【睇戲】『王家欣 ウォン・カーヤン』(港題=王家欣)<日本初上映>

第11回大阪アジアン映画祭
特集企画《Special Focus on Hong Kong 2016》
コンペティション部門

『王家欣 ウォン・カーヤン』
(港題=王家欣)<日本初上映>

poster過去を「良き時代」として懐かしんだり、過去と現在を行ったり来たりするようなタイプの作品が目立っている。この大阪アジアン映画祭の作品チョイスの特長なのかもしれないし、もしかしたら世界的にそういう潮流にあるのかもしれないが、どうなんだろうな…。でも、やはり「良き時代」というのは、実際に過去に存在したわけで、その思い出に浸り、懐かしむというのは誰にでもあることで、実はそのひとときが幸せだったりする。当時はイヤ~な思いだったとしても、後には記憶という宝石箱の中で輝いているものもあるのだから、不思議なもんだ。この日観た『王家欣 ウォン・カーヤン』もそういう筋の作品だ。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

poster2_1440003522港題 『王家欣』
英題 『Wong Ka Yan』
邦題
 『王家欣 ウォン・カーヤン』

現地公開年 2014年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):劉偉恒(ベニー・ラウ)

領銜主演
(主演):黄又南(ウォン・ヤウナム)、吳千語(カリーナ・ン)、翟凱泰(タイソン・チャク)

特別演出(特別出演):劉美君(プルデンス・リュウ)、盛君(ジャネール・シン)

友情客串(友情出演):梁詠琪(ジジ・リョン)、李克勤(ハッケン・リー)、譚耀文(パトリック・タム)、尹揚明(ビンセント・ワン)、何嘉麗(スザンヌ・ホー)

昨年の大阪アジアン映画祭で上映された『点対点』の鑑賞記で記した「集體回憶=集団の記憶」。この『王家欣 ウォン・カーヤン』は舞台の大半が1992年ということもあって、90年代の「集體的回憶」がいっぱい散りばめられており、90年代すでに香港で生きていた身としては、めちゃくちゃ懐かしかったり、ちょっと泣けて来たり、「お、それが来たか!」みたいな心中密かな喜びを感じたり…。きっと香港人も同じ思いでこの映画を観ていたんだろうと思うと、やっぱり連帯感と言うか同胞意識と言うか、想い出を共有できるというか…。

この点について監督の劉偉恒(ベニー・ラウ)は、「 92年当時と言うのは、何もかもが非常にシンプルな時代。自分の好きな時代でもある 」と、上映後の舞台挨拶で語る。脚本担当で妻の王沛然(ウォン・プイヤン)も「 恋愛もとてもシンプルな時代でしたよ 」と言う。

黄又南演じる主人公の陳俊賢(ジョンイン)が、一目惚れの女性に会いたい一心で電話帳に載っている女性と同姓の「王」という家に片っ端から電話をかけるシーンは、今からすればとても非効率的で、もっと言えば今の社会ではそういう発想にさえ至らない行為だけど、各種SNSはもちろん携帯もインターネットも無かった時代。これが最善かつ唯一の手段だったことを思うと、シンプルさと一途さが良く伝わってきて、その時代を生きた者の共感を呼ぶ。

別れ際に伝える番号も、携帯番号やアドレスではなく、Call機(コール・ゲイ=ページャー)すなわちポケベルの番号なのも、あの時代のまさに「集體回憶」。

出演者がよい。主演の黄又南はあのころの一途な香港男子を見事に演じ切っていた。そういえば、二人組ユニット・Shineの片割れの徐天佑(ツイ・ティエン・ヨウ)は前日に観た『レイジー・ヘイジー・クレイジー』に出演していた。最近は二人とももっぱら俳優活動に徹しているようで、「お前ら、WaTか?」な雰囲気(笑)。そうそう、黄又南の作中での髪型、90年代の香港での小生の髪型そのまんまで、「個人的回憶」を感じたりもした(笑)。

吳千語が気の強い、それでいて涙もろく情にあつい典型的香港の女の子を熱演。モデル業が多忙なのか、あまり映画出演には熱心ではないようだが、もっと出てきてよい人材。

梁詠琪、李克勤ら友情出演が10人以上というのも特筆される点。これはひとえに監督夫妻の人柄と人脈だろう。監督の劉偉恒は映画業と同時に、ラジオ局香港電台の人気DJ。香港を離れた今でも聴いている『守下留情』のレギュラーの一人。一方の王沛然はかつてはケーブルテレビ局・有線電視(HKCTV)のアナウンサー。ということで、仲間たちが集まってきてくれたと思われる。とりわけ、何嘉麗が本業と同じく劇中でもDJで出演しているのがよかった。

全編、良く練り上げられた作品で、観ていて心地よい。何分、舞台が20年以上前の香港なので撮影には随分苦労もあったようだが、コレクターが当時の映画のポスターを貸してくれりして、違和感のない画になっていた。『現代應召女郎』のポスターを小生は目ざとく発見し、小躍りしていたほどだ(笑)。坪洲の島の光景が、映画のストーリーともよくかみ合っていたんじゃないかとも思う。香港の離島はどこも素敵だね~。

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劉偉恒(ベニー・ラウ)、王沛然(ウォン・プイヤン)夫妻。いい感じの夫婦である。この二人だからこそのこの映画というところか

映画終盤、主人公の陳俊賢(ジョンイン)が偶然にもバスの中で探し求めていた王家欣(ウォン・カーヤン)=実はそういう名前ではなかったことで、彼は相当な精神的打撃を受ける…と接近遭遇する場面があった。客席から「なぜ彼はそこで声をかけなかったのだろうか?」という質問が。王沛然はこの問いに「では客席の皆さんに私から逆質問です。『自分なら声をかけた』という人は? 逆に『いや声はかけない』という人は?」。場内、圧倒的に…。「ね、これがあのシーンの答えです(笑)」。さすが、元テレビアナウンサー。見事な切り返しである(笑)。

今映画祭でここまでに観た中でも出色の作品であった。来る第35回香港電影金像奨では、最優秀主題歌賞でノミネート。もっといろんな部門でノミネートされてもおかしくないのに…。

(映画祭出品作品につき、甘口評、辛口評は割愛)

主題歌『給王家欣』に乗せて映画のハイライトをどうぞ。

《給王家欣》− 電影王家欣主題曲原裝劇場版MV

(平成28年3月12日 ABCホール)