【上方芸能な日々 文楽】平成28年4月公演初日

IMG_2772早いもので、2年前の4月公演初日では、この満開の桜を見ながら住さんの引退を惜しみ、昨年は二代目玉男の襲名に胸躍らせ…。今年は何もないよなと思っていたら、正月公演(東京は2月)で嶋さんが引退し、今公演に先立って文雀師匠が引退を報告…。とまあ、実に目まぐるしく時代が、そして世代が動く文楽である。来年もまた、この桜を見るとき、何かがあるのかと、今からドキドキするのである。いやはや、まったく。

そんなワサワサとした情勢ではあるが、勘十郎に言わせると今公演は「文楽の総力戦」だとのこと(『産経新聞』WEB版「産経WEST」4月2日付)。まさに文楽が総力をあげて臨む6年ぶりの『妹背山婦女庭訓』の通し上演である。そこまで言うなら、こちらも初日から1部、2部通しで気合入れて観に行きましょうと、朝弱いのに頑張って(笑)、文楽劇場へ。

IMG_2775初日、それも人気の『妹背山婦女庭訓』通しということもあってか、客足は上々。ほぼ満員の中で第一部が始まる。

妹背山は、通しで観たことある人はわかると思うけど、前半と後半でまったく別の物語であるかという流れになっている。前半は雛鳥(ひなどり)と久我之助(こがのすけ)の悲恋の物語で、何と言っても上手下手両サイドに床が立ついわゆる「両床」に太夫三味線が並び、舞台中央の吉野川の流れを挟んで悲しい物語となって幕となる。

後半は、お三輪という「疑着の相」を持った嫉妬の塊のような女性の「赤い糸」の物語が中心となって進んでゆく。しかし両方通じて「入鹿誅伐」のテーマで物語は進み、「そこに行きついたか」というところで第2部の上演が終了、という段取りになっている。

好みの問題もあるが、やはり通しで観てこそ、その「値打ち」がわかるという具合なので、1日で観てしまうもよし、2日に分けて観るもよし、とにかく両方観てこその妹背山なのである。

舞台の美しさとストーリーのわかりやすさで、前半のみ観るケースが多いようで、実際、この日も1部は満席ながら2部は7割弱の埋まりという始末で、「前半観ただけで『妹背山』観た気になるなよ、テメーら!」ってところだ(笑)。

IMG_2780いつもの上手(手前)に加えて下手にも床が設定される「両床」は、『妹背山婦女庭訓』ならでは。こちらは久我之助が蟄居する背山、あちらはその久我之助を追ってきた雛鳥が住まう妹山。吉野川をはさみ、紀伊国、大和国にまたがって領地争いする両家はとかく不仲であったが…。

今公演は、文楽劇場始まって以来初めてとかいう横位置のチラシも話題に。なんで今までこの形にすることに気づかなかったんだろう? あるいは、反対する人がいたのか? やっぱり『妹背山婦女庭訓』の魅力を訴求するには、これしかないでしょ。

IMG_2786物語後半、今公演の舞台で言うなら第2部の象徴の一つが、この杉玉。今公演でも初日に恒例に従い、奈良は大神神社(おおみわじんじゃ)より権禰宜がご来場。幕間に舞台に上がられ、勘十郎が遣うお三輪に杉玉授与。権禰宜の宣うに「我らが永遠のヒロインお三輪さんへ」。さすが三輪明神さんだけに「疑着の相」、嫉妬と執念のお三輪ちゃんもヒロインなのか!

IMG_2788さて、今公演で大きく変わったのが、「太夫」の表記変更。変更と言うよりは、回帰と言う方が正確か。これまで、住大夫とか越路大夫とかいうように、芸名としては「大夫」、部門名としては「太夫」に使い分けられていたが、

「人形浄瑠璃文楽座太夫部一同より、芸名表記の『大夫』を、流祖竹本義太夫師以来の元々の表記である『太夫』に戻す旨の申し出」

があり、公益財団法人文楽協会及び独立行政法人日本芸術文化振興会は、申し出を尊重し、「太夫回帰」となった次第。よって、拙ブログでも今後は、出演者の芸名については何々太夫と表記します。なお、この決定以前に引退などで現役でない太夫については、その時点での表記である「大夫」を継続して使用します。

肝心の舞台の方だけど…。初日を観た限りでは、なんか気張りすぎている人が多すぎてちょっと肩が凝った(笑)。まあ初日だから張り切っているのはわかるけど、たとえ小生一人であったとしても、見物人に肩が凝ったなんて言わせるような舞台じゃいけませぬ。中には「おう!よく聴かせてくれた!」って人もいたのだけどね…。

また、正月公演から座席が格段に改善されて、座り心地上々、座席間の空間も広くなり、ついうたた寝してしまうのだが、それだけに見物を退屈させない一層の芸も聴かせて見せなければならい。
それを思うと「う~ん」とうなってしまう初日だったと、正直に記しておく。
詳細は、1週間後に再び通しで観たので、その時の感想などと合わせて…。

(平成28年4月2日 日本橋国立文楽劇場)


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