【睇戲】『インターセプション 盗聴戦』(港題=竊聽風雲3)

『インターセプション 盗聴戦』
(港題=竊聽風雲3)

香港でヒットした『竊聽風雲3(邦題・インターセプション盗聴戦)』を観てきた。

香港でヒットしたからと言って、それが日本でもヒットするとは限らない。この作品はその典型だろう。

この作品をよく鑑賞するには、テーマとなっている「香港新界地区における『丁権』という、独特の土地利権」をよく知っておく必要がある。「新界とは? 丁権とは?」と、普通に日本で暮らしている日本人には、まったく理解できないことが作品のテーマになっているだけに、そこをわかっていないと、この映画に出てくる連中が何をそんなに血で血を洗う抗争を繰り広げているのか、ってところだろう。だから、この作品も決して日本では流行らない。まあ、それをあえて上映するシネマート心斎橋には、香港おたくを大事にしてくれているということで、感謝してもしきれないのであはあるが。

「新界」の定義する範囲について

では、とりあえず、「新界」という地域についてだけ、さらっと説明しておこうか。

(しんかい)
1842年、南京条約で清国から香港島が英国に割譲
1860年、北京条約で九龍半島が割譲
上記以外の領域が「新界」で、1898年の展拓香港界址専条によって英国に99年間の期限で租借された地域のこと。厳密には、1898年の条約で租借地となったのは九龍半島を東西に横切る界限街(Boundary Street)以北、深圳河以南の領域と、香港に付随する233個の島を指す。日常の用語としては文脈により、「新九龍」と呼ばれる新興市街地(界限街以北・獅子山=Lion Rock以南)や島嶼部を含まない場合もある。
1997年7月1日、英国に割譲された香港の他地域と共に中華人民共和国へと主権移行。

結局、本来は新界にのみ適用されるはずだった、いわゆる「香港返還」が、社会的混乱を来すのは明らかという理由で、香港島、九龍半島合わせての主権移行という結果に落ち着いたというわけで、言うまでもなく鄧小平が押し切った「成果」である。

Hong_Kong_New_Territories.svg上記地図で、緑色の部分が「新界」。要するに、香港のほとんどが「新界」なのであるが、日常的には、離島は「新界」という意識よりも「島」という意識の方が強く、普段はあまり離島に「新界」を意識することはない。しかし、実際に島に行くとやはり「新界」独特の「丁屋」と呼ばれる3階建て家屋が多く見られ、「ああ、やっぱりここも新界なのね」と感じる。

「丁屋」とは? 「丁権」とは?

その「丁屋」の土地利権が「丁権」。じゃ、「丁屋」ってなんじゃらほい、と。

「丁屋」
香港政庁が1972年12月に実施した「新界小型屋宇政策」では、1890年代に父方が新界の住民と認められた人々(これを新界の原居民とする)の子供のうち18歳以上の男子 には、決められた土地内に一棟3階建て(上限 8.23メートル)、各層は700平方ftを超えない「丁屋」の建築を「一生に一度だけ」政庁に申請することを許可。後に土地税は免除されることに。この権利を「丁権」と言う。

この「丁屋」「丁権」をめぐっては、新界原居民と政府、開発業者の間で、たびたび争議が起きている。作品では、香港政府が新しい丁屋建設の申請を受け付けず、丁権をまとめて高層住宅にしようと考えており、曾江演じる陸瀚濤は政府の計画に乗って巨額の富を得ようとして、さぁ、どうなる、という筋書で。なお、原題に『竊聽風雲3』とあるが、1、2、3ともに筋書に関連性は全くない。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

Qie_Ting_Feng_Yun_3_poster_(Hong_Kong_Version)港題 『竊聽風雲3』
英題
 『Overheard 3』
邦題 『インターセプション 盗聴戦』
制作年 2014年
制作地 香港、中国
言語 広東語

評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):麥兆輝(アラン・マック)、莊文強(フェリックス・チョン)

領銜主演(主演):劉青雲(ラウ・チンワン)、古天樂(ルイス・クー)、呉彦祖(ダニエル・ウー)、周迅(ジョウ・シュン)、葉璇(ミシェル・イェ)

主演(出演):方中信(アレックス・フォン)、曾江(ケネス・ツァン)、呉孟達(ン・マンタ)、黄磊(ホアン・レイ)、林家棟(ラム・カートン)、林嘉華(ラム・カーワー)、羅蘭(ヘレナ・ロー)

友情演出(友情出演):黄奕(クリスタル・ホアン)、錢嘉樂(チン・ガーロウ)、劉浩劉(ウィルフレッド・ラウ)

【甘口評】
あんまり甘口で評することができない作品。毎朝、ニュースの時の8時45分ごろのCMでお馴染みの顔、超ベテランの曾江(ケネス・ツァン)が元気だったのがうれしい。今年の香港電影金像奨で「最佳男配角=最優秀上演男優賞」を受賞したのもうなづける好演が光る。

ベテランでは、羅蘭(ヘレナ・ロー)も登場場面こそ少なかったが、存在感があった。また、「糞まみれ」になる周迅(ジョウ・シュン)の適度なあばずれ度合いは、もう一人の女主役、葉璇(ミシェル・イェ)よりも魅かれるものがあった。

呉彦祖(ダニエル・ウー)の通信オタクぶりも、新境地というところか。

【辛口評】
冒頭から「新界がぁ~」「丁権がぁ~」と、ダラダラ述べたように、この辺の知識がある程度ないと、なかなか理解できない内容。おそらく香港人の中でも、この辺の知識は新界原居民か不動産関係者でない限り、それほど深いものではないと思う。香港在住歴15年の小生が、「ああ、なんかそういうのあったねえ」と言うくらいだから。それを日本で公開というのも、劉青雲(ラウ・チンワン)、古天樂(ルイス・クー)、呉彦祖ら、ヒット作出演多数の人気俳優が顔を揃え、今年の香港電影金像奨で11部門がノミネート、2部門で受賞という栄誉が買われてのことなのか? それにしても劉青雲が同奨で「最佳男主角=最優秀主演男優賞」を獲得したというのが、どうにも納得できないのである。そもそも彼が主演なのか? 小生には古天樂が主演に見えたが…。

「評価」の★★☆は、曾江に差し上げたと思っていただいていいだろう。「駄作」とまでは言わないが、各キャストが持ち味を存分に発揮できないままに終わったという残念な作品だった。

《竊聽風雲3》劇情版預告片 終極曝光

(平成27年9月3日  シネマート心斎橋)


2件のコメント

コメントを残す