【上方芸能な日々 文楽】平成25年11月公演 通し狂言『伊賀越道中双六』第2部

人形浄瑠璃文楽
平成25年度(第68回)文化庁芸術祭主催
公益財団法人文楽協会創立50周年記念 竹本義太夫300回忌
平成25年11月公演 第2部>

一気に寒くなった今日この頃。コートやダウンを着込んで劇場へ向かう人も少なからず。

気のせいか? 文楽劇場ロビーにはロッカーが増えた? 10円で利用でけることもあって、これからのシーズン、かさばるアウターを預けておくには便利ではあるわな。大きな劇場にはクロークのサービスをしてくれるところもあるけれど、そこまでをこの劇場には期待していないので、ロッカーが増設されたのが気のせいでないとすれば、それはそれで特筆すべき「改善」ではないかと思う。あ、気のせいで無く、「昔からそうですョ!!」ということなら、ごめんね。

201311bunraku_posterさて、久々の「通し上演」となった『伊賀越道中双六』の後半を見て来ました。前半の山場、「沼津」で住大夫師匠の至高の語りに感動したけど、「仇討もの」である以上は本懐を遂げる場面をしっかり見届けたいというのが、人情というもの。

公演開始直後は、夜の部の入りが寂しいということだったけど、さすがに昼の部見た人が「仇討、見届けてやろやないか!」と思ったのか、この日は平日ににもかかわらず、7割程度の入り。

アタシはと言いますと、またもや当日券でラッキーなことに、床のまん前の席をゲットできたのであります! そうか、ここでここ数年の幸運を使い果たしてしまったか…、みたいな複雑な心境ではありますが(笑)。

それはさておき。
例によって、「三流見物人」による、勝手なあれやこれやをざっと記しておきますね。

藤川新関の段
引抜き 寿柱立万歳
掛け合いが楽しいこの段。通しで伊賀越は21年ぶりって言ったけど、その21年前の床のメンバー見てみると、

助平:咲大夫、志津馬:三輪大夫、お袖:貴大夫、ツレ:南都大夫、文字栄大夫、新大夫
三味線・清介、八介、清二郎(現・藤蔵)、清太郎、団市

このときの引抜きは「団子売」。咲さんの助平が相当強烈だったのが、記憶に残っている。その咲さんも今や切場語り。さらに、もう文楽の場にいない名前も多々あって、21年の歳月をひしひしと感じるねぇ…。

今回はどうか? 助平(三輪大夫)はハマってるなと感じたけど、総体的には、多分20数年後に「あのときは…」って思い出せるほどではなかった、、かな?

ってか、今後、伊賀越が通しで上演される機会がまたあるのか? 小生はそれくらい、文楽の現状には危機感を抱いているんだ…。

寿柱立万歳は拍手。床、人形共にバッチリ。

助平は人形(紋壽休演につき、玉也代演)の動きもよく。

竹藪の段
床は御簾内にて。「円覚寺の段」で絶賛した靖大夫、御簾内ながらここでも存在感アリアリ。顔が見えなくても、番付見なくても「あ、これ靖やな」と思わせれば、シメたもの。すでにその段階。これは完全に一皮むけたな。

岡崎の段
長丁場。床が4回入れ替わる。
中:芳穂大夫、清馗
次:呂勢大夫、宗助
切:嶋大夫、富助
奥:千歳大夫、團七

嶋さんはさすがで、床のまん前の席で、これでもかの浄瑠璃シャワーを浴びせかけてくれのだけど…。呂勢と千歳はその片鱗を見せてはくれたが、嶋さん以外は、うう~ん、というところ。嶋さんの良さに割を食らったと言ってあげるべきかな?

嶋さんは、政右衛門、お谷の心象描写の細微に至る表現に圧倒されまする。ああいうのを、わずが1.5メートル程右横の壇上から、顔真っ赤にして汗みどろで語られると、もう、その場にひれ伏してしまいたい気分になるし、ならない人はいないだろうよ。

で、結局そういう語りに圧倒されてしまって、他の3人がかすんでしまうのだけど、それでは困るので、やっぱり大先輩に食らいついてゆく根性のある太夫になってほしいんだ…。

人形では、藤川~岡崎に至るまで、お袖の文雀師匠の存在感。これは忘れ難いものになると思った。政右衛門(玉女)は、これまた終始カッコよろしい。

伏見北国屋の段
英大夫、清介
聴き心地の良いというか耳当たりの良いというか、それが英はんのいいところであり、物足りないところ。これはその日の聴く方の心の具合によって変化するから、厄介。

この日は、ちょっと後者だったか、俺。「岡崎」が後半のメーンではあるけど、「北国屋」も大事な場面。「さあ、いよいよ仇討だぜ、伊賀の上野へGO!」って場面だからねぇ…。そういう意味では人形陣が大奮闘。志津馬の清十郎、仮病から一転、すっくと立ち直るサマが、見ている側を安心させてくれる(筋はわかっていてもねw)、玉女はんの政右衛門も呉服屋十兵衛(和生)も、終始カッコイイし、桜田林佐衛門(文司)は悪者感たっぷりだしなあ。

しかし…。いつの間に志津馬は、沼津ではお米として両親のもとに身を寄せていた傾城瀬川と合流していたんだ? 俺、何か見落としていたの? どういう流れで、経緯で? 教えて、近松半二さん!

伊賀上野敵討の段
さあ、ついについに仇討場面ですよ!

和田志津馬が父・行家の仇を打つべく、沢井股五郎をやっつけるってのが、この物語の筋ではあるけど、実際は、唐木政右衛門の物語ですわな(笑)。カッコイイところは、全部、政右衛門くんが持って行って、志津馬くんは酔っ払ってたり、仮病と言いながらも、傾城瀬川に「すまんのう、えらい思いさせて~」ってな場面ばかり目立ってねえ(笑)。「行け~、志津馬!やっちゃえ~~!」と、応援してやりたいところ。もちろん、志津馬くんがとどめを刺すんだが、ここでも政右衛門が、見栄を切っていて目立っているという(笑)。

まあ、映画でもテレビドラマでも「伊賀の仇討もの」はしょっちゅうあるわけだが、いずれもが「荒木又右衛門」のストーリー。渡辺数馬が主人公なんて作品は、あったかなぁ?

いずれにしろ、朝からずっと通しで見ていたお客さん、ご苦労はんだした!

恐らく、沼津と岡崎は幕見でもう1回は見ると思います。それ以外は…、ちょっと検討。

IMG_0765.jpgblog
いつも楽しい、1階ロビー正面の芝居絵

第1部、第2部の雑感を通して、ある程度感じてもらえているかもしれないけど、人形は、かなり良かったのです。簑助、文雀の両巨頭は言うまでも無く、勘十郎、玉女、和生、清十郎ら、いよいよ油が乗って来た世代に、若手の充実感も伝わってきた。なんかエエ感じやな~と。

一方で、これはもう何年も前から訴えているけど、床、とりわけ太夫陣には危機感が溢れている。たしかに、住さんの千本松原、嶋さんの岡崎は、現在の文楽で最高級のものを聴かせてもらい、お腹いっぱい、胸いっぱいになったのは事実。とは言え、90歳に及ぶ住さん、80歳を裕に超える嶋さんが、こうして老体に鞭打ちながら渾身の芸を披露する状態に、いつまでおんぶにだっこしているのか太夫陣!ということに尽きる。

住さんに泣かされたのは、芸や話の内容もさることながら、1年前は脳梗塞のリハビリに励んでいたこの人に、ここまでのことをさせざるを得ない太夫陣の、もっと言えば、文楽の現状に涙が出てしまったと言える…。これじゃ、あかんだろう…。

なんだか、毎度毎度、苦言が多くてイヤなんだけど、雑感としては、これが一番記録しておきたいことなので。「住さんよかったわ~、嶋さんさすがやわ~、人形もカッコよかったわ~、●●大夫くん男前やんかいさ!」では、何を観てきたのか聴いてきたのか、ってことになるしね。

さてさて。

今回、第2部観劇者全員にもれなく、超素敵なプレゼントが!

IMG_0767.jpgblog昭和59年11月公演で作成された「伊賀越道中雙六」の復刻版。勘亭流文字は二代桐竹勘十郎、画は吉田簑太郎(現・桐竹勘十郎)という、親子合作もの。これは貴重であるし、素晴らしいプレゼントだ。欄外には各段のあらすじもあって、見て楽しく読んで楽しく、恐らくは遊んでも楽しい双六。昔の子はこういうので遊びながら、名作のストーリーを覚えていったのかもしれないね。羨ましい時代があったんだなあ…。

もう1回、第2部に行って、もうひとつもらうってのもいいかもね、などと(笑)。

こういうのん、もっともっと広報せなあかんわ、劇場は。このへんが下手くそねん。

(平成25年11月14日 日本橋文楽劇場にて)


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