人形浄瑠璃文楽
第35回文楽鑑賞教室
ショックだ。
数日前にアップしたこの稿が、消滅していた…。寝込んでしまいそうだ…。
恐らく、何かのタイミングで間違って消去してしまったんだと思う。昨日、ごみ箱整理した時に、よく確認しておくべきだった…。そんな自分にもショックを受けている…。情けない…。
ってわけで、改めてアップした。小生の特技に、一度書いたことはほとんど覚えているというのがあって、それほど苦労して2回目をアップしたわけではないが、それでも100%合致させるのは不可能。手書きなら、もっとよく覚えていたはずだが、PCではこれが精いっぱいだ…。という次第で、2回目行きまーす!
恒例の文楽鑑賞教室も、今回が35回目だという。何か「35回記念」的なことでもあるのかと思ったら、何もなかった(笑)。
鑑賞教室は、前半・後半、午前の部・午後の部で4つのグループ分けがされ、それぞれ出演者が配置されているのだが、うまいことバラしているから、どのチームも捨てがたい。それこそ時間と財力に余裕があれば、全部観ればいいのだが、一般市民はそういうわけにはいかない。時間はあってももう一つの条件が、ねぇ(笑)。で、「だれそれ太夫を聴きたい」やら「あの人の遣うあの主人公の人形を観たい」とかで、多くの方は鑑賞日時をお選びになるんだろうが、小生はそれで選ばず、「解説 文楽にようこそ」をだれがやるのか、で選ぶ。
普段、ほとんどおしゃべりを聞くことのない芸人たちの、「素の表情」を見ることができるのが楽しい。「お、こいつ、結構笑わせるやん」とか、意外な一面を見ることができる。今回は「靖、友之助、玉誉」が「午後の部」で解説する日を選んだ。え?なんで午後かって? そりゃ、昼までゆっくり寝たいからに決まってるでしょ!
二人三番叟(ににんさんばそう)
新春公演や襲名披露のあるときなんぞにかかる『寿式三番叟』のショートバージョン。ちょいと見どころをコンパクトに仕上げました~、みたいな感じで。だから「とうとうたらり~」の部分もない。あそこ好きやねんけど(笑)。
三番叟:芳穂、小住 ツレ:碩
團吾、清丈、清公、燕二郎
もう、芳穂はここらでやるような太夫ではない。元々、実力あるので気づかないが、ここ数年ですごく成長した一人だと思う。その点、小住は頑張ってはいるが、まだまだそこまでには至ってない。碩は堂々としたもんだが、まだ声が若い。もっともっと語りこんで、浄瑠璃の声づくりをしてほしい。
人形の三番叟は玉勢と蓑太郎。蓑太郎は「子供の人形」とイメージが強いので、こういたう配役は珍しく感じる。「そない言いはるほど、子供ばっかりちゃいますよ」と言われるかもしれないが、印象とはそういうもんで、これはやっぱり蓑太郎には不幸なことなのかもしれない…。
解説 文楽へようこそ
きっちりかっきりの靖、ユーモアたっぷりの友之助、生真面目&シャイな玉誉と三者三様の解説にほくそ笑む小生だが、文楽に通って、かれこれ40年になるので、今さら解説を聞いたところで何の驚きも感動もないってのが、正直なところ。靖と友之助のおしゃべりを聞きたかっただけでして(笑)。
ただ、このコーナー、はっきり言ってまったくおもろない。まあ「教室」と公演名で謳っているからには、やらなあかんのやろけど。
いやねぇ、別に笑わせてくれって言うのやないねん。なんかもっと、仕掛けが欲しいんだよ。そういう意味では、数年前から舞台背面にスクリーン出して、色々な角度から「実況」するようになったのは大きな前進。が、そこから次の進歩がない…。
いっそのこと、友之助に毎回MCと三業解説全部やらせるほうが、よっぽど楽しいと思うけどなぁ…。彼も忙しい思うけど。実際、友之助はおもろいよ、もっとしゃべらせる機会を与えるべきやな。うん、そうしなさい。
靖太夫から次の『絵本太功記』の解説があったけど、パンフにマンガであらすじが載っているのはいいな。ああいうのを、本公演でもどんどんやればいいのに…。
休憩時間。5月をもって1階のレストラン「文楽茶寮」と「お茶席」、2階ロビーの売店が営業終了ってことで、不便この上なし。この3店、劇場近くのお茶問屋さんがやってはった。昔、ここの若旦那(社長さん)に、仕事上でお願いごとしたことがあって、その時にちらっと聞いたのだが「劇場側から『あんたとこでやってくれへんか』と誘われたんで」ということだった。今回の閉店が、契約上のことか営業上のことかよくわからんけど、ここはひとまず、若旦那には「御苦労はんでした」と言いたい。
その上で、劇場にはとにかく早急に新しい店の誘致を願いたい。飲食施設がないってのは、大阪を代表する劇場として名折れでっせ。さらに言うなら、飲み物の自販機のデカいのんくらいは、すぐに置きなはれ! 喉乾いてしゃーないちゅうねん!(「文楽せんべい」の前に自販機あるけど、わからへんちゅーねん、奥すぎて!)
絵本太功記(えほんたいこうき)
太功記→太閤記
武智光秀→明智光秀
尾田春長→織田信長
真柴久吉→羽柴秀吉
加藤正清→加藤清正 etc
「この物語はフィクションです。実在の人物、歴史上の人物とは何ら関係ありません」と言い訳できるよう、この時代の劇作品は名前や時代をぼかして、設定しているのだが、初演から250年以上経過した現在でさえ、誰の何の物語か一目瞭然である(笑)。
冒頭で「35回目なのに何もない」と言ったが、あえて言うならこの『絵本太功記』がそれにあたるか。そりゃもう、ポスターにでかでかと これぞ、名作! と書くくらいだからねぇ(笑)。その投げやり感ったらありゃしない。国立劇場、一事が万事、この調子だ。
『絵本太功記』が、名作であるのは紛れもない事実だが、一見さんはそんなこと思ってない。名作と言うのなら、「これこれの理由で、見逃したら損ですよ!」くらい説明しないと、広告コピーとしてまったく意味をなさない。せっかくの「布教」の場だ。一見さんや鑑賞歴の浅い人たちを呼び込む場だ。これで、客が来ると思ってるのか? 思ってるからそうしたんだろうけど、ひきつけるものをまったく感じない。
「夕顔棚の段」
希、寛太郎
「うめだ文楽」でおなじみのコンビ。1回目の「うめだ文楽」では、希は寛太郎に引っ張り回されて、青息吐息だったけど、今日はそれほどのことはなかった。希が腕を上げたのか、寛太郎が包み込む技も身に着けてきたのか。まあ、その両方だとしておこう。
「尼ヶ崎の段」
通称「太十」。『絵本太功記』の十段目にあたるから、こう呼ばれる人気の場面。一番の見せどころ、聞かせどころだ。その一番いいところは、千歳、富助で。
前:睦、勝平
襲名が芸を大きくするというのを実証している勝平。いい感じで弾いていた。もっともっと高みを目指せる人だけに、この先も大いに期待できる。睦も、こういうところは上手いこと語る。でも、それだけでは太夫は勤まらない。ユーティリティプレーヤーを目指せとは言わないまでも、それくらいの気持ちではいてほしい。
後:千歳、富助
こちらは盤石のコンビ。千歳はんも、終盤のハスキーボイスもなく、終始調子よく聴かせていた。いつもこの調子で頼みますよ!
さつき(蓑二郎)、操(一輔)、初菊(蓑紫郎)の女性3人を、それぞれがよく遣っていた。3人のキャリアと配役のマッチングがうまくいったというところ。久吉(玉男)、光秀(玉志)、十次郎(文哉)も、そつなくやってたが、この日は女性に軍配を上げたい。
「ここでお前をやっつけてしまうのは簡単だが、それでは後世まで卑怯者呼ばわりされちゃうから、今日は勝負お預けにしておこう。決戦は天王山で!」と久吉が言って、いよいよ山崎の合戦へ事態が動き出す、というところで終わるのだが、この流れは、文楽、歌舞伎でよくあるパターン。ほんと、多いよな、これ。
さて、この鑑賞教室が終われば、間髪入れずに「若手会」となる。ここでも「太十」がかかる。希・友之助、靖・寛太郎、楽しみだ。
(平成30年6月9日 日本橋国立文楽劇場)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。