【六四29周年】六四30年を前にして香港は…

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天安門事件29周年
香港の六四抗議活動の今

この時期になると、小生としては、避けて通れないのが「六四」すなわち、1989年6月4日の天安門広場近辺で起きた一連の出来事である。以前から何度となく記してきたが、そもそも小生が香港住まいを始めたきっかけの一つが、「香港から天安門を眺む」である。と言いながら、実際はそれほど眺めていたわけでもないのだが(笑)。まあ、とりあえずは、この時期のデモやら集会を見物して回ろう、って程度だった。

ただ、それだけでも、現場におればこその多くの情報が入ってくる。さらに言えば、関連したテレビ番組や、雑誌・新聞の特集記事、当日の報道なんかも漁ってみたくなるのが、人情ってもんで、自ずと情報量は増えてゆく。

今年も六四追悼集会の季節に

で、29回目の6月4日となった。毎年、このころから7月1日の返還記念日まで、香港の「政治の季節」は最盛期となる。それこそ、「デモと、怒号飛び交う都市」になってしまう。

4日夜、例年通りビクトリアパークでは犠牲者を追悼する集会が「香港市民支援愛國民主運動聯合會(通称・支連会)」主催で開催された。主催者発表で11万5千人(前年比5千人増)、警察発表では前年から微減の1万7千人が参集した。参加者数のこの開きについては、カウントした組織の立ち位置によるから、こういうのは現場で自分の目で確かめるしかない。1995年から2009年まで、この集会を現地で見てきた小生からすれば、「どちらの発表も多すぎる」というのが、正直なところだ。

先日、甲子園でホークスvsタイガースを観戦したが、公式入場者数はおよそ4万1千人だった。あの大観衆を見た後で、主催者が10何万人と声高に叫んだところで、何の説得力もない。ま、数えようもないけどな、チケット発売しているわけでもないから(笑)。

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六四活動の様々なスローガンが並ぶ、追悼会場。いずれのスローガンも、今の香港にとっては「どうでもいい」ことばかりと見えてしまうのは、ここでろうそくを掲げる人達とて、同じことだと思うのだが…。

ちなみに下のグラフは、天安門事件の翌年1990年からの参加人数である。記憶も生々しい90年でさえ15万人。返還直前の97年で5万5千人だ。あの時は「今年はさすがに目茶苦茶多いね~」と、現場に居合わせた顔見知りの地元紙記者たちと驚いていたもんだ。これが2009年にいきなり20万人となる。09年以降は10万人台をキープしているが、小生自身は、やっぱり97年が最高だったと思っている。「六四追悼集会」の参加者数ほど、謎に満ちた数字はないな(笑)。

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その09年に、「何かあったかな?」と、当時のブログをたどってみたら…。

09年の六四を取り上げた拙ブログは、上記のような雑感を記していた。ふふーん、なるほどね。会場のビクトリアパークには15万人がいて、さらに公園に入れなかった人が5万人いて、合計で20万ってことか。で、なんでこんなに集まったのか、まだ香港在住中だった小生が、鋭く背景を分析しているのには驚きだ。賢かったんだな、当時の小生は(笑)。そこはやはり、「現場百回」というやつだ。最初の方で記したように、「現場におればこその多くの情報が入ってくる」ということだ。

低調な六四抗議デモ

事のついでに話しておくと、例年、この追悼集会に先だって、前週の日曜日には抗議デモが行われる。それこそ、事件の年や翌年には数十万規模のデモだったわけだが、次第に人数は減ってゆき、今年は主催者発表で1,100人、警察発表で600人という規模にまで縮小した。折からの記録的な酷暑など、天候に左右されてしまったためと言えないでもないが、時期的に暑いのは覚悟の前、これは理由にならない。デモの日はカメラ小僧に徹していた小生は、あまりの暑さに、上半身裸でデモに随行したことも少なくはない。余談ながら、帰国してからは一度も上半身裸で外出したこことはない、家庭内裸族なのに…(笑)。

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下のグラフは、この10年のデモ参加者数推移だ。ははーん、やっぱり09年が抜きん出ているねぇ…。

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ここまで減った原因については、色々と考えられるが、主催者や西側メディアなどはそろって「中央の影響」と口をそろえる。2014年の「雨傘」以降、目に見えて民主活動への弾圧が激化しているわけだが、銅鑼湾書店事件や、港獨派、本土派、自決派議員に対する議員資格の剥奪、港獨派など過激分子の拘束や禁固刑罰など、中央も特区政府も「反建制派」の排除に並々ならぬ意欲を示しているという昨今の政治的背景からすると、「デモに行ったところで、何も変わらない」という無力感の表れかもしれない。

支連会と世間のズレに29年の歳月を感じる

一方で、民主活動の主体が、「雨傘」を見てもわかる通り、「六四を知らない世代」に移行したことも見逃せない。海外メディアは「中国をディスる」のに躍起だが、実は、この「世代交代」の影響は大きい。

実際、多くの学生組織は、一連の「六四活動」への積極参与を見送ったり、拒否したりして、当日は独自の活動を行っている。

そうなった経緯は、これまで何度か記してきたが、スローガンである「建設民主中国」への反発である。要するに、「中国の民主化よりも香港の民主化が優先だろ!」という、香港人ならごく当たり前の考え方の拡大、浸透。香港大學學生会会長の黄程鋒は「民主中国の建設は我々の責任ではない」と言い、香港中文大學學生会副会長の陳偉霖は「我々世代に事件追悼の感情はない」と不参加の理由を説明している。そりゃそうだ。自分らの民主化が一向に動かない中で、何の苦しみで中国の民主化を支援せねばならないのだ。この気持ちは十分理解できる。

姿勢を崩さない支連会と、移り変わりゆく世間、とりわけ中国と聞いただけであからさまに嫌悪する若い世代の間に、いつの間にか大きなズレが生じていた。29年という歳月の重さを感じずにはおれない。

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学内で独自の「六四追悼」を行う香港大学学生会

以前、雨傘関連のアップで記したことが何度かあるが、雨傘は中央への強い意思表示であったとともに、支連会も含めた従来の民主派への反発でもあったわけで、その流れでいけば、学生たち若者世代の「六四」への冷めた目線というのは、自然の流れと言えるだろう。

不満をぶちまける場と化す六四

また、2000年ごろから、やけに目立ってきたなぁと思っていたのが、「現状への不満をぶちまける」という、およそ「六四」とはかけ離れたメッセージを発信する参加者の急増である。実に多種多様な不満が並ぶ。「完全普通選挙の実現」は言うに及ばず、教育制度、金融政策、経済対策、生活保護問題、環境問題、民族差別、外国人家政婦最低賃金問題、学校のいじめ、同性愛差別……。世の中にあふれる不平不満を訴える場に変貌していていっているという現実。「六四の虐殺行為は許せない。が、それはそれとして、今、目の前にある問題を何とかしないことには…」というのは、おそらく世間一般の普通の態度だろう。要するに「中国の民主化に声を上げるほどの余裕はない」のが実情だ。

六四の活動をリードしてきた支連会主席の何俊仁(アルバート・ホー)は、デモの出発前に改めて参加者に呼びかけた。「中国の民主化を実現するためには、一党独裁の終結が必要だ。支連会は引き続きスローガンを叫ぶ!」と。ちなみにこのおっさん、1996年に尖閣問題で香港に反日・抗日の嵐が吹き荒れた折、日本国総領事館に押しかけて、1時間近く占拠したという筋金入りの反日人士でもある。おっさん以外にも、多くの民主派人士は根底に根強い反日意識を持っているのは、過去の反日デモなどで、目の当たりにしている。そんな連中が「民主化!」とか叫ぶ様は、滑稽そのものだ。

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5月27日のデモ当日、「6月4日の追悼集会には、多くの若者が集まってくれると信じている」の記者団に述べる支連会の何俊仁(アルバート・ホー)主席だが…  by “RTHK”

全国人民代表大会(全人代)常務委員で、立法会最大会派の民建連(親中派)主席にして立法会議員の譚耀宗は、「『一党独裁の終結』を叫んでいると選挙への出馬資格が得られない」と指摘している。この発言を受けて、中央人民政府駐香港特區聯絡辨公室(中連弁)法律部部長の王振民はデモ当日、記者団から「『一党独裁の終結』は違憲か」と問われ、「これらは古い問題だ」答えた。「古い問題」か…。確かにな…。

いやはや。「反日人士と親中人士の戦いかよ、香港の六四は」と、苦笑してしまうような図式である。

数字で見る今年の六四

さて、六四の度に引用しているのが「香港大學民意研究計劃」の世論調査。香港唯一と言っていい「バイアスのかかっていない世論調査機関」である。「六四」直前の5月29日に発表された調査結果は、およそ次のようなものである。

調査期間:5月21~25日 対象:1,009人
①平反六四=天安門事件の再評価について
支持する 54%(前年比▲1ポイント)
支持しない 24%(前年比▲3ポイント)
②当時の北京の学生の行動
正しい 50%(前年比+4ポイント)
間違っていた 17%(前年比▲5ポイント)
③中国の民主化推進に対し香港市民は
責任がある 56%(前年比▲2ポイント)
責任はない 31%(前年比+1ポイント)*1993年の調査開始以降最高
④支連会への評価
総合評価 47%(前年比▲1.7ポイント)
解散すべき 21%(前年比▲3ポイント)
継続すべき 45%(前年比▲3ポイント)

毎年、微妙に数字が変動しているが、「中国の民主化に対する香港市民の責任」については、まだ半数以上の人が「責任あり」と答えている一方で、「責任なし」との回答が過去最高の3割超えとなった。10年前の08年の同調査では、「責任あり」が76%、「責任なし」が14%だったのだから、えらい変わりようだ。

「事件は批判するが、中国の民主化に関しては、香港人には関係ない」という風潮が、今後もますます強まってゆくんじゃないかと思われる。さて、10年後にはどんな結果となって「いるのやら…。

それにしても、支連会はしぶといねぇ(苦笑)。

以上、感じたままに今年の「六四」を綴ってみた。かなり支離滅裂、不完全燃焼ではあったが。仕方ないねぇ、現場で見てないわけだから…。久々にデモや追悼集会に行きたいもんだ。あれほど「インスタ映え」する場はないからねぇ、って、そこかい!(笑)



 


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