【睇戲】『点対点』(港題=點對點)<日本初上映>

「大阪アジアン映画祭」
”Special Focus on Hong Kong 2015〈HONG KONG NIGHT〉”

『点対点』
(港題=點對點)<日本初上映>

142441862742340382180”HONG KONG NIGHT”のイベントに続いて上映されたのは、『点対点』。近年の香港インディーズ映画界を代表する作品と言われている。黃浩然(アモス・ウィー)にとっては監督第一作目で、香港藝術發展局の援助のもと、制作された作品。懐かしい香港の光景も出てくるということで、「これ、日本でやらないかな? やらないわな…。インディーズ作品という点で、もうほとんど期待できない…」と諦めの境地で、次に香港里帰りの折に、覚えていたらDVD買ってこようと思ってたら、親切な(笑)大阪アジアン映画祭が「上映したげるわ~」というわけで、この日を迎えた次第なり。この映画祭は、「在阪香港永久居民」に優しいね(笑)。

d2d_poster_1411453504港題 『點對點』
英題 『DOT 2 DOT』

邦題 『点対点』
製作年 2014年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黃浩然(アモス・ウィー)

演員(出演者):陳豪(チャン・ホウ)、蒙亭宜(モン・ティンイー)、林子聰(ラム・ジーチョン)、張雪芹(キャンディー・チェン)、邵仲衡(デビッド・シュー)、邵音音(スーザン・ショウ)

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

邵音音曰く「最初、監督から出演打診があったとき、たしかにいい映画だとは思ったけど、到底商業ベースに乗れるような内容じゃないし、そうなるとスポンサーも集まらないから、期待しないで『ああ、いいわよ』と軽く返事したんだけど…」。それが今、こうして「大阪アジアン映画祭」でこんなにたくさんの観客に迎えられる作品になっていたのだ。「監督のこの作品への思いを知った、彼の友人や映画仲間が資金を出したし、なんと言っても、香港政府までもが制作支援をしているんですよ!」と、香港映画界で40数年生きてきた大物女優が感心する。

さらに邵音音は、「私にとっても記念すべき作品」と続ける。「今までの私の役どころは、ご存じのようにどちらかというと低俗な女性を演じることが多かったけど、今回は長い女優人生で初めて校長先生という役を演じました。これはとてもうれしいことでした」。

現在、米国在住の張雪芹は、「出演依頼に始まり、あらゆることを監督とネットでやり取りして、香港での撮影は2日間。私の出る場面を集中的に撮影してもらいました」。ネット社会とは言え、こういうことは初めてだったと言う。映画出演はこれが初めてになる彼女だが、小生はTVBの夜のニュース前に延々流れる「広告番組」で彼女を度々観ている。IKEAとか広東省の別荘などが広告主で、CMであり番組でありという、とてもつまんない内容だが、おねーちゃんがいっぱい出て来るので、観ていた(笑)。新聞で言えば「記事体広告」のような位置づけかな。

主演の陳豪、彼もまた映画ではあまり見かけない俳優だが、テレビではこれでもかの露出度。弁護士モノのドラマなどでは、なくてはならない存在。邵音音が危惧した点のひとつに「陳豪自身は人気も実力もあるけど、いつもテレビで見てる人が主演の映画を、あえて観に来るお客がいるのかな…」。

果たして、この役は陳豪にピッタリだった。恐らく陳豪でなければピンと来ない役どころだったんじゃないだろうか。ストーリーが進んでいくにつれて、その思いは固まって行った。

DSC01754作品全体に流れるのは、「集體回憶=集団の記憶」。この4文字が大きくクローズアップされたのは、恐らく2007年の「皇后碼頭(Queen’s Pier)」の建て替え反対活動からだろう。このころ、香港では旧市街地の再開発、古い建造物の取り壊しが急速に進んでいた。考えてみれば、このころから始まっていた大陸人による不動産物件の「爆買い」需要をさらに飛躍させてしまうことになるのだが…。

皇后碼頭の取り壊しについては、大々的な反対行動が起き、座り込みなどデモに発展した。それまで「香港人って、古いものを残そう、保存しようなんて気持ちは微塵もないんやな~」って呆れるほどだったのが、一転して「集體回憶」の活動機運が高まったのにはびっくりした。社会の中核世代が、「香港で生まれ育った世代」に完全に入れ替わったことを表わしていたのかもしれない。それまでの中核世代は、親あるいは自分自身が大陸での内乱、文革などから香港へ逃れてきた人たちが多かったから、「集體回憶」というものに気が向かなかったとしても、無理はなかった。言いかえれば、従来の香港を支配していた「地産覇権」への反抗の砲火が放たれた、ということかもしれない。

この映画の中でも、「香港大丸」、遊園地の「茘園」などなど、70年代~90年代の懐かしい、あまりにも懐かしすぎる光景が見事に現在の香港とオーバーラップさせて、映し出されていた。80年代に旅行者として香港を訪れ、90年代には住民になっていた小生も、香港の人たちと「集體回憶」を共有していきたい気持ちが強い。単に個人的趣味としての「懐古主義」ではなく、その記憶を、知らない世代に、さらに次の世代に、その物として、映像や画像として、言葉として、きちんと残して行くことが、「集體回憶」を共有する大きな意義のひとつだと、この映画を通して痛感した。

ま、あくまで「娯楽」ですから、そこまでガチガチな臨戦態勢で観る必要は、まったく無いんだけど、香港人のそういう「下地」があってこその、この作品だと言うことは、どこかにとどめておいてくれればってことで、よろしくひとつ。

いい映画でした。

*「映画祭」出品作品につき、【甘口評】、【辛口評】は割愛。

《點對點》(Dot 2 Dot) 正式預告片

(平成27年3月12日 ABCホール)


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