【上方芸能な日々 歌舞伎】あべの歌舞伎「晴の会」

歌舞伎
あべの歌舞伎「晴の会」

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日本一の高層ビル「あべのハルカス」のオープンを前に、近鉄百貨店あべのハルカス本店内に復活した近鉄アート館は、以前と同様に、芝居にコンサートに伝統芸能に展覧会にとフル回転。南大阪の玄関口に、こうした文化施設が復活して、賑わっているというのは、まことに喜ばしい限り。

今回は、歌舞伎公演である。
松竹・上方歌舞伎塾の第1期生3人が、近鉄アート館という空間だからできることをやってみようというのが、「晴の会(そらのかい)」

立役の片岡松十郎と片岡千次郎、女方の片岡千壽は、それぞれ仁左衛門、我當、秀太郎に入門、上方の歌舞伎をしっかりと仕込まれて、平成11年3月の大阪松竹座で揃って初舞台を踏み、平成24年から25年にかけて、相次いで名題昇進。門閥や血縁にこだわることなく、実力主義の上方歌舞伎にあって、塾生のこうした活躍は、後に続く若い世代への大きな刺激、励みになるだけに、この舞台も成功してもらいたいところ。7月31日から8月2日の3日間5公演だが、前評判もよく、チケット購入に出遅れた小生は、2階席しか取れず。

IMG_20852階席と言うても器が小さいので、意外とよいお席。そして並びのお席には、公演監修の秀太郎丈が!緊張するわ~(笑)。そして、おなじみの大向こうの声掛けさんたち。今回は、松十郎、千壽が松嶋屋、千次郎が松美屋と、屋号が二つだけなので、頭の中で系図を繰り広げる必要なく、そこは楽チン(笑)。このアリーナ中央へ大きく張り出した出張り舞台が、想像以上に功を奏していた。

ちなみに、もう20年以上昔の話だが、この角度で憂歌団のライブ聴いたことあったなあと、ふと思い出した次第。

訪れたのは、中日の午後の部。当日売りも若干あったようだが、入りはほぼ満席。気温38度を超えようかという酷暑。PL花火大会に、大阪ドームはバファローズ夏の恒例「大坂夏の陣」で超満員、甲子園もナイターで日替わりの首位攻防戦。厳しい気候条件、色々なイベントがある中で、この動員は立派なもの。もっとも、歌舞伎見物に行こうという人たちの多くは、これらの行事には関心が無いと思われるが(笑)。

狂言建ては、前半が舞踊、後半が芝居。

舞踊
上 長唄「浦島」
中 地歌「たぬき」
下 長唄「橋弁慶」

上 長唄「浦島」 浦島—片岡千次郎
中 地歌「たぬき」 女狸—片岡千壽  宮守—片岡松十郎
下 長唄「橋弁慶」 弁慶—片岡松十郎 牛若丸—片岡千次郎

三人とも踊りは秀逸。若々しい浦島を舞った後、禁断の玉手箱に手を掛け、場内暗転後に白髪の老人になって現れてからの、老いた浦島、このコントラストをうまくやっていた。

女狸の千壽が良い。3人の中で最も上方らしい芝居ができる役者とみえる。ユーモア感があふれる動きで、客席を魅了。弁慶の松十郎は立役らしい豪放さがあったが、牛若丸の千次郎は、やや堅く感じたため、弁慶が必要以上に存在感が大きくなった感あり。まあ、「橋弁慶」というくらいだから、弁慶の物語ではあるんだけど…。

中入り
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中入りは、上の階の本来の百貨店の屋上だった場所へ、外の空気を吸いに出たが、午後5時ごろでまだ気温は37度ほどあって、かえってだるくなる。はねてから、ハルカスの展望台に上ってみようかと思うも、運悪く、上述のようにこの日はPLの花火大会で、ここから遠景を楽しもうという連中で展望台直通エレベーター前は大行列。並ぶの大嫌いな奴だから、ほな帰りまっさーと、さっさと帰宅。喫煙場所でタバコを「死ぬ気なのか!」というくらい喫みまくって、再び秀太郎丈と並びのお座席へ…。まあ並びと言っても、10席ほど離れてはいたんですがね(笑)。

新作歌舞伎
浮世咄一夜仇討(うきよばなしひとよのあだうち)

万事世話九郎—片岡松十郎
紀州屋女中いさき—片岡千壽
客 源兵衛—片岡千次郎
後見—片岡祐次郎、片岡りき彌

上方落語の『宿屋仇』をもとにした新作歌舞伎。城井十風・作、山村友五郎・演出、振付。城井十風…、かぁ…。ふむふむ。(あ、独り言ですww)

これは傑作。まさにこの空間なればこその演出、進行で、観客席も巻き込んでの笑いの連続。一枚の衝立(ついたて)を媒介として芝居は進行して行くのだが、この衝立が曲者で、宿屋の外観にもなれば、部屋の壁(あるいは襖、あるいは衝立、そこは観る者の想像の世界任せ)に、役者並みに変化(へんげ)してゆく。その操作(もちろん手動ww)担当は、女方の千壽、すなわち女中のいさき。世話九郎(松十郎)の「いさ~き~」と女中を呼びつけるタイミングもばっちり。また、源兵衛(千次郎)のはじけようも非常に楽しく、客席はしまいに手拍子の渦に。

空間、客席の配置、出張り舞台、座館の立地、予想される客層を十二分に把握した、心憎いまでの楽しいひとときであった。

城井十風、落語だけかと思ったら、こんな才能も秘めていたのか(笑)。

それと、この日は後見だったけど、祐次郎もりき彌も見どころのある若手なので、また見てあげてくださいね。

3人の歌舞伎への情熱、日頃の稽古の成果などが存分に表現された、よい公演だった。ぜひとも、継続していってほしい。年に2回はここで何かを見せてほしいなあ。

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 (平成27年8月1日 近鉄アート館)


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