【上方芸能な日々 文楽】夏休み特別公演/第2部・名作劇場

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念
平成二十六年
夏休み特別公演 第二部

文楽劇場では夏休み公演が始まっている。本公演では、このところはずっと二部制での公演が続いているが、文楽劇場開場当時、すなわち30年ほど前には、三部制での公演もあったと記憶。どっちがいいのか賛否が分かれるところだが、長編作の通し公演でも無い限り、三部制が好ましいようには思う。

夏休み公演は、三部制。第一部は子供向け、第二部は「名作劇場」、第三部は「サマーレイトショー」。「レイトショー」と言いながらも午後6時開演では、時間に間に合う人は限られているだろう。これで9時までには終演するわけだが、帰りの交通機関なんかを考えると、もうこれが精一杯の「レイトショー」なのかもわからん。香港みたいに、どれほど遠くても1時間程度、公共交通(バス、ミニバス)がほぼ終夜運行という条件なら、午後8時開演なんてのも普通だけど、日本じゃそうもいかないしね…。むつかしく、悩ましいところだろうな…。

まあ、そんな心配は劇場にしてもらうとして、まずは第二部を観てきた。第一部の「親子劇場」は完売。さぞや第二部も盛況だろうと思ったが、ざっと7割の入り。祭日(海の日)のお昼にこれか…。結構厳しいな。

 今年は近松門左衛門没後290年ということで、近松作品にスポットが当てられている。まずは第二部で『平家女護島』からおなじみ「俊寛」、第三部では『女殺油地獄』。意地悪な言い方すると、「なんかしょっちゅう観てる気がするわ~」。まあ、それはさておき。

平家女護島(へいけにょごのしま)

■作者:近松門左衛門
■初演:享保4年(1719)8月、大坂竹本座
*五段もの時代浄瑠璃。「鬼界が島の段」は二段目


「鬼界が島の段」

休憩時間、喫煙室で他のお客の雑談なんかを聞いていると、この「俊寛」お目当てのお客が結構いるということがわかる。それくらいに超ポピュラーな超人気演目。で、「歌舞伎はああだった」とか「能はあんな感じで」とかという会話も聴こえて来て、いかに古典芸能フリークに浸透しているかってのもわかる。

玉女はんの遣う俊寛に尽きる。いつもなら、太夫三味線の評に大半を割き、人形さんの評は後回しにっているのだが、この段については、人形陣の奮闘が際立っていた。簑助師匠の千鳥はもちろんのことで、千歳大夫にかなりの物足りなさを感じたというマイナス点を、補って余りある充実ぶりだった。その千歳はん、出だしで意気込みを感じるも、なんか最後までもたなかったなあ、ありゃまあ…。という印象。人形陣と三味線の清介のおかげで、なんとか体裁だけは保ったというのが、残念でがっかり。やっぱり、トントントーンと上手い事は行きませぬ。好きな太夫さんだけに、今回はキツイ評価してしまった。すんませんね。

この俊寛は、亡き玉男師匠の当たり役。それは弟子の玉女はんが、見事に遣い、そして来春には玉男襲名だ。歳月の重み、芸の継承の重みを感じずにはおれない。

鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)

「なんか知らんけど、『鑓の権三』よく観てるような気がする…」ってのは、あながち錯覚でもなんでなくってねえ、夏狂言の定番だし、なんて言っても、「近松三大姦通もの」のひとつだし。

■作者:近松門左衛門
■初演:享保2年(1717)8月22日、大坂竹本座
*「姦通もの」故に、江戸期の再演はなし。昭和30年に復活上演。

妻敵討(めがたきうち)」がテーマ。武家の法では、お家の秩序維持のために、本夫が姦夫姦婦を討つことが認められていたという。奥さんが不倫したら、奥さんと不倫相手の男をバッサリやっちゃっていいよ、ということだな。そりゃいいことだ。

で、松江藩家臣の笹野権三は鑓の名手で「どうでも権三はよい男」ともっぱらの評判。映画では郷ひろみが演じてたね。もう30年くらい前の話だから、「どうでもひろみはよい男」だった時代かな(笑)。で、その権三を遣うのが勘十郎はん。これは「よいものを見せてもらいました!」と声を上げたいような権三。「どうでも権三はよい男」を見事に。

床を観ると、津駒&寛治が申し分ないのは言うまでもないことだけど、「数寄屋の段」における呂勢&藤蔵が新鮮。これから先しばらくは、「住さんと織さん(源大夫師匠のことをいまだに織さんと呼んでしまいます、アタシ)が抜けた穴は埋まらんぞ~」という見方をされてしまう太夫陣。そんな中で、若い(と言っても50歳にならんとするのだが)二人がイキの良さで床を引っ張ってゆくのは頼もしいし、そうでなきゃならいわけで、御大二人の引退という厳しい状況下に明るい未来の文楽を見た気がする。このコンビ、続けてほしいなあ…。

伏見京橋で夫の浅香市之進にばっさりと妻敵討されちゃう、その女房おさゐは文雀師匠。ちょっとしんどそうな公演が続いてはいるけど、姦婦といえども武家の女房。汚らしさの一切ない、品を保った遣いようには、うならされる。

妻敵討で三味線のシンを勤めた錦糸師匠。住さんの相三味線を長く勤めたこの人、これからは誰と組むのか注目やな、なんて思ってたら…。9月の東京本公演では、なんと! 嶋さんと組むって言うじゃないかい! なんともファンタスティックなコンビでありましょうか! 早く大阪でも嶋&錦糸を見たい、聴きたい! 11月公演もこのコンビが実現しますように…。

第二部を観た限りでは、「聴く」というよりは「観る」に軸足がいってしまったのは否めない。「住大夫ロス」というわけでもないんだろうけど…。ただ、そんな時だからこそ、あえて太夫には厳しい耳で接してゆきたいなあ、なんて、また偉そうなこと言ってしまう…。

(平成26年7月21日 日本橋国立文楽劇場)



 


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