【香港回帰19年】あの香港を…

スルーしても世間に影響は全くないのだけど、一応こう見えても、現地で香港の祖国復帰の瞬間を迎えた香港永久居民なもんだから、その回帰の19周年にあたって何か少しでも記しておかないといかんだろうなと思い、PCに向かっている。

さあ、その香港だが、日本の新聞やテレビのニュースで最近は少しその「怪しい雲行き」が取り上げられることもあってか、以前よりは「香港もなんかザワザワしてますね」と話を振られることが増えた気がする。

そう。まさしく「ザワザワ」しているのである。拙ブログで、かねてより何度も何度もしつこいくらいに言ってきた「民主派のミスリード」が、香港をよからぬ方向に導いてしまっているし、さらに上の方で見れば、中央政府がその民主派のダメダメぶりに乗じて、影響力を増してきているというのが、現状だろう。

IMG_3077そこに待ったをかけるべく一昨年の雨傘行動に代表される、大学生から中学生を中心とした若い世代による新しいスタイルの民主活動が台頭したわけだが、それも結局はいくつかの派閥に分裂してしまい、今では「香港独立」を掲げて、従来の民主派とは明らかに一線を画した、事と次第によっては力による反抗も辞さないという一派が、一定の支持を得るという物騒な動きも出来している。

mfile_1270045_1_20160701192755こんな中で迎えた香港の7月1日、19回目の回帰記念日である。

2003年の50万人デモ

2003年、SARSに見舞われた香港。7月1日は主催者発表で50万人が路上に繰り出して、当時、市民に反発を受けていた国家安全法の立法化阻止を訴え、結局、それを主導していた葉劉淑儀(レジーナ・イップ)保安局長(当時)は退任、翌春には健康上の理由と言うことから董建華(C.H.トン)行政長官(同)も辞任を表明と、市民が港府と中央に「NO」を突きつけ、成果を収めたのであった。

翌04年には、さらに53万人が7.1デモに参加し、今度は「我要全面普選」を訴えた。密室選挙と言われても否定の余地のなしの行政長官選挙、議席の大半を建制派(親中派を含めた親政府派)が占めるようにできている現在の立法会選挙を、全面的に香港市民の投票によって選出できるようにという、極めて民主的な要求であった。

この要求は二転三転の末、中央政府が「おお、いいけど。但し行政長官は中央が立候補を認めた人物じゃないとダメよ」としたことから、例の雨傘の抗議行動に発展してゆく。結局、雨傘は中央の決定を覆すことができず、そればかりか、「とりあえず普通選挙で」となっていた行政長官選出方法も、立法会を通過せずに、逆戻りし、次期行政長官の選出はこれまで同様の「密室選挙」となってしまった。そして、親中派vs民主派のみならず、穏健民主派vs激進民主派(過激な主張、行動の一派)あるいは、従来の激進民主派vs本土派(香港こそ香港人の本土という意味)といういくつもの新たな溝を生み出すことになった。

事ここに至って、返還前後の民主活動の花形で民主派の中核的存在であった民主党は、まったく影の薄い存在となり下がったのである。

回帰19周年のこの日、香港政府は例年通り国旗、特区旗掲揚式典を実施。一方で、九龍湾のトランクルームが多数入居するビルの大火災により、消防隊員2名が殉職したことを受けて政府主催パーティーでの歌舞音曲の出しものは取り消しに。夜の民間団体主催によるイベントでも、一部哀悼の意を表する内容となった。

1384877021_7953それにしても今回の火災。
今でも忘れられない、1996年11月の嘉利大廈の火災の恐怖を改めて思い起こさせられた。あれこそまさに地獄図絵そのものだった。今回も完全制圧まで100時間を超える大惨事となったわけで、それこそ香港返還よりも鮮烈に記憶に残っている。各紙の一面を飾った焼け死んでいく人の写真は、とにかくショッキングだった。写真は助けを求める姿勢のまま、窓辺で焼け死んでいく人の写真がデカデカと載った、当時の『蘋果日報』。

話を戻して今年の回帰記念日。
人民解放軍駐港部隊は、7月1日、2日の両日、昂船洲(ストーンカッターズ島)などの駐屯地で市民向けのオープンデー。7月1日だけで2万6千人の香港市民が解放軍とふれいあのひとときを過ごす。デモに繰り出して共産党や香港政府に物申す人もおれば、こうして人民解放軍と休日のひと時を過ごす人もいる。ある意味健全な光景だとは思うが、返還直後はそんな穏やかさがあった香港だが、今はなんだか別世界だな。違う土地のようでならない。あの香港よ!と叫びたいのは、小生だけではあるまいて。

8cdcffa3bd295fc63c9704f4c17d7383兵隊さんに遊んでもらう子もおれば、

02la3p2「梁振英行政長官、さっさと辞めろ!」と鉄槌を振るう子もいる。

7.1デモを主導する民間人権陣線(民陣)が招集したデモ隊は午後、集合場所のビクトリアパークを出発した。このデモが、梁長官任期中、最後の7.1デモとなる。今年のスローガンは「決戰689,團結一致,守護香港」。意味は漢字から悟ってくれ(笑)。

デモの先頭には、中共批判本など大陸での「禁書」を扱う銅鑼湾書店の林栄基店長が立つ予定だった。謎の行方不明事件は、大方の予想通り、中国当局に身柄を拘束されいたわけで、ここで中央に対して「司法の独立」という返還の約束事を毅然と申し立てることができなかった特区政府への不満、中共への怒りと恐怖もデモ参加者の中には渦巻いているのは説明するまでもないことだろう。しかし当の林氏は、出発前に「身の危険を感じる」として参加を取り消した。

天安事件抗議デモや追悼集会同様に、本土派や多数の学生団体は、個別の活動を行った。「デモへの不参加」を表明しながらも、本土派はデモの沿道で大々的に宣伝活動を行い、活動資金集めの募金活動を行い、一時は民陣と対峙する場面も。

8cdbad8abef36b1a0df911362964d2e6デモへの不参加を表明しながらも、こんなにしっかりした櫓を立てて、政治活動を行う本土派の政治団体「青年新政」のメンバー。けっこうズルいね(笑)。見ての通り、メンバーは若造である。要は雨傘に参加し、最終的に雨傘に失望した連中である。本土派の多くがこうした「傘兵」である。昨年の区議会選挙(総議席数431)では、傘兵が8議席を獲得しており、9月の立法会選挙でもある程度の議席獲得が実現するんじゃないかと思う。となればだ。中央との溝、建制派との溝、穏健民主派との溝、さらには本土派間の溝がさらに深まり、政治的に極めて不安定な事態を招きかねない。それを見てほくそ笑んでいるのは誰か?となるわけだ…。

民陣召集人の黒いタンクトップの男、岑子杰は今回のデモには11万人が参加したと発表し、雨傘後の無力感を抜け出すことができたのではと語る。

いつも比較になるのだが、警察発表は最高潮時で1万9300人。およそ10倍の開きは何なんだ?と思うが、現地にいないので何とも言えないが、香港大学民意研究所が調査した数字が、2万3000~2万9000だから、11万という人数は、バスやトラムの乗客、デモに関係なく沿道の歩道を歩いてた人なんかもひっくるめてるんじゃないかと(笑)。まあ、小生の経験上、警察の数字が大体正確かなと。

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上記は、7月2日付『明報』に掲載されたグラフで、2003年以降のデモ参加者数の三団体による比較である。岑子杰の発言とは裏腹に、警察、港大民意研究所の数字を見れば、昨年そして今回と雨傘以降の「無力感」は継続中であるというのがわかる低調ぶりである。

『蘋果日報』のような「我こそは民主の砦!」といういささか鼻に付く態度をとるわけでもなく、さりとて他の主要紙のように掌を返したように大陸に魂を売ってしまった腑抜けな紙面展開をするわけでもなく、ある意味「サイレントマジョリティー」としての民主の声を紙面で伝えてきた『明報』も、最近はその「生命線」を脅かされるような事態に陥っているわけだが、それでも民主活動については一定の矜持を保ちながらあくまで冷静に報じている姿勢が好ましい。そういう紙面づくりができる時間も残り少ないのかもしれないが…。

そんな『明報』らしく、デモ参加者と不参加者、さらにはサンプル数こそ少ないが親中派の慶祝活動参加者の三者で各種の世論調査を行っている。毎年、その結果が7月2日付け紙面で伝えられるのだが、おおむね香港市民の本音が数字に出ているんじゃないかと思われる。

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Q1. 9月の立法会選挙で、
イ)候補者が梁振英行政長官の再選を支持しているかどうかは投票の上でどれほど重要か?
<デモ参加者>
・非常に重要‥71.5%、ある程度重要‥21.2%
・あまり重要でない‥5.2%、まったく重要でない‥1.7%、よくわからん・回答拒否‥0.3%
<デモ不参加者>
・非常に重要‥36.6%、ある程度重要‥38.0%
・あまり重要でない‥13.4%、まったく重要でない‥9.9%、よくわからん・回答拒否‥3.9%

ロ)候補者の「香港独立」に対する態度については?
<デモ参加者>
・非常に重要‥16.0%、ある程度重要‥29.9%
・あまり重要でない‥38.7%、まったく重要でない‥13.7%、よくわからん・回答拒否‥1.7%
<デモ不参加者>
・非常に重要‥23.6%、ある程度重要‥32.4%
・あまり重要でない‥28.2%、まったく重要でない‥12.0%、よくわからん・回答拒否‥3.9%

ハ)候補者の「香港のことは香港が決める=香港自決」の態度については?
<デモ参加者>
・非常に重要‥50.3%あ、ある程度重要‥34.0%
・あまり重要でない‥10.8%、まったく重要でない‥4.1%、よくわからん・回答拒否‥0.9%
<デモ不参加者>
・非常に重要‥43.3%、ある程度重要‥35.9%
・あまり重要でない‥12.7%、まったく重要でない‥5.6%、よくわからん・回答拒否‥2.5%

Q.1-イ)については、デモ参加者、不参加者ともに、候補者選びのポイントとして「梁行政長官の再選支持者かどうか」というのを重要視しているが、強引な線引きを承知で仮にデモ参加者を民主派人士、不参加者を親中派人士と見た場合、その重要度のとらえ方は当然逆のものとなる。ハ)も同様で、参加者、不参加者ともに8割以上の人が重要視している。当然民主派は「そうあってほしい」と言う願望であり、親中派は「断じて許さん」という拒絶の表れである。

ロ)については、民主派の中でも「本土派支持、不支持」で二分されているということになるか?こうなると、民主派全体で大きく票が割れてしまう可能性もあり、汎民主派は相当腹を据えて選挙活動せねばならないだろう。一方で親中派も本土派が票を伸ばした場合、現有議席を失う可能性もあるわけで、大多数ながら過半数には達していない現議席数を減らすとなれば、一大事である。いずれにしろ、「本土派」の動きから目が離せない状況になりつつあるということだろう。

Q.2の結果がすごい。返還19周年を迎え、中央政府の「一国両制」「高度自治」の堅持に満足してるかどうかという質問だが、デモ参加者、不参加者ともに不満の声が高いのに比べ、親中派慶祝活動参加者では「非常に満足、満足」が69%に達し、「一般(まあまあだね)」と合わせると9割以上の人が不満を感じていないという結果に。ま、調査するまでもないデータではあるけどな(笑)。

Q.3については各自御推察を。漢字がわかれば意味もわかるはず(笑)。

いずれにしても19年間で大きく香港の風景は変わってしまった。

もちろん、「そうであってほしくない」香港に。
映画『十年』じゃないけど、拙ブログの2014年12月1日付『【過激な未来予想図】『雨傘を閉じたとき』香港デモ、10年後の彼ら』の一部は、いまや現実のものとなりつつある。そういう意味では、実に将来が読みやすい場所でもあるんだな、香港ってところは…。

今は一言。
あの香港を返せ!
と言いたい。本土派を支持はしないけど、連中の気持ちは理解できる返還19年の今日この頃である。その背景に関しては、いずれそのうちに。


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