小生が勝手に名付けた「暗黒の3日間」から1週間が経過したが、相も変わらずの香港である。こうしてPCを打ちながら、複数の香港メディアの「現地LIVE」を別画面とスマホで見ているのだが、「無茶苦茶でござりまするがな」というもんだ。この1週間だって、実に様々なことが起きたが、一つ一つブログに起こしていたんじゃ、あたしゃ、働く時間どころか、メシ食う時間も、寝る時間も、クソをこく時間も無くなる…、ってくらい、まあ、次から次と色々やってくれるのである。香港のみんな、体力あるねぇ~。特に警官隊の皆さんは、このクソ暑い時期にも、あの重装備で何時間も働くのだから、ほんと、ご苦労なことである。なんて、少しでも警察を労うと、今の香港、ボロカスにつるし上げられるんだから、怖い怖い。
さて、デモ隊「先鋭化部隊」の新機軸「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」が功を奏し、さらには街坊=町の衆や、行街=街ブラの市民も「先鋭化部隊」を後押しし、警察はそれに振り回され、押され気味というのが、昨今の展開。「暗黒の3日間」の二日目となった、8月5日は、「東西夾撃」として、東=新界・將軍澳(Tseung Kwan O)、西=香港島西環・堅尼地城(Kennedy Town)の2か所でデモや集会が開催され、將軍澳のデモ行進には呼びかけ人の伍偉衡氏の発表で15万人(警察推計2万7000人)が参加し、港島西の集会には主催者発表で2万人が集ったという盛況ぶり。デモ、集会の場所で、焼きそば屋台でもやろうかな…(笑)。
まず、午後2時半、將軍澳のデモ行進が始まる。將軍澳なんて、小生の中ではいまだに「ジャンク・ベイ」という鄙びた漁村で、中でも調景嶺(Tiu Keng Leng/Rennie’s Mill)は、国民党戦士の落人村として有名で、双十節になれば青天白日満地紅旗で埋め尽くされる村、という印象しかない場所だったが、いつの間にかニュータウン、企業団地として再開発され、とある日に『蘋果日報』などを印刷する工場を訪問した際には、まったく面貌を一新していたのには、驚いたもんだ。
毎度のことながら、警察から許可が出たデモは、実に平和的に進行する。そして何の騒動も起きず、きれいに終了する。が、そこから先はわからない。この日もやはり「先鋭化部隊」を中心に、將軍澳警署を包囲し、投石など暴力行為を展開するという定番の行動を開始。
デモ当初からずっと思っているのだが、こうした警察への破壊行為や暴力は、一体、何を生み出すのだろうか? と。今後も継続され、さらに過激度を増すと、やはり噂されているように、人民解放軍の投入が現実のものとなるかもしれない。それが無かったとしても、必ずや中央は、「あの時、デモなんかしなけりゃよかった」と思わせるような、「非道」な対応で彼ら彼女らを後悔と恐怖のどん底に陥れるだろう。心情的には、「港獨派」や「本土派」の考えには賛同する点が多いのだが、ことデモとなると、「お前ら、それはちょっと…」と思ってしまう。世界を飲み込もうとする巨大な力は、一瞬にして彼ら彼女らを握りつぶしてしまう。今、そこに導かれている気がしてならないのだ。
將軍澳では、警察と「先鋭化部隊」が対峙、衝突を繰り返し、深夜までその状態が継続されたが、いつまでも將軍澳の現地LIVEばかり見ているわけにはいかない。言うてるうちに西環の集会が始まる。そっちにLIVEを切り替える。
会場は、香港島の西の端、西環・堅尼地城の卑路乍灣公園(Belcher Bay Park)。90年代はまだここは海の上だったのだが、再開発で埋め立てが進み、あっという間に高層アパートメントや公園が出来上がった。近所に友人が住んでいたので、割とその一部始終を見ている。中央政府駐香港連絡弁公室=中聯弁までは徒歩数分という距離なので、集会後の中聯弁襲撃が予想されることから、早くから物々しい警備態勢。
「港島西大遊行籌委會(香港島西地区大型デモ実行委員会)」が主催した「港島西集會」は、午後5時過ぎから平和裏に始まり、平和裏に幕を下ろす。
「明日香港、我哋話事」は意訳すれば「明日の香港を語り合おう」ってなところだが、台湾でよく言われる「今日の香港は明日の台湾」に引っ掛けているのかな…?。*我哋の哋は複数形の意味
まあ、そういうことで、中学生からお年寄りまで、様々な人たちが自由に発言していたから、いいではないか。デモはこうあってほしいね。
が、すでにその後の「衝突」を想定しているのか、各団体やボランティアから年輕人(若者たち)に、「スナック菓子やクッキーで食いつないでいいては栄養不足になる」ということで「住家飯(おうちごはんセット)」が配布される。一見、「助け合う香港人、かっこエエ~!」という美談のように思えるが、いやいや、これはいけませんね、衝突を煽っているようなもんではないか?
言うてますうちに、スーツケースを携えた年輕人数名が到着。中にはヘルメット、ゴーグル、ガスマスクなど「武装用品」がびっしり。これは誰が手配しているのか? そもそもスナック菓子で食いつないでいる子らに、これを調達する資金などないだろう。誰がカネ出してるねん? 催涙弾などはあくまで「対症療法」だ。警察が本腰入れて彼らが「暴徒」と位置付ける一派を壊滅させるなら、この「資金源」を絶つことにも注力すべきだろう。でないと、衝突は一向に収まらないのではないか。
ぞろぞろと中聯弁を目指して移動を始めた集会参加者や「先鋭化部隊」で構成されたデモ隊は、道路を不法に占拠し、警官隊と対峙。午後7時過ぎに、警察は皇后大道西(Queens Rd W)で催涙弾発射。「黒旗」を出してわずか30秒ほどの早業で、取材中のメディアはガスマスクを装着する暇もない。また沿道の住民は、窓を閉める暇もない、ってことで大ブーイング。中聯弁があるおかげで、このあたりの住民は、毎週週末になると、催涙煙の立ち込める中で晩飯をとることになる。これはたまったもんじゃない。「先鋭化部隊」もそこはよく考えたまえ!
この日の、中聯弁付近での衝突は、これまでのような長期戦となることはなく、「先鋭化部隊」の大半が午後8時ごろには現場を去り、MTR香港大学駅から次なる戦場を目指した。目指すは、香港島・銅鑼灣(Causeway Bay)、九龍・黄大仙(Wong Tai Shin)、藍田(Lam Tin)、觀塘(Kwun Tong)、新界・天水圍(Tin Shui Wai)など、MTR路線上の各地である。
銅鑼灣にはすでに、「先遣部隊」が陣取り始めており、道路の不法封鎖や信号機の破壊などを開始していた。
銅鑼灣の「先鋭化部隊」の一部は、そごうに程近い、九龍と香港を結ぶ海底トンネル「紅磡海底隧道=紅隧」を前日に続いて、封鎖する。これも前日同様におよそ30分間の「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」。「先遣部隊」は「快閃半個鐘=フラッシュ30分」と叫んで、封鎖のための障害物を置いて去った。30分後、職員が障害物を取り除き、トンネルは開通。
銅鑼灣では大きな衝突は起きなかったが、対峙は続き、午後9時半ごろ、警察は催涙弾を発射。LIVEで見ていたが、結構な数の催涙弾が放たれた。翌日の香港各紙によれば「1分間で20発」と言うから、実にクレージーだ。この辺は、奉公先から徒歩圏内だったので、昼夜問わず歩きなれた場所。15年間の生活で、ほとんど毎日うろついていたエリアだけに、その場所がかくも凄まじき催涙弾の嵐で煙にまみれている光景を見るのは、つらいものがあった。
そして最後は最近の得意技、火遁の術でお次へ「ドロン」する。「先鋭化部隊」はMTRを利用して、黄大仙(Wong Tai Shin)、將軍澳(Tseung Kwan O)、觀塘(Kwun Tong)など沿線各地を目指した。
黄大仙では、前夜に襲撃の標的とされた「紀律部隊」宿舎の住民が、デモ隊と衝突した。そりゃそうだ。警察以外の住民、たとえば消防士や税関職員などにとっては、とんだとばっちりだ。「ええぞ、ええぞ、もっとやっつけろ!」と紀律部隊に声援を送りながら、LIVEを眺めていた(笑)。
前夜「一斉蜂起」した街坊=町の衆もデモ隊に加勢して、警察署や紀律部隊宿舎を包囲し、激しい罵声を浴びせる。ここへきて、急激に街坊がデモ隊「先鋭化部隊」と並ぶ「反警察勢力」として台頭してきた。これから警察は、「先鋭化部隊」と同様に、街坊にも手を焼くことになるだろう。
ま、各地の警察署を取り囲んだところで、何がどうなるというわけでもないのだが、こういうのは、まさに「空気」だなと、6月からこの方、一連の騒動を現地LIVEを見るたびに感じている。いままさに「反特区政府」「反警察」「反北京政府」という空気が香港を覆っているわけで、だれがどのような方法で、この空気の入れ替えをするのだろうか。「冷房をギンギンにして空気を動かさないと体に悪い」と香港人は言う。そろそろ、空気を入れ替えないと、体に悪いよ…。
「普通の団地」だった黄大仙が、二晩連続で催涙弾の飛ぶ「危険地帯」になろうとはねぇ…。えらい時代に突入したもんだ。そしてこの空気の恐ろしさよ…。
ほぼ同時進行で、觀塘(Kwun Tong)でも警察署を「先遣部隊」や街坊が包囲し、投石や警察への罵倒を繰り返した。デモ隊の中には「今晚快閃呀=今夜はフラッシュモブだ」、「唔好留呀=決して留まるな!」と叫ぶ者もおり、すでに「快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦」がデモ隊のみならず、市民の間にも浸透していることがわかる。
また、午後のデモ以降、將軍澳でも騒ぎが一向に収まらない。「先鋭化部隊」は道路を不法占拠し、警察との対峙を繰り返す。
午後11時22分、香港特区政府は譴責声明を発表。「昨日の暴力事件に引き続き、今日もまた劣悪な暴力と違法デモが拡散し続けており、香港を極めて危険な状況に追いやっている」と述べ、「一刻も早く社会秩序を回復させるため、暴力に『ノー』と言うように」と、市民に呼びかけたが、今時、政府の言うことを「はい、わかりました」と聞き入れる香港市民など、ガチの親中派以外にはおるわけがなく、まったく効果はない。ただ政府としても、到底、黙認するわけにはいかないので、譴責声明も出すし、警察は徹底的に取り締まる。まったく「終わり」がないのだ。
結局、この夜は、美孚(Mei Fu)や天水圍でも衝突が発生し、催涙弾などで強制排除という顛末となった。一つひとつ記して、写真も掲載すべきかもしれないが、はっきり言って、もうしんどい…。
すべてが完結したのは翌朝午前4時を過ぎてのことだった。後日、警察が発表したところでは、この日1日だけで催涙弾が800発発射された。最初に催涙弾が使用された6月9日からの総数1000発の80%にあたるから、凄まじい。また8月4日の逮捕者は、13歳から63歳の148人で、男・95人、女53人。容疑は、不法集会、警察署襲撃、警官への暴行、公務執行妨害、攻撃性武器の所持となっている。このほか、催涙弾以外に、海綿弾20発、ゴム弾120発も使用された。
「暗黒の3日間」の二日目は、こうして幕を閉じたのだが、翌日は、さらにさらに、暗黒な1日となった…。
<アイキャッチ写真:いつもデモ隊と行動を共にし、英国旗を振るおばあさん。ヘルメット、ゴーグル、ガスマスクで先鋭化部隊と行動することも多いが、運悪く、8月11日夜、MTR太古(Tai koo)駅での大捕物でお縄になった模様(明報)>
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。