【睇戲】『私たちが飛べる日』(港題=哪一天我們會飛)<日本初上映>

第11回大阪アジアン映画祭
特集企画《Special Focus on Hong Kong 2016》
特別招待作品部門

『私たちが飛べる日』
(港題=哪一天我們會飛)<日本初上映>

「HONG KONG NIGHT」に引き続き上映された香港作品は、待望の『私たちが飛べる日(=哪一天我們會飛)』の本邦初上映。楊千嬅(ミリアム・ヨン)と林海峰(ジャン・ラムという、ありそうでなかった(少なくとも小生は記憶がない)組み合わせへの興味もさることながら、注目の新人・游學修(ネオ・ヤウ)、吳肇軒(ン・シウヒン)、蘇麗珊(シシリア・ソー)がどんな芝居を見せてくれるのかも楽しみなところ。若い黄修平(アダム・ウォン)の腕の見せどころでもある。なるほど、「HONG KONG NIGHT」だけのことはあって、これをぶつけてきたか!って感心したりも…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

12115520_1038602402837149_4626912199349841141_n港題 『哪一天我們會飛』
英題 『She Remembers, He Forgets』
邦題
 『私たちが飛べる日』

現地公開年 2015年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黄修平(アダム・ウォン)

領銜主演
(主演):楊千嬅(ミリアム・ヨン)、林海峰(ジャン・ラム)

演出(出演):蘇麗珊(シシリア・ソー)、游學修(ネオ・ヤウ)、吳肇軒(ン・シウヒン)、李敏(エリカ・リー)、喬寶寶(Qボーボー)、趙學而(ボンディ・チウ)、林子聰(ラム・ジーチョン)、何故(キース・ホー)

特別演出(特別出演):譚玉英(ヘレン・タム)、陶傑(チップ・タオ)

「HONG KONG NIGHT」の稿でも触れたが、香港の元祖マルチクリエイターたる泰迪羅賓(テディ・ロビン)が本作のプロデューサー、文化不毛の地と言われた香港に、一つの職業としてマルチクリエイターの地位を確固たるものとした林海峰、その林海峰演じる主人公の若き日を演じた游學修は、おそらくそう遠くない将来にマルチクリエイターとして活躍しているだろうと思う。そんな象徴的な三人が制作スタッフと演者にそろったという点でも、この作品は「出来の善し悪しはさておき」、観ておくべき作品だと思った。

また、黄修平、陳心遙は一昨年の大阪アジアン映画祭でも「HONG KONG NIGHT」のゲストとしてこのステージに上がっている。やはり監督とプロデューサーという立場。前回の出品作品は『狂舞派』だった。その時の感想としては、「『監督さん、まだまだ青いよ』と言いながら、しっかり最後は泣かされていた」というものだったが、今回はどうだろう? あれから何らかの進歩はあったのだろうか…。そこもよく観ておきたい点。

「これから」の俳優が多く出ている。とりわけ次代を担う游學修は、俳優として名を売る以前から、ネットクリエイターあるいはネットでの発言者として、2014年の雨傘行動あたりから注目はされていた。小生もそのころに彼の存在を知る。彼が主宰するネットクリエート集団「學舌鳥 Mocking Jer」のFace Bookは四万人を超すフォロワー数を誇る。若くしてその発言が注目されるというのは、好むと好まざるにかかわらず、香港はそういう季節に入ったということだろう。

さて映画自体は、意外にも平坦なストーリーだった。これという起伏のないまま、気が付けばエンドロールが流れ始めたという感じだ。まあ、ほろ苦い青春時代を思い出して倦怠期の夫婦が、再びあのころのように「飛べる日」を…。というストーリーだから、平坦で起伏が無くってもそれはそれで当たり前の展開なのかもしれないし、多分監督の黄修平(アダム・ウォン)はそこを狙っていたのかもしれない。意外にも香港での評価は高く、今年の香港電影金像奨では、最優秀新人俳優賞(蘇麗珊)、最優秀脚本賞(黄修平、陳心遙=サヴィル・チャン)、最優秀音楽賞(戴偉=デイ・タイ)、最優秀主題歌賞(歌・黄淑蔓)の4部門でノミネートされている。文芸作品としては異例のノミネート数だと思う。

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右から泰迪羅賓、黄修平、陳心遙、游學修

上映後、改めてステージに登場した黄修平、泰迪羅賓、陳心遙、游學修の4人。監督の黄修平は、「自分は天邪鬼な性格」としたうえで、「自分が撮りたいものは、決して主流とはなりえない。香港映画が言うべきことはこれだと思う映画を作っていきたい」(昔の香港と今の香港どっちがいいかと言うと)昔の方がいいと思っても、これは選べるというわけではないので、今を生きていきたい」と言う。この映画は、まさにそこを語る筋書になっていた。そのへんの監督のメッセージが多くの観客に届いたからこその4部門ノミネートなのかもしれない。

そういう点で観れば、今の香港人に、今の香港社会に訴えかけるもの大だったのだろう。これはもはや香港撤収から6年が経過した小生には感じることのできないものだと痛感した。朝な夕なに香港のラジオ番組を聴き、主要な新聞のサイトに目を通していても、肌身で感じることのできない空気がそこにはあるのだと思った。そして、こういう空気をわずかでも感じたいと思っている人たちが、この夜、ABCホールに詰めかけたのだろう。

さて、若き日の主役3人だが、3人とも期待以上によくやっていた。游學修を林海峰の若き日の役にあてたのは、大正解だったと思う。何も言うことなし。ピッタリはまっていた。その游學修、客席とのQ&Aで観客が香港の人たちの温かさについての発言を受けて、「僕が日本や日本人に対して抱いている気持ちとまったく同じです」と。「言葉が通じないとわかっていても、とても親切に接してくれます」と言う。結構、日本に遊びに来ているらしい。

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そして繰り返すが、泰迪羅賓がここに来てくれたのは大感激である。曰く、「アダムもサヴィルも若くて才能がある。特にアダムは若い主演の3人を発掘もし、全力でこの映画を作り上げた。こうした若い人たちと一緒にこの作品を作っていくことができてうれしい」。随分と年を取ったなぁと思うけど、まだまだこうして一線で活躍してくれているのが嬉しい。

ところで、『蘋果日報』で健筆をふるうコラムニストの陶傑センセがキャストに名を連ねており、どんな役どころで出てくるのか注目していたら、ああ、そういう役だったのかと。出番はほんの少しだったけど、センセなかなか上手ですなあ(笑)。お会いしたこともないのに「陶傑センセ、ちゃんとできるかな?」ってドキドキしてたよ(笑)。

『私たちが飛べる日』というだけあって、ドローンを駆使したという空撮がとても美しくて印象深い。黄淑蔓 & 英仁合唱團が歌う主題歌『差一點我們會飛』も耳に心地よい名曲である。

「昔はよかった」などと通り一辺倒の言葉で片付けたくはないが、やはり「この香港よ、永遠に」と思ってしまう。

2年ぶりにこの映画祭へやって来た黄修平、陳心遙のコンビに進歩の跡は…。というもう一つの観察ポイントについては…。「う~ん」。この一言をもってその回答としておこう。

(映画祭出品作品につき、甘口評、辛口評は割愛)

《哪一天我們會飛》正式版預告片

(平成28年3月10日 ABCホール)



 


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