【文楽研修見学会】伝統芸能後継者育成の現場

「文楽技芸員を養成する【文楽研修】の一端をご紹介します」ってことなので、「そりゃまたとない機会やんかいさっ!」と、速攻で応募したら、見事に当選したので行って来た。

あまり世間には知られていないことだと思うが、日本芸術文化振興会では、伝統芸能後継者の減少が重大な問題となる中、昭和45年に歌舞伎俳優の養成をスタートし、広く一般に門戸を開いて伝統芸能伝承者の養成事業を開始。現在、文楽三業、歌舞伎音楽(竹本、鳴物、長唄)、大衆芸能(寄席囃子、太神楽)、能楽三役、組踊(立方、地方)の養成などを行い、各分野で成果を上げている。

ちなみに、いま、文楽三業(人形、太夫、三味線)で技芸員の総数は85人だが、そのうちの約半数にあたる42人が養成出身だという(当日の説明)。

さて、この日はおよそ40人が、文楽劇場内の稽古場へと向かう。ここ自体、一般の人間が出入りできる場所じゃない。もうそれだけで、文楽フリークな皆さん方はワクワクドキドキなんである。

現在の第26期の研修生は、人形二人、太夫一人。この日、三味線部門の解説にあたってくれた龍爾くんいわく「今年は三味線は全滅でして(笑)」。

そう言えば、過去の研修を思い浮かべても、三業がそろってという年は、ほとんどなかったような気がする。文楽に限らず、なかなか古典芸能の芸人の「なり手」が少ない。が、この日の研修見学会で感じたのだけど、ほんの一端しか見ることができなかったとは言え、これだけ懇切丁寧に教え込んでくれる「業界」って、まあ無いだろう。もちろん、日本の伝統芸能の「継承」という非常に大事な使命をこれから背負っていくことになるのだから、その先が大変なわけだけど、これは若者の進路として充分に選択肢に入れるべき道ではないかと思った。たとえ大成したとしても収入は少ないかもしれないが、これほど「誇り」を持てる仕事も、そうそうあるものではないだろう。

まあ、小生なんて生涯ヘタレな人間だから、こういう道で修業するなんてのには全然向いていないのだけど、もし小生が、高校卒業あるいは大学卒業を前にして、真剣に進路に悩むような人間で、この「研修制度」を知っていたら、説明を聞きに行くくらいはしていたかもしれない…。いや、ないか、そこは俺だもんな(笑)。

それを思うと、毎年わずかな人数ではあるが、今期の3名のようにチャレンジして来る若者は、ええ根性してるなあと、ある意味尊敬するのである。だからこそ、研修を無事に修了し、晴れて師匠方に入門、名前をもらって文楽劇場の舞台で活躍する日を迎えてほしいなあと願うのである。

見学会は、講師として人形・清十郎師、太夫・千歳大夫師、で、前述のように三味線部門の研修生がいないから、龍爾くんが三味線あれこれのおはなし。清十郎師、千歳師は研修制度以前の入門だが、龍爾は研修19期生である。

まあねえ、ミーハー的心情でいくと、清十郎師はとても大好きな人形遣いであって、最前列のお座布に座ってその清十郎さまが、研修生に足遣いのレッスンされているのを見ると、「あの~、わたしも手とり足とり教えてもらえんでしょうか…」なんて言いたくなってしまうほどで(笑)。これは羨ましい限りだ。

いつも劇評では辛口評価になってしまっている千歳太夫が、研修生(この子がもう、太夫の風格十二分すぎるほどで)に「はい、そこ! 高いとこから出しなさい!」とか見台に見立てた文机をポンポン叩きながらレッスンする姿に、「いつも、無責任なブログでキツいこと書いてすんません」と恐縮してしまったり(笑)。

そして龍爾くんは、見かけは文楽界で一番しゅっとしてるのに、やっぱりベタな子だった(笑)。

ちなみに、人形部門では足遣いの稽古だけで2年間の研修が終わるという。恐らく、太夫、三味線もそのようなレベルで研修を行うのだろう。あとは師匠方に入門後に、師匠や先輩についてその一門のやり方で、足、左、最終的には主を遣わせてもらえるまで、みっちり修業ということに。

今ではすっかり定着している研修制度だが、開始当初は、教える側の師匠方が授業形式での稽古というものが初体験だけに、色々と試行錯誤もあったらしい。人形の足遣いひとつでも一門でそれぞれ教え方に違いがあり、統一したものがなかったという。まあ、そりゃそうだろう。伝統芸能に限らず、新人育成とは、そういうもんだろう。しかし、教える人によって言うことがバラバラでは、研修にならんということで、年月を重ねるうちに、「少なくとも、コレ」というカリキュラムのようなものが出来上がったのだという。

思えば、織田作之助の『文楽の人』で名人たちが語るような修業の世界は、もはやないし、金輪際ありえないだろう。第一、教える側がそういう環境で育っていないし、蹴られたりどつかれたりして覚えて行くなんてのは、そもそも時代に受け入れてもらえない。その流れがいいのか悪いのか、部外者の小生にはなんとも言えないところだが。

とにもかくにも、時間にしてわずか1時間ほどだったが、これまで非公開だった研修が一般に公開されたのは意義深い。今回は文楽劇場オープン30周年記念事業の一環として開催されたわけだが、できれば今後も継続してほしいと思う。高校生や中学生の課外授業の一環として、見学希望者を受け入れたりするのもいいかもしれない(ほんとうに限られた人数になると思うけど)。舞台を見てもらう以外の部分でも、すそ野を広げるためにも。

なお、3人の「卒業検定」とでも言うべき「第26期文楽研修修了発表会」が、1月28日(水)、文楽劇場で行われる。こちらは一般に公開、全席自由の入場無料。行きたいね。でも平日と言うのが…。

(平成26年11月23日 日本橋国立文楽劇場)


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