香港の主権が英国から中華人民共和国に移交されて20年が経過した。「回帰祖国20周年」ということで、習近平国家主席が就任後、初めて香港を訪れ、7月1日には林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の就任宣誓や各記念式典に立ち会った。
主権移交20年に関しては、もうちょっと現地の報道や評論を眺めて、まとめてゆくとして、今回はその「眺め作業」の中で興味深い記事を拾ったのでそれに関して記しておきたい。英字紙『South China Morning Post』が「1997年以降の香港映画ベスト50」を選出している。いかにも『SCMP』が選びそうな作品もあれば、意外な選出作品もあり、非常に興味深い。詳しくは、
をご参照に(英文記事)。『SCMP』が1位に選んだのが『花様年華(邦・同じ)』であった。監督・王家偉(ウォン・カーワイ)、主演・梁朝偉(トニー・レオン)、張曼玉(マギー・チャン)。『阿飛正傳(邦・欲望の翼)』の続編とされているが、小生には継続性はあまり感じられなかったし、やっぱり王家偉の映画はようわからん(笑)。
で、この際だから小生も97年以降の香港映画ベスト30を選んでみた。ベスト50ほども記憶に残る作品はないが、ベスト25ではちょっと納まらなかったので、30で(笑)。当然、独断と偏見に満ち溢れたベスト30である。ま、興味があればおつきあいを。こんな「返還20年」の振り返り方もあるってことで、よろしくひとつ。
30.『見習黑玫瑰』(ツインローズ=劇場未公開、DVDのみ)2004年
監督:甄子丹(ドニー・イェン)、黃真真(バーバラ・ウォン)
主な出演:鄭伊健(イーキン・チェン)、毛舜筠(テレサ・モウ)、蔡卓妍(シャーリン・チョイ)、鍾欣桐(ジリアン・チョン)、甄子菁(クリス・イェン)
<コメント>2001年、彗星のごとく現れた女性アイドルユニット、ツインズ主演による04年旧正月娯楽大作。このころはツインズ絶頂期で、世の男子諸君は「阿Sa」派と「阿嬌」派に二分されていた。『92黑玫瑰對黑玫瑰(邦・黒薔薇VS黒薔薇)』や『玫瑰玫瑰我愛你(邦・黒薔薇VS黒薔薇II)』同様、1960年代の怪盗「黒薔薇」シリーズからの派生。先の2作品を観ていればなお面白いかと言えば、そうでもないのが香港らしい(笑)。
29.『初戀無限Touch』(初恋無限=劇場未公開、CS放送のみ)1997年
監督:馬偉豪(ジョー・マ)
主な出演:陳曉東(ダニエル・チャン)、梁詠琪(ジジ・リョン)、方德倫(スティーブ・フォン)、許冠英(リッキー・ホイ)、楊德昌(エドワード・ヤン)
<コメント>まだまだアイドルが後光を放っていた時代の、青春ラブロマンス。『Mr.BOO!』のホイ3兄弟の一人、故・許冠英、台湾ニューシネマの旗手の故・楊德昌の出演も貴重。ただ、楊德昌の出演シーンが思い出せない…(笑)。
28.『瘦身男女』(ダイエット・ラブ=劇場未公開、DVDのみ)2001年
監督:杜琪峰(ジョニー・トー)、韋家輝(ワイ・カーファイ)
主な出演:劉徳華(アンディ・ラウ)、鄭秀文(サミー・チェン)、林雪(ラム・シュー)
<コメント>全編横浜で撮影。300ポンドの夫と260ポンドの妻の涙ぐましいダイエット物語。永遠のアイドル劉徳華と人気女優の鄭秀文がおデブの特殊メイクで出演して話題を呼ぶ。
27.『97家有囍事』(ラッキー・ファミリー=劇場未公開、DVDのみ)1997年
監督:張堅庭(アルフレッド・チョン)
主な出演:周星馳(チャウ・シンチー)、黃百鳴(レイモンド・ウォン)、吳鎮宇(フランシス・ン)、鍾麗緹(クリスティー・チョン)、張國榮(レスリー・チャン)
<コメント>旧正月お馴染みの、オールスター総出演コメディ。92年の『家有囍事(邦・ラッキー・ブラザー)』の続編でもありパロディでもあり…。最近の旧正月は、この手のコメディ映画がほとんどなくなって寂しい限り。ゲスト出演の張國榮はさすがの存在感。
26.『點對點』(点対点=2015大阪アジアン映画祭で上映)2014年
監督:黃浩然(アモス・ウィー)
主な出演:陳豪(チャン・ホウ)、蒙亭宜(モン・ティンイー)、林子聰(ラム・ジーチョン)、邵音音(スーザン・ショウ)
<コメント>「集體回憶=集団の記憶」をテーマにした作品。黃浩然の監督第一作目で、香港藝術發展局の援助のもと制作された。「香港大丸」や「茘園」など70年代~90年代の懐かしい、あまりにも懐かしすぎる光景を見事に現在の香港とオーバーラップさせて、推理ゲーム感覚で物語が進んでゆく。
25.『父子』(父子=2007年東京国際映画祭で上映)2006年
監督:譚家明(パトリック・タム)
主な出演:郭富城(アーロン・クォック)、楊采妮(チャーリー・ヤン)、林熙蕾(ケリー・リン)、許茹芸(ヴァレン・スー)
<コメント>ギャンブルで堕落した父親に人生を翻弄される息子を通して、父と子という普遍的なテーマを描く。郭富城は二役で登場。第26回香港電影金像奨で11部門ノミネート、5部門で受賞と圧倒的な支持を得た名作。
24.『古惑仔情義篇之洪興十三妹』(ポートランド・ストリート・ブルース=1999年東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)1998年
監督:葉偉民(イップ・ワイマン)
主な出演:吳君如(サンドラ・ン)、楊恭如(クリスティ・ヤン)、方中信(アレックス・フォン)、舒淇(スー・チー)、吳孟達(ン・マンタ)、吳鎮宇(フランシス・ン)、鄭伊健(イーキン・チェン)
<コメント>大ヒットシリーズ『古惑仔』の女版。『古惑仔』でおなじみの組織「洪興会」で唯一の女性幹部、十三妹をめぐる黒社会に生きる女性たちを描く。終盤にいきなり『古惑仔』の主人公、陳浩南(演・鄭伊健)が登場、客席はサプライズにやんやの歓声だったのが強く印象に残る。
23.『香港仔』(アバディーン=2015大阪アジアン映画祭で上映)2014年
監督: 彭浩翔(パン・ホーチョン)
主な出演:古天樂(ルイス・クー)、曾志偉(エリック・ツァン)、楊千嬅(ミリアム・ヨン)、梁詠琪(ジジ・リョン)、吳孟達(ン・マンタ)、吳家麗(キャリー・ン)
<コメント>小生が住み続けた香港島南部の漁港、香港仔(Aberdeen)が題名なので、思い入れがある。作品のテーマは香港の道路標識でよく見る「所有目的地」。「この道(このレーン)はすべての目的地に通ずる」という意味。主人公一家、あるいは香港に住む人すべてのテーマである。
22.『王家欣』(王家欣 ウォン・カーヤン=2016大阪アジアン映画祭で上映)2014年
監督:劉偉恒(ベニー・ラウ)
主な出演:黄又南(ウォン・ヤウナム)、吳千語(カリーナ・ン)、梁詠琪(ジジ・リョン)、李克勤(ハッケン・リー)
<コメント>ネットや携帯のないシンプルな時代、1990年代の恋愛物語。坪洲の島の光景が、映画のストーリーともよくかみ合い、90年代に青春時代を過ごした世代の心を揺さぶる。あのころの香港を思い出し、ホロっと泣けてくる作品。
21.『算死草』(ハッスル・キング=劇場未公開、DVDのみ)1997年
監督:馬偉豪(ジョー・マ)
主な出演:周星馳(チャウ・シンチー)、葛民輝(エリック・コッ)、莫文蔚(カレン・モク)、邱淑貞(チンミー・ヤウ)
<コメント>返還の年の夏休み娯楽大作。そんな年に清朝末期の貿易港として台頭し始めた香港が舞台、という狙ったような時代設定。周星馳と葛民輝の2大コメディ・スターが主役だが、莫文蔚の存在感も大きい。コメディ映画ながら、何気にファッションセンスの良さが印象的だった。
20.『十萬火急』(ファイヤーライン=劇場未公開、WOWOWで放送のみ)1997年
監督:杜琪峰(ジョニー・トー)
主な出演:劉青雲(ラウ・チンワン)、方中信(アレックス・フォン)、李若彤(カーマン・リー)、黃浩然(レイモンド・ウォン)、黄卓玲(ルビー・ウォン)
<コメント>香港人大好き「消防モノ」の代表作。おそらく、これ以降の「消防モノ」はこの作品の影響を受けているはずだし、客はこの作品を基準として観てしまうのではないだろうか?「どれだけ燃えるねん、爆発するねん?」ってところは、「香港版『バックドラフト』」とも言うべき作品。
19.『五個小孩的校長』(小さな園の大きな奇跡)2015年
監督:關信輝(エドリアン・クワン)
主な出演:古天樂(ルイス・クー)、楊千嬅(ミリアム・ヨン)、吳耀漢(リチャード・ン)、姜皓文(フィリップ・キョン)、馮淬帆(スタンリー・フォン)
<コメント>実話に忠実に基づいた作品。閉園間近の幼稚園を救った園長先生と夫、園児の保護者らの奮闘録。都会のクールな女性を演じることが多い楊千嬅とハードボイルド作品の主役が多い古天樂が、ハートウォーミングなドラマを演じる。2015年の香港映画最大のヒット作。
18.『野獸刑警』(ビート・コップス 野獣刑警)1998年
監督:陳嘉上(ゴードン・チャン)、林超賢(ダンテ・ラム)
主な出演:王敏德(マイケル・ウォン)、黃秋生(アンソニー・ウォン)、張耀揚(ロイ・チョン)、周海媚(キャシー・チャウ)、譚耀文(パトリック・タム)、李燦森(サム・リー)、車沅沅(ステファニー・チェ)
<コメント>何気にキャストが豪華。「王敏德って生まれも育ちも米国だからか、広東語の声、似合わねぇ~」って友人と話したのが思い出深い(笑)。終盤の黃秋生と譚耀文の超激しいアクションシーンはけっこうおもろい。第18回香港電影金像奨5部門で受賞の大ヒット作。
17.『葉問2』(イップ・マン 葉問)2010年
監督:葉偉信(ウィルソン・イップ)
主な出演:甄子丹(ドニー・イェン)、洪金寶(サモ・ハン)、黃曉明(ホアン・シャオミン)、熊黛林(リン・ホン)、任達華(サイモン・ヤム)、鄭則仕(ケント・チェン)
<コメント>甄子丹主演による「葉問三部作」の第二弾。3作とも甲乙つけようのない出来だが、この2作目が一番の好み。正義の詠春拳vs悪だくみの英国ボクサーという図式でエキサイティングな展開。最後に少年・李小龍(ブルース・リー)が葉問に弟子入り志願に登場し、次作への期待感を抱かせる。
16.『全力扣殺』(全力スマッシュ)2015年
監督:郭子健(デレク・クォク)、黃智亨(ヘンリー・ウォン)
主な出演:何超儀(ジョシー・ホー)、鄭伊健(イーキン・チェン)、鄭中基(ロナルド・チェン)、梁漢文(エドモンド・リョン)、劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)、邵音音(スーザン・ショウ)、林敏聰(アンドリュー・ラム)
<コメント>香港では珍しい本格派スポ根物語。ただそこは、ガチガチになりすぎぬように林敏聰が見事なまでに緩和してくれている。何超儀、鄭伊健、邵音音ら名だたる名優陣がどん底から這い上がる「失敗者的進撃」の精神でひきつける。
一応、今回はここまで。この辺のランク付けは難しい。順位不同ってところかな。次回は15位~1位。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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