水雑炊を食らわせい!」で、留飲下げて拍手喝采という、あれやこれやバラエティーに富んだ段。だから落語にパロディー版としての『七段目』が生まれるのもよくわかる。ま、落語の『七段目』で笑いたければ、文楽か歌舞伎で少なくとも1回は見ておくのがいいと思うけど(笑)。見たことなくても爆笑している器用な人もいるけどね(笑)。

由良助 
力弥 咲寿
十太郎 津國
喜多八 文字栄
弥五郎 芳穂
仲居 
おかる 津駒
仲居 
一力亭主 南都
伴内 
九太夫 三輪
平右衛門 
宗助  清丈

太夫は12人。初演以来、一人一役の掛け合いが継承されてきている。と言っても、メーンとなるのは、由良助、おかる、伴内、九太夫、平右衛門あたりだろう。そこは「なるほどね」という配置。一方で三味線は前と後で二人のみ。時に、「入れ事」が客席の笑いを誘うこともあるが、今回は(たまたま観た日がそうだっただけかもしれないが)無かったので、そこはちょいと残念だった。

仮設の床で本無しで語ったのは、藤太夫はん。少々、芝居が過ぎてるんじゃないかと感じるも、ここはこれでいいでしょう。床での平右衛門はしっかり聴かせてもらえたので、良しとしますか。

呂さんが由良助のこの段における多面体ぶりをしっかり聴かせてくれた。実は、少しウトウトしていたのだが、例の「エロトーク」でハッと目覚めた次第(笑)。正直者です、小生は(笑)。で、由良助を遣った勘十郎はんが、これまた出色で、由良助が一層際立つ舞台だった。一方のおかるは、蓑助師匠はおかるの出のシーンだけを遣う。ただ、このワンシーンだけでも、値打ちもので、なんとも言えない艶を感じた。その後を遣った一輔もまったく悪くはないのだが、最初に蓑助師匠のあれを見せられると、どうしてもね…。まあ、そこは仕方ないな。

で、締めの「水雑炊~」の下りで、ワーッと客席が湧いて幕と相成る。お次は11月まで待てということだ。う~ん…。

そういえば、番付(公演パンフ)の紙質変わった?特に表紙にツルっと感が出たような気がするけど…。

(令和元年7月27日=令和最初の小生の誕生日ww 日本橋国立文楽劇場)



 


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