やっぱりあれなんですかね? 前回、混乱する香港国際空港のデモのことを取り上げたら、急激にアクセス数伸びましたな。時期的に、香港旅行してる人や、これから行こうと思ってる人が見たのかな? と言って、大したアクセス数ではないねんけどな(笑)。
もう10日以上も前のハナシになるけど、やり出したからには最後までやっちゃいましょう、「暗黒の3日間」。もっとも、その後はもっともっと暗黒な出来事が続くわけだけど…。
デモ隊「先鋭化部隊」の新しい作戦「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」により、同時多発的に、あるいは時間差攻撃で、一般市民の後押しも受けて、「vs警察」の戦場は一気に香港各エリアに拡大。いまだにデモも集会も全く無縁なのは、我が町・香港仔(Aberdeen)を含む港島南區と新界の西貢(Sai Kung)くらいなもんで、元住民としては「香港仔大勝利!」と言うところだ。逃げ道が「海」しかない両地のこと、さすがにここで衝突というわけにもいかないだろう…。
三罷と不合作運動で大混乱に
8月5日月曜日は、ネット民を中心に「三罷」(罷工:ストライキ、罷市:開業せず、罷課:授業ボイコット)、すなわち「ゼネスト」が呼びかけられた。このような全港規模の「三罷」は6月12以来のことで、この時は「反送中」で初めての大規模警民衝突に発展したので、三罷自体は影が薄れてしまった。今回は「不合作運動(非協力運動)」との合わせ技で、社会を混乱させ、特区政府に「もう降参です」と言わせてやろうということらしい。
我々が思う「ストライキ」ってのは、仕事をボイコットして雇用主に圧力をかけるというものだが、中国人的発想では仕事をボイコットしたり、交通の妨害をして全社会に自分らの困窮を訴え、要求を実現させようという劇場型で、社会の混乱を気にするよりも、まずはパフォーマンスありきというものだ。こういう中国的な手法で打って出たのが、非常に興味深い。やはり「香港人も中国人」ということか。
まず早朝から混乱したのがMTR。「港鐵不合作運動(MTR非協力運動)」の発動により、利用客の乗降や列車の運行への妨害行為が多発し、ほとんどの路線がマヒ状態に陥る。
当然、早く職場に行きたい人と「未来の香港のため、今日の稼ぎは辛抱してもらえませんか」というデモ隊の間で小競り合いも起きる。いや~、そりゃ、今日の稼ぎを取るでしょ、君たち。理解を示す市民が多い一方で、恐らく同じ数かそれ以上の市民が不快感を抱いたことだろう。この日は、MTRのみならず、路線バスも「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」による各地の道路封鎖で大渋滞がおきたことから、混乱したし、航空関係従事者による「罷工」参画で、200便以上が欠航するなど、全港の交通機能がマヒしてしまった。抗議の手法として、一つのサンプルではあるが、市民の全幅の信頼を得るというものではなかった。
ちなみに、「港鐵不合作運動(MTR非協力運動)」を主導したネット民グループ「不合作地鐵資訊頻道」は後日、「港鐵不合作運動已經『壽終正寢』」と、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の「逃犯條例草案已壽終正寢=逃亡犯条例はすでに『ご臨終である(葬り去られた)』」をパクった表現で、グループの解散を発表している。社会に及ぼす影響の大きさを鑑みてのことのようだが、強硬派と穏健派の意見対立もあったようだ。
上記はこの日の主要な交通障害一覧。中でもMTRはひどく、観塘線、荃湾線、エアポートエクスプレスで全線不通となってしまう。これはもはや「災害」である。航空以外の多くは昼過ぎには回復するが、これは午後に展開された「暗黒の3日間」総括のような事態の始まりでもあった。
7地区で罷工集会、そして警民衝突へ
下記は午後、7地区で開催されたゼネストと非協力運動の集会「罷工大集会」の一覧である。
屯門以外、同時開催である。これはもう言うまでもなく、その後に想定される「警民衝突」において、警察側の勢力をできる限り分散させる作戦である。荃灣のみ申請はされていないが、「樹木を観賞しながら香港の前途を考える」集会が開催されている。申請があったその他の6地でOKしたということは、警察もその作戦を想定していたということで、双方とも「臨戦態勢」ばっちりというところか。
そして衝突は起きた。
【金鐘(Admiralty)/香港島】
集会参加者数千人が、主要幹線道路を不法占拠。警察は催涙弾、ゴム弾で強制排除を行う。もう6月以降、何度ここで警民衝突が起きたことか。立法会ビルや政府総合庁舎があるから仕方ないのかもしれないが、多くの観光客はこのエリアで買い物や食事を楽しみ、オフィスビルやホテルも多いエリアだけに、はっきり言って「大迷惑」なのである。
【旺角(Mong Kok)/九龍】
集会は麥花臣遊樂場(Macpherson Playground)で行われたが、デモ隊約300人が付近の道路を不法占拠。占拠エリアは拡大し、彌敦道(Nathan Road)や亞皆老街(Argyle Street)などの幹線道も不法占拠。一部は尖沙咀(Tsim Sha Tsui)に至り、午後7時半ごろ、尖沙咀警察署入口前で放火。ほかにも旺角警察署、深水埗(Sham Shui Po)警察署が投石や放火などの集中攻撃を受ける。午前零時ごろには彌敦道と亜皆老街の交差点で放火。尖沙咀フェリーターミナル前では五星紅旗がまたもや引きずりおろされ、海に投げ込まれた。警察はその都度、催涙弾で強制排除行動。また、九龍と香港を結ぶ海底トンネル「紅磡海底隧道=紅隧」を約1時間封鎖した。
【黄大仙(Wong Tai Shin)/九龍】
2日前に街坊=町の衆が蜂起し、その瞬間から「激戦区」と化した黄大仙では、黄大仙中心南館で集会が行われたが、午後3時ごろに数百人のデモ隊が幹線道の龍翔道(Lung Cheung Road)を占拠し、警官隊と対峙を開始。退去しなかったため、30分後から催涙弾による排除行動を開始した。デモ隊は午後5時ごろから黄大仙警察署及び「紀律部隊」宿舎に向け、レンガや火炎瓶を投げるなどの破壊行為を行う。警察は催涙弾やゴム弾でデモ隊を排除。
【大埔(Tai po)/新界】
集会後、数千人のデモ隊が主要幹線道路を不法占拠。大埔警察署への攻撃が午後9時ごろまで続く。警察は催涙弾で強制排除行動。大埔には、香港日本人学校の小学校(大埔校)とインター校があるので、意外と日本人家庭も多い。普段は、郊外の典型的なニュータウンで、穏やかな空気が流れる街という印象。小生の好きな「鉄路博物館」なんぞも楽しい。ここに住む友人に「大変ですなぁ」とメールしたところ、「ああ、なんかやってますなぁ」程度の返信だったので、安心したが、夏休みが終わって日本人学校の授業が始まると、ちょいとウザいね、衝突が続くと。どうかご安全に!
【天水圍(Tin Shui Wai)/新界】
公式に集会は開催されていないが、天水圍警察署前に午後1時半ごろから、前日に逮捕されたデモ隊に声援を送るデモ隊や街坊=町の衆が集まり、逮捕時にミニスカートの少女の下着が脱げたことに抗議する婦人団体「風雨蘭」も抗議活動を開始。デモ隊らは警官に物を投げるなどたことから警民衝突に発展し、警察は午後2時半ごろから催涙弾による排除行動を開始。天水圍もまた「普通の団地」。およそデモなどとはかけ離れた地と思っていたが、いまや主要な戦場になった。小生の好きな映画『天水圍的日與夜』(08年 日本未公開)では、その日常の「普通さ」を見ることができる。ホンマ、普通なのだ。
【沙田(Sha Tin)/新界】
警民衝突が発生し、血の惨劇が繰り広げられた沙田の新城市廣場(New Town Plaza)に市民やデモ隊が集結して集会が開かれる。その後、1000人を超える「先鋭化部隊」を中心としたデモ隊が多数の幹線道路を不法占拠し、沙田警察署へ投石や放火などを繰り返す。なお、沙田では警察は催涙弾は2発にとどめている。
【屯門(Tuen Mun)/新界】
約2千人のデモ隊が警察と衝突。午後5時ごろ、新界西地区の大動脈である無料の高速道、屯門公路(Tuen Mun Road)の出入り口をデモ隊が不法封鎖。6時半ごろに屯門警察署の入り口でデモ隊によって2度にわたり放火が行われ、午後10時半ごろに催涙弾などによるデモ隊全排除を完了した。
【荃灣(Tsuen Wan)/新界】
ネット民が呼びかけた荃灣公園における「賞花賞樹,思考香港前路=花や樹木を観賞しながら香港の前途を考える」の後、参加者らが楊屋道(Yeung Uk Road)など幹線道路や生活道路数か所を不法占拠。警察車両を包囲して「垃圾=ゴミ」「HK poo poo=香港のうんこ」などと落書きしたり破壊したりした上、警官に物を投げるなどの狼藉。警察は催涙弾で排除行動。
午後9時過ぎ、大河道(Tai Ho Road)一帯に「我愛香港」とプリントされた水色のTシャツを着た集団が出現し、黒い服を着たデモ隊を襲撃した。この集団は、黒社会というよりも、大陸系の親中市民団体と思われる。
【北角(North Point)/香港島】
集会は行われなかったが、銅鑼灣から向かってきたデモ隊に、約30人の棍棒などを持った集団が襲い掛かる。集団は、一暴れした後、「香港第一青年會義工團」が入居する雑居ビルに逃走。デモ隊が同所を襲撃し、ガラスなどを割る。その後、デモ隊を襲撃した集団は現れず。北角は、福建省出身者が多く、福建系の黒社会グループ「福建幇」や親中派の拠点でもある。
法輪功系列のメディア『大紀元』によれば、「香港第一青年會義工團」は南派少林拳の道場ということだが、系列的には親中派につながるという。恐らく今回の襲撃集団は、この道場と「福建幇」の混成チームではないかと、小生は見ている。ちなみに南派少林拳は、葉問(イップ・マン)や李小龍(ブルース・リー)によって世界的に有名となった「詠春拳」の源流。なるほど棍棒も上手く振り回せるというわけだ。また、香港の功夫道場の多くが、獅子舞を教えているが、上写真の襲撃犯のうち、手前のおっさんなどは、よく獅子舞の場にいて子供たちにアドバイスしているようなタイプだ。と、断定しちゃいけないけど…。
【深水埗(Sham Shui Po)/九龍】
この日の締めくくりは、深水埗である。15年ほど前、香港発の日本人向け旅行雑誌で「地図の向こうの香港」すなわち、ディープな場所を毎号執筆することになり、最初に選んだのがここ深水埗である。ガイドブックには「電機店街」のような書かれ方をしているが、実態は「ガラクタ」屋台が並ぶ街である。そしてこれ以上ない「下町」であり「場末」である。故に、街坊のパワーは香港のどこよりも強力だ。
夜の11時ごろから深夜まで、「先鋭化部隊」に加勢して、一歩も引かず警官隊と対峙する街坊の面々。家が近いから、警官隊が突撃してきたり、催涙弾発射の予告を出せば、一目散に自宅に駆け込んで一時退避。そんな攻防が繰り返され、思わず現地からのLIVEに見入っていたら、気が付けば日本時間で午前2時半。あきらめて床に就く。しばらくは深水埗の街坊が心配で、眠りに就けなかった…。
これらの警察署襲撃や衝突以外にも、觀塘(Kwun Tong)でも警察署襲撃があり、早朝から始まった「三罷」と合わせて、深夜まで香港各地で催涙弾がぶっ放される1日となってしまった。
「暗黒の3日間」はひとまず、幕を閉じたが、それ以降も暗黒の日々は続き、さらに暗黒度を増している。もはや、香港は香港でなくなってしまった…。
この事態に、いよいよ人民解放軍が制圧に乗り出すのでは、という憶測が飛び交っている。実際、本土のメディは再三再四、深圳に集結して暴動制圧の訓練を行う武装警察の映像を流している。ただし、先頭車両の前輪が境界を越えた時点で、いくら「絵に描いた餅」とは言え、堅守してきた「一国両制」は崩壊する。そこが中央にとっては非常に悩ましいところであるのは、言うまでもない。よって、解放軍や武警がやるべきことを、警察にやらせているというのが現状。ただし、警察の疲弊もピークに達しようとしている…。
一方でデモ隊側は、昨今の「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」で、その時に備えている。しかしながら、今は催涙弾やゴム弾で済んでいるが、武警はそうはいかない。それでも前線で戦うのか…。
誰に向かって言うのでもない。
「香港を返せ!」
長々御拝読、誠にありがとうございました(笑)。
<アイキャッチ写真:「定時出勤しなけりゃならない者のことも考えてくれないか?」と言う乗客(向こう向きの紺色シャツの人士)を取り囲んで、「1日くらい辛抱しろよ!香港の未来のためだぞ!」と「説教」する不合作運動の賛同者たち。この「空気」、やっぱヤバいね。(香港01)>
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。